1 総務省統計局について
総務省統計局は,日本という国の特徴をさまざまな数値の集まりとして調査・分析する部署です。たとえば,家計調査や労働力調査,国勢調査は,メディアでも報道されますので,聞いたことがあると思います。私たちの現在について,中立かつ客観的に示してくれる統計データで明らかにして,未来を作るのが総務省統計局のお仕事です。
2 統計ってなんだろう?
高橋先生から,まず統計とは何なのだろうというお話を伺いました。
現在の学校教育では,統計という言葉が出てくるのは,高等学校になってからですので,統計ってなんだろうと思う人も多いかもしれません。しかし,統計は私たちにとても身近な存在なのです。
たとえば野球やサッカーなどのスポーツでも統計は使われています。
野球ではセイバーメトリクスという統計手法が有名ですね。
サッカーについても様々な統計が取られていますが,ジュニアドクター育成塾事業を支援してくれている科学技術振興機構関係では以下の資料があります。
サッカーにおけるデータ分析とチーム強化,加藤健太,データスタジアム株式会社
これ以外にも私たちの身近なところで使われる統計として愛媛県の名産物の統計について,クイズ形式で,ご紹介いただきました。みなさんも一緒に考えてみてください。
問題1:平成28年に愛媛県が収穫量日本一の果物は?
- みかん
- キウイフルーツ
- びわ
解答は以下に色調反転させておきます。
愛媛県が日本一の収穫量を誇る果物は,キウイフルーツです!
意外だったでしょうか? おそらく,愛媛県以外の人は,愛媛といえば『みかん(温州みかん)』だと考えていると思いますが,じつはみかんの収穫量1位は愛媛県ではなく和歌山県なのです。え?和歌山県に負けているの?と考えるのは早計です。温州みかんを含む柑橘類全体の収穫量では,愛媛県は常に全国トップを走っています。
とくに愛媛県は近年,高付加価値(とても美味しい)の柑橘類の開発に力を入れています。ぜひよろしくお願いします(宣伝)。
一方で,愛媛県の収穫量が日本一の果物の消費金額は,愛媛県が1位ではないということもクイズでご紹介いただきました(どの県でしょう?ぜひ調べてみてください)。
こうした資料は総務省統計局のなるほど統計学園のあなたの地元が日本一!で調べることができます。ぜひ,あなたの地元の素晴らしい点を調べてみてください。
3 統計を使った有名人
私たちに身近な統計は,有名人も活用してきました。
3.1 福沢諭吉
日本での有名人は福沢諭吉先生です。福沢先生は早くから統計の重要性に気づき,統計を使って中立・客観的に物事を分析することで,広く世の中を理解できると述べています。
3.2 ナイチンゲールこの如く、広く実際について詮索するの法を、西洋の語にて「スタチスチク」と名く。(略)凡そ土地人民の多少、物価賃銭の高低、婚する者、病に罹る者、死する者等、一々その数を記して表を作り、これかれ相比較するときは、世間の事情、これを探るに由なきものも、一目して瞭然たることあり。
(福沢諭吉『文明論之概略』明治8年)
明治の統計学ブーム?19世紀の知識人が興奮した「最強の学問」
ハフィントンポスト
海外での有名人はナイチンゲールです。ナイチンゲールは看護師として戦地に赴いたとき,兵士が亡くなるのは戦闘ではなく,病院の衛生状態に問題があるからだと気づきました。そこで,ナイチンゲールは統計学の知識を活用して治療の改善を図ったのです。
彼女は統計に関する知識を存分に使ってイギリス軍の戦死者・傷病者に関する膨大なデータを分析し、彼らの多くが戦闘で受けた傷そのものではなく、傷を負った後の治療や病院の衛生状態が十分でないことが原因で死亡したことを明らかにしたのです。彼女が取りまとめた報告は、統計になじみのうすい国会議員や役人にも分かりやすいように、当時としては珍しかったグラフを用いて、視覚に訴えるプレゼンテーションを工夫しました。今も「鶏のとさか」と呼ばれる円グラフの一種はこの過程で彼女によって考え出されたものです。
総務省統計局「ナイチンゲールと統計」
図1 ナイチンゲールの作ったプレゼン用資料(出典:総務省統計局「ナイチンゲールと統計」)
どうでしょうか?
統計は縁遠いものではなさそうですね。
4 PPDAC
統計学を使って課題を解決する方法をご紹介いただきました。統計学は客観的なデータを使って,何がただしいのかを見極める学問です。そこで,統計学では課題を解決するためにPPDACという方法を利用するそうです。
図2 PPDACとは(出典:総務省統計局「なるほど統計学園高等部」)
PPDACとは,問題の発見(Problem),調査の計画(Plan),データの収集(Data),分析(Analysis),結論(Conclusion)の頭文字をつなげたものです。詳しくは事前解説動画で説明しています。
そこで,この方法を用いて,受講生が自分たちで客観的なデータの分析を試みました。
図3 PPDACを使って考えよう
5 愛媛県の少子化は進んでいる? -問題の発見-
総務省統計局では,日本の人口についても客観的なデータを集めています。そこで,集めたデータを使って,愛媛県の少子化が進んでいるのかを検討しました。
問題の発見:愛媛県の少子化は進んでいるかどうかを知りたい
調査の計画:
計画:
- 少子化が進んでいるかを知るためには,年齢ごとの人口データが必要だ。
- データは愛媛県だけではなく,全国とのデータがないと,くらべるための『基準』がない。
- 少子化を調べるための年齢の区分は,15歳未満(高校生以下),就労人口(高校生以上定年未満),65歳以上人口(定年後)の3つの区切りで良い。
- 総務省統計局が人口と年齢について調査しているので,このデータを使えばよい。
- 不足している知識:3つの代表値(平均値,中央値,最頻値)を思い出そう。
分析:さあ,やってみよう!
6 課題の分析 -分析-
ここでは参考に総務省統計局から15歳未満人口のデータをお借りしています。
図4 データを基に分析しよう
表1 都道府県別子どもの数と割合(出典:総務省統計局「統計トピックスNo.101 我が国のこどもの数 -「こどもの日」にちなんで- 」)
子どもの数を比べると,東京都がもっとも多いですね。
しかし,子どもの割合を比べるとどうでしょうか?
東京は11.3%ですから,愛媛県の12.2%より少ないことになります。
では,愛媛県は少子化が進行していないのでしょうか?
別の資料を見てみましょう。総務省統計局の人口推計(平成28年10月1日現在)からデータをお借りしています。
表2 都道府県別,年齢3区分別人口の割合(出典:総務省統計局「人口推計」)
数値だけではわからないときは,グラフを作ることも重要です。表1を棒グラフにまとめると以下のようになります。
図4 都道府県別子どもの割合グラフ(出典:総務省統計局「統計トピックスNo.101 我が国のこどもの数 -「こどもの日」にちなんで- 」)
それぞれが表をもとにデータを分析しました。
図6 データを分析しよう
7 話し合おう -結論-
分析した結果について,自分自身で考えることはとても重要です。しかし,自分自身だけで考えることも避けなければなりません。
図7 話し合うことが大事です
あなたが知らない考え方があるかもしれません,あなたはちょっとした思い違いをしているかもしれません。もしくは,あなたは『眼の前のゴリラに気づいていない』かもしれません。話し合うことで,新たな発見が生まれます。
図8 班ごとの結論を発表しよう
それぞれの班で結論について話し合い,班ごとに意見をまとめて発表しました。
- 愛媛県の少子化は進んでいる。
- 愛媛県の少子化は進んでいるが,他県に比べれば緩やかである。
- 愛媛県の少子化は進んでいるように見えるが,経年の推移のデータで比較したい。
8 統計ダッシュボード
どうでしたか。統計を使って調べてみたいと思ったでしょうか。
それなら,まずは体験してみましょう。
総務省統計局では,新たに統計ダッシュボードというサイトを公開しました。このサイトは日本の様々なデータを一覧で見ることができ,また,年次推移などをわかりやすく確認することができます。ぜひ,活用してください。
9 女性が活躍できる総務省統計局
今回,来松された高橋先生をはじめとして,総務省統計局は,約半数が女性の女性が活躍できる職場です。
これは統計局の設立以来の伝統で,粘り強く,誠実に数値を扱う女性を積極的に活用してきた歴史があります。学校の数学が好きで,それを将来に活用したいと考えているリケジョのみなさんは,選択肢のひとつになると思います。
10 まとめ
客観的なデータから中立な判断を下す統計学の魅力が伝わったでしょうか?
データが何を示しているのかを考えるのは,さながらパズルを解くように楽しいものです。理系や文系に関わりなく,社会に出れば統計学とは無縁ではいられません。統計学はあなたの将来にかならず必要なものです。
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