主張
賃上げ目標
「強い経済」をつくる真の方向
安倍晋三首相は施政方針演説で、「働く意欲のある人たちの仕事を創り、頑張る人たちの手取りを増やす」ために、世界一の「強い経済」をめざすと繰り返しました。「世界で一番企業が活躍しやすい国」をつくって、企業の利益が回復すれば自然に雇用が増え、賃金が上がるという主張です。
企業の利益が上がるだけでは雇用や賃金の改善に結びつかないことは、第1次安倍内閣を含む2002年から07年にかけての景気拡大期に雇用が悪化し、賃金が下がった事実が証明しています。同じ誤りを繰り返してはなりません。
雇用・賃金に回らない
日本経済は、02年2月から07年10月まで戦後最長といわれる69カ月連続の景気拡大を記録しました。大企業はこの間に内部留保を61兆円も積み上げています(資本金10億円以上の金融・保険を除く企業。全労連・労働総研調べ)。しかし働く人の賃金は総額で02年の207・9兆円から07年の201・2兆円に6・7兆円減りました(国税庁「民間給与実態統計調査」)。大企業の利益が賃金に回らなかったどころか、逆に減らされたのが実態です。06年9月から1年間は安倍内閣でした。
なぜこんなことになったのか。経団連の「経営労働政策委員会報告(06年版)」をみると、景気拡大局面は「戦後の好況の平均期間を超えるに至っている」とのべています。しかしグローバル化の進展で「事業環境は常に予断を許さない」として、「横並びのベースアップはもはやありえない」「安易な賃金引上げは将来に禍根を残す」と、逆に抑制姿勢をきびしくしています。こうして利益の一部を賞与・一時金で配分するだけで、賃金コストの削減を強化したのです。
見逃せないのは、この時期に雇用が強い打撃をうけたことです。雇用は、1995年に当時の日経連が「新時代の『日本的経営』」という提言を出し、一部の基幹社員を除いて非正規雇用化する方針を打ち出したのをきっかけに、正社員を非正規雇用に置き換える動きが急速にすすみました。
労働法制の改悪が同時進行し、労働者派遣の原則自由化(99年)、続いて製造業務での解禁(03年)、契約労働の制限期間延長(同年)など集中的に改悪されました。この結果、00年に26%だった非正規雇用者の割合が07年には33・5%にまで激増しました(総務省「労働力調査」)。働いてもまともな生活ができない低賃金の「ワーキングプア」が社会問題になり、「日雇い派遣」「偽装請負」など人間使い捨てが横行しました。
国民にとって「実感無き景気回復」といわれた財界応援の政治が07年の参院選挙で批判され、第1次安倍政権は崩壊しました。
経済危機招いた反省を
安倍内閣は、企業が高収益をあげた時期に、雇用が破壊され賃金が下げられ、消費が落ち込んで、「デフレ不況」といわれる経済危機を招いたことを想起し、反省すべきです。そのうえで明確な賃上げ目標をもち、労働法制の規制緩和を改め、非正規雇用労働者の待遇改善と正社員化への流れをつくるべきです。中小企業への支援措置をとって最低賃金を時給1000円以上に引き上げること、賃上げ政策と逆行する公務員賃金の引き下げ撤回などの方向こそ「強い経済」をつくることになります。