TPP参加は公約違反 政府は断念を
参院予算委 紙議員の質問
19日の参院予算委員会で日本共産党の紙智子議員がおこなった質問は次の通りです。
紙 自民公約は六つがセット 全部守ると約束せよ
首相 念頭に置いて首脳会談臨む
紙智子参院議員 日本共産党の紙智子です。さきの総選挙で、自民党はTPP(環太平洋連携協定)について、「聖域なき関税撤廃が前提である限りTPP参加は反対」を含めて全部で6項目の公約を示して政権復帰されました。
しかし、衆議院予算委員会で出された政府統一見解は、この1番目の「聖域なき関税撤廃を前提とする限り、交渉参加に反対する」という1項目だけで、それ以外の2項目から下のものは含まれていない、落ちている。なぜ1項目だけになっているんでしょうか。
安倍晋三首相 予算委員会では、聖域なき関税撤廃とは何かということについて、そこに書いてある1項目めについて質問されたわけですので、聖域なき関税撤廃ということについて政府の見解を示したものであります。
紙 国民向けにされた公約では、六つがセットになっているんですよ。1項目しか政府統一見解として示されないということになると、国民から見ると、“どうしたんだ、あれ、公約は違ったのか”という話になるんじゃないんですか。おかしいんじゃないですか。
首相 聖域なき関税撤廃と安倍さんが言ったその定義は何かと、こう聞かれたものですから、その定義をお示しをしたと、こういう経緯でございます。
紙 六つのことをワンパックで承認されてこそ参加に至るんだろうなと、それがクリアされなければ参加にならないんだろうなというふうにみんな受け止めているわけですよ。ワンパックじゃないんですか。
首相 自民党からもこの6項目について申し入れがなされているわけでして、そのことも念頭に入れて首脳会談に臨むということは既に申し上げている通りであります。
紙 林農水大臣は2月12日の閣議後の会見で、この公約の6項目を堅持されない限り交渉に参加するのは厳しいというご認識を示されておりますよね。
林芳正農水相 6項目、このそれぞれの項目に明白に反することがあれば、交渉に入っていくということは極めて難しくなる、そういうことを申し上げました。
紙 総理は、六つの項目を全てクリアしなければ参加交渉に入れないというお考えでよろしいですか。
首相 われわれが選挙でお約束をしたことはたがえてはならないということはもう何回も申し上げてきた通りであります。
紙 JAの皆さんなどもこれまで何度も、再三にわたって6項目全てをちゃんと守っていただきたいと。これに対しては、はっきりと約束するというふうにおっしゃられるということですか。
首相 これは国民に対してわれわれが約束をしたことでありますから、しっかりと守っていきますよということは申し上げたところでございます。
食の安全基準も米国に合わせるのか
紙 6項目の4番目に「食の安全安心の基準を守る」というのがあります。これは、TPPの二大原則、例外なき関税撤廃ということと、もう一つは非関税障壁の撤廃というのがあって、この非関税障壁にかかわるところです。この非関税障壁というのは、アメリカから見ますと、貿易の障害になることはすべて非関税障壁にされかねない意味合いも持っているわけです。
この4番目の項目だけを取ってみても、一つには残留農薬の規制緩和という問題があります。農薬の残留基準について輸出国の基準を適用するように求めています。アメリカの基準に合わせよというふうに言っているわけです。それから二つ目は、食品添加物の使用緩和についても、日本で認められている食品添加物は832品目あります。アメリカで認められているのは3000品目があり、これを認めなさいということになるわけです。三つ目に、ポストハーベスト(収穫後)の農薬も日本では禁止されていたんですが、アメリカからずっと解禁を求められているわけです。それから四つ目に、遺伝子組み換えの表示義務、これについても日本で行っている表示義務もこれは非関税障壁だというふうに言って訴えられる可能性も指摘されているわけです。それから五つ目に、米国産牛肉の輸入規制の緩和。これらも食の安全安心の基準を守るというところに含まれるわけですけれども、これらについて総理はどのようにお考えですか。
首相 まだ参加をしていないわけでありますから、そういうことについての交渉はされていないわけですが、基本姿勢としては、1項目めから6項目めまでを含めて、それを踏まえなければならないと思っております。当然、食の安全の基準についてもその中に含まれるわけであります。
紙 既に米国産牛肉についてもTPPの先取りで検査を20カ月齢から30カ月齢に緩和しているわけです。消費者の選ぶ権利さえも奪われてしまう問題で、食の安全を脅かす大問題だというふうに思うんです。だからこそ自民党のこの公約の中に入れたんじゃありませんか。
首相 まだ個別の具体的な項目について深く交渉しているわけではありませんし、米側は米側の主張があるんでしょうけれども、われわれには守るべきものがあるわけでありますから、もしそういうことになったら、しっかりと主張していかなければいけないと考えております。
紙 3番目に「国民皆保険制度を守る」というのが入っています。日本医師会は、TPPにおいて将来にわたって日本の公的医療保険制度を除外することを明言すること、また、医療の安全、安心を守るための政策、例えば混合診療の全面解禁を行わないこと、医療に株式会社を参入させないことなどを個別具体的に国民に約束することについて政府に要請をしてきています。それがあるから公約の中に入れられたんじゃないかと思いますけれども、いかがですか。
首相 この皆保険制度というのはわが国の制度でありますから、この制度を揺るがす、交渉において揺るがすという考えは毛頭ございません。
規制改革会議で混合診療拡大が
紙 そのように答えられているんですが、水面下では牛肉の緩和と同じように地ならしが進んでいるんじゃないか。政府の規制改革会議では混合診療の拡大をさらに打ち出しているわけです。だから日本医師会は反対をしているというふうに思うんですね。関税をゼロにする、例外なき関税撤廃、これも農業などをはじめとして多大な影響を与えます。大きな打撃を与えるということです。この非関税障壁の撤廃という問題は国民にとってはそれこそ健康や命にかかわる、そういう大変重大な影響を及ぼすことになる問題です。関税撤廃問題だけをことさら挙げて、農業があたかも一番問題であるかのようにいろいろ宣伝されるんだけれども、そうじゃない。農業も多大な影響を受けますよ。だけど、それだけじゃなくて、国民生活のあらゆるところに影響が及ぶ、日本の主権にかかわる問題だということです。だから、自民党の党内からもそういう意見が出ているんだと思います。農業分野だけの話じゃない。国民の暮らしにかかわるあらゆる問題が非関税障壁の撤廃によってもたらされることが重大だというふうに意見が出ている。とりわけISD(投資家対国家間の紛争解決)条項など、わが国の主権を損ないかねない問題だということで公約として6項目に掲げたんじゃないんでしょうか。自民党の調査会からも政府に対して念押しがあったんですよね。どうですか。
首相 この6項目について、国民の皆保険を守って、これはまさにわが国の主権の問題ということについてはそれはその通りだろうと思いますし、食の安心、安全を守っていく、基準を守っていく、これも当然のことでありますから、だからこそこの6項目についてしっかりと念頭に置いて首脳会談に臨まなければならないと、このように申し上げたわけでございまして、いずれにせよ、この6項目を踏まえて守るべきものは守るという姿勢において、国益にかなう最善の道を求めていきたいと、求めていくという姿勢で交渉していきたいと思います。
紙 「聖域」は全重要品目を対象にするのか
首相 関税撤廃なのかどうか確認
紙 6項目踏まえるという話をするんですけれども、一体のものとしてやるということで確認をしていきたいと思います。
政府の統一見解の「聖域なき関税撤廃を前提にする限り交渉参加に反対する」ということについて聞きます。これも大きな問題があると思っております。選挙公約に掲げている聖域ということの範囲です。聖域つまり関税をゼロにせずに残す品目を設けるならば交渉に参加していくという話ですけれども、その聖域に、重要品目を全てを対象にするのか、米だけを関税撤廃の対象から外せばそれでいいと考えているのか、それとも乳製品や甘味資源や牛肉や豚肉、こういう重要品目全てについて聖域にするというふうに考えているのか。現在、高率関税が掛かっている重要品目はこれだけあるわけですね(グラフ)。総理は、例外を設けさせると言っているんですけれども、どこまで対象にするつもりなのか、お答え願います。
首相 どれとどれという個別の項目について今これを具体的に米側と交渉しているわけではありません。
念頭にないまま交渉をするのか
紙 例外を認めさせるんだという話されているわけですから、何を例外として認めさせるんですか。
首相 交渉に参加する上において、全部この聖域も設けてはいけませんと、全く関税というのは駄目ですよということになったのであれば、それは交渉できませんというのがわれわれの公約でありますから、それかどうかということであって、後はまた個別の項目については、それはまたどうなるかということについては影響等々も勘案をしながら判断をしていくということになるわけであります。
紙 21、22日と日米首脳会談をやるつもりじゃないですか。そこで話されるんじゃないんですか。麻生副総理と茂木経済産業大臣にもお聞きします。選挙のときに出されている公約を見ましたけど、同じように聖域なき関税撤廃の話を書いています。これはどういうことを想定して、ここまでの例外を守るというおつもりなんですか。
茂木敏充経済産業相 TPPに関して、聖域の範囲、今の段階で具体的なものを決めているわけではありません。自民党の政権公約で訴えさせていただきましたのは、聖域なき関税撤廃を前提にする限り、交渉参加に反対すると、政調会長時代もこういった形で作らせていただきました。
麻生太郎財務相 これを公約といたしておりますので、テーブルの上にのっけて交渉するということで、交渉するということは、初めからゼロということだったら交渉じゃありませんから、それは。
紙 何をいったい省いていくのか頭にないまま交渉するつもりなんですか。それで交渉になるんですか。
首相 今度、私が米国に参りますのは、個別のことについて交渉するということにはならないわけでありまして、さまざまな議題の中の一つは、そのTPP参加の条件について、聖域なき関税撤廃が条件なのかどうかということについてこれは確認をしなければならないと、このように考えているわけであります。
紙 交渉に参加しないという選択肢しかあり得ない
首相 いま表明することはできない
紙 TPPの根本問題についてお聞きします。林農水大臣は、2011年の11月11日の参議院の予算委員会で、当時は民主党政権でしたが、野田総理とTPP問題についてやりとりをされています。その中で、“例外措置というのは、私が知り得る限りでは、何年でゼロにするとかいう例外はあっても、関税が残るという例外はない。それをご存じですか”と質問しています。その認識は今も変わらないですか。
農水相 センシティブ品目の扱いは交渉分野全体のパッケージの中で決まる。90から95%の品目を即時撤廃し、残る品目も7年以内に段階的に関税撤廃すべきであることを多くの国が支持している。センシティブ品目の扱いは、長期間の段階的撤廃というアプローチを取るべきとの考え方を示す国が多いなどの情報が得られたということが公表されておりましたので、それに基づいて質問したものだというふうに承知しております。
紙 そのときの認識と今は変わっているということですか。
農水相 当時は、野党議員として、政府が公表された情報に基づいて、野田総理の見解をただしたということでございます。安倍政権下で、私は農水大臣としての立場でここで先ほどのような答弁として考え方を答弁させていただきました。
紙 変わっていないということですね。
農水相 特に変わっていないと思いますが、先ほど農相としては答弁したとおりということでございます。
紙 TPPは2006年に4カ国から出発しています。その協定に明記されているのが例外なき関税撤廃であり、現在の11カ国の交渉はこの協定に参加していくということで、TPP協定のさらなるレベルを上げていくという交渉になっているわけです。ですから、例外措置を求めるということはありえないことなんですね。そのことを知っているからこそ、林農水大臣は当時、民主党政権の野田総理に対して、関税が残るという例外はないんですよと言って追及したわけですよ。林農水大臣は、聖域なき関税撤廃を前提にする限りTPP交渉参加に反対と、こういう選挙公約を取りまとめられたんですよね。
農水相 昨年の3月9日付で自民党の文書を取りまとめております。当時は茂木経産大臣が政調会長で、私が政調会長代理ということでしたが、小委員長を命じられまして、何度も議論をやって、先ほど掲げていただいたような中身を取りまとめさせていただいたところでございます。
紙 ということになりますと、総理、やっぱりTPP交渉に参加しないという選択肢しかないんじゃありませんか。いかがですか。
首相 聖域なき関税撤廃なのかどうかということは確かめてみなければ分からないわけでございますので、それも首脳会談の重要なテーマの一つであると、このように認識をしております。
紙 総理は、オバマ大統領との会談で感触を得て判断するというふうに言われているんですけれども、聖域について確認するということはないんですか。
首相 聖域があるかないかということについて確認をするということになると思います。
日本の交渉参加NZは認めない
紙 ニュージーランドは、日本の交渉参加を現時点でも認めていません。なぜかというと、日本も例外を認めるように求めているからです。ニュージーランドはTPP協定の最初の原協定国です。例外なき関税撤廃の主導国でもあるわけです。ニュージーランドは米国の乳製品や砂糖の例外措置化についても反対をしている。もしそれを強行するならTPPから離脱するということも主張しています。ですから、例えば日本が米国政府の例外措置の言質を得たとしてもニュージーランドの同意は得られない、そうなると日本はTPPに参加できないんじゃないかと思いますけれども、この点で認識はいかがでしょうか。
岸田文雄外相 前政権におきまして関係国との協議を行った際、ニュージーランドからは日本の交渉参加への関心を歓迎する等の表明がありました。一方で、わが国のTPP交渉参加について引き続き検討が必要と、こういう趣旨が表明されております。TPP協定につきましては、全ての関税を撤廃することを原則とされているわけですが、最終的に即時撤廃がどの程度となるか、段階的にどれくらいの時間をかけて撤廃するか、また関税撤廃の例外がどの程度認められるか等については、現時点では明らかになっていない、と認識をしております。
紙 関税撤廃だけじゃなくて、非関税障壁の撤廃も含めて日本の主権を損なうものだ。だから国民は非常に不安に思っているわけです。自民党が示した6項目全てを満たすと、これ本当に満たすということになりますと、そもそもTPP協定そのものが成り立たないものだと思いますよ。それをもし守らないということになれば、重大な公約違反になると思います。国民は絶対それは許さないということになるわけです。21、22日と安倍総理は米国に行かれるわけですけれども、日米首脳会談でよもや参加表明などということはないということは約束いただけますか。
首相 今この場で参加表明するかしないかということをお約束することはできませんが、基本的な姿勢として、まずは聖域なき関税撤廃かどうかということを確認するわけであります。その上において、今までの交渉経過、あるいはわが国にどのように影響があるかどうかを精査し分析をした結果において判断をしたいと、こう考えております。
TPPの参加は復興意欲をそぐ
紙 はっきり約束してほしいわけですけれども、それも言えないんですかね。間もなく東日本大震災から2年になろうとしています。現地では本当に復興に向けて必死の思いで取り組んでいるわけです。漁業にしたって農業にしたって、大変なところから出発して、意欲を持ってやっている。それをTPP参加というのはそぐものになりますよ。そしていま北海道で1年間に200戸の農家が離農しています。その中には、TPPに参加するのであれば先に見通しが持てなくなると、優良な農家の若手の担い手が離れるという事態もあるわけです。ですからそれをさせてはならないと思います。美しい日本の風景を守ると、棚田を守るということであれば、それを支える農家を本当に守れるような政治に変えなきゃいけない。その点からも私は、TPPは断固として阻止をするために頑張る決意を述べまして、質問といたします。