オバマ米大統領が一般教書演説を行い、政権2期目の基本方針を示しました。長期にわたった戦争や不況に区切りをつけたとして、「危機のがれきを片付け、米国はより強くなったと自信を持って言える」と宣言しました。しかしそのトーンは言葉ほどには明るいといえないものでした。“理想”を実現するために、直面する困難をどう打開しようとするのか、大統領の手腕が問われています。
中間層拡大めざす
後年にどういう大統領だったと評価されるかが、オバマ大統領の関心事の一つといいます。再選を考える必要がなく、思いきって政策を進められる2期目、打ち出したのが中間層の拡大強化を通じた経済成長の促進です。
共感を覚える政策も少なくありません。「1%対99%」といわれる格差の広がりを前に、富裕層に増税する一方で、幼稚園からの教育の充実などを進めて、製造業での雇用を拡大させると公約しました。正規雇用の重視や最低賃金の引き上げによる貧困の克服などによる「人間らしい生活」を強調しました。温暖化対策を念頭に再生可能エネルギーの拡大にも力を入れようとしています。
同時に、輸出拡大を重点とし、環太平洋連携協定(TPP)は「米国の輸出を拡大し、米国民の雇用を支え、アジアの成長市場で対等に競争する」と、米国の国益を追求する立場にあることは厳しくみておかなければなりません。
こうした政策を描くにも、足元での与野党の対立が影を落としています。歳出を強制削減する「財政の崖」問題も抱え、オバマ大統領は国民に協力を呼びかけるとともに、野党・共和党に挑戦する姿勢を演説で繰り返しました。
対外政策に理想主義的な姿勢がみられないのも今回の特徴です。
アフガニスタンから米軍主要部隊を撤退させた後も、国際テロ組織の掃討を続けるとしたのをはじめ、テロとの戦いをアラビア半島からアフリカにいたる地域で推し進めるとしました。米国内外で厳しい批判を浴び、違法性が指摘されている無人機による殺りくをはじめ、大統領自らが1期目には廃止を公約したグアンタナモのテロ容疑者収容所を維持し続ける方針も示しました。
オバマ大統領の中東訪問計画が発表され、中東和平に背を向けているイスラエルに圧力を加えることへの期待が高まっているにもかかわらず、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしたのもその一つです。
「核のない世界」の言葉は見当たりません。ロシアとの間で戦略核兵器のさらなる削減をめざすとしましたが、この間伝えられた削減構想を実現しても、なお1000発程度を保有し、人類に大きな脅威をもたらし続けることに変わりありません。演説は北朝鮮の核実験やイランの核開発に言及しました。核兵器の拡散が深刻に懸念されるいまこそ、核兵器の廃絶に向けた大胆な挑戦が必要です。
歴史の評価は
オバマ大統領は今回の教書演説の日取りを、150年前に奴隷解放を宣言したリンカーン大統領の誕生日にあわせたとされます。オバマ氏の理想主義的な姿勢を示すエピソードですが、その色は時間とともにあせる一方です。記憶に残らない大統領になりはしないか、注視していくものです。