主張

原発新「安全」基準

事故踏まえずに安全は語れぬ

 東日本大震災の発生から間もなく1年11カ月―。地震と津波に加え東京電力福島第1原発の事故で打撃を受けた被災地は、いまだに生活の再建もままならぬ深刻な状況です。とりわけ福島原発からの放射能漏れで住み慣れたふるさとを追われた被災者は深刻です。被災者への支援と復興対策を抜本的に強化することが不可欠です。

 こうしたなか政府の原子力規制委員会(田中俊一委員長)は原発の「新安全基準」をまとめ、国民から意見募集を始めました。原発事故の原因究明も収束の対策も尽くされていません。事故を踏まえず安全を語ることはできません。

国民の意見反映の機会

 原子力規制委員会が意見募集(パブリックコメント)を始めた「新安全基準」は設計基準、炉心の損傷などシビアアクシデント対策、地震や津波に対する対策―の3本柱です。それぞれ専門家などがまとめた骨子案をもとに今月中に意見募集し、条文にまとめ改めて意見を募集、最終的には7月までに決定する段取りです。骨子案だけで200ページ近い膨大なものですが、意見募集は国民の意見を反映する重要な機会です。

 いまだ収束しない福島原発事故は、原発は未完成の技術であり、いったん事故が起きればコントロールできなくなる危険性があることを証明しました。絶対安全な原発はありえず、事故を機に「即時原発ゼロ」を求める運動と世論が国民の間で大きく盛り上がっているのは当然です。

 にもかかわらず原子力規制委員会の「新安全基準」は、新たな設計基準に合致する原発なら、シビアアクシデントや地震・津波の対策を講じることで安全が確保できる立場です。原発からの撤退を決断しても廃炉までには長い期間がかかりますが、停止中の原発の再稼働や原発の新増設にお墨付きを与えるために拙速な「安全基準」づくりがおこなわれるとすれば本末転倒です。

 実際、規制委が示した「新安全基準」の骨子案には問題が山積しています。福島原発事故は地震と津波で電源が喪失し、原子炉が冷却できなくなり、炉心が溶融して、格納容器の破損や建屋の爆発などで放射能漏れを起こしました。「軽水炉型」といわれる現在の原発の致命的欠陥ですが、新設計基準でもその基本は変えません。消防車や電源車など代替的な設備を強化するだけでシビアアクシデントは防げません。電力業界は常設の代替設備がすべて整わなくても運転を認めるべきだとの立場を表明してきましたが、骨子案はそれに沿った内容です。こんな「安全基準」では安全を保証しません。

新たな「安全神話」許さず

 地震や津波対策も問題だらけです。原発の重要設備は活断層の上には建設できませんが、「基準」は活断層の定義を「12万~13万年以降に動いたもの」という従来の定義を踏襲しています。しかも活断層は地表に「露頭」が現れていなければ、その上に原発の設備を設置できるとしました。地中に活断層が隠れていてもいつ動くかわかりません。活断層の対策が前進しているなどというのは、原発事故の深刻さを見ないものです。

 原発から撤退の決断をこそ急ぐべきです。「原発ゼロ」の立場を抜きにした「安全基準」づくりは、新たな「安全神話」そのものです。