3D小説「bell」本編

■久瀬太一/8月22日/21時30分

2014/08/22 21:30 投稿

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  • bell本文08月22日
久瀬視点
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 サクラは後ろに残している。
 一歩、もう一歩。
 オレはゆっくりと王座に近づく。
 地雷原を歩くような気分だ。でも確率の問題じゃない。オレは確実にそれを踏み抜く。攻略本をみたから知っている。
 想像よりも、王座に近づいたと感じた。
 駆けだせばすぐにそこに到達できそうだった。
 オレが普段よりも狭い歩幅でまた一歩、右足を踏み出したときに、それは起こった。
 正面が爆発する。
 爆風に煽られ、オレは後方に吹き飛ぶ。尻餅をついていた。
 ふいに、ではなかった。オレはすぐさま、立ち上がる。
 そいつが現れることを知っていた。
 黒いローブの悪魔。
「英雄クゼ。また会ったな」
 不気味に割れた、無理をしなければ声だとは思えない声。
 そんなものを聞いている暇はなかった。
 オレはこの部屋で起こることを知っていて、できる限りの準備もしている。
「今度は魔力に余裕がある。逃がしはしない」
 悪魔が、軽く右手を持ち上げた。その時だった。
 炎が津波のように、四方から押し寄せる。単純に、そのサイズに驚く。炎はオレの身長の3倍はあった。思わず見上げて、足がすくむ。
 ――でも、これでいい。
 1手目はここだ。
 オレはちらりと視線を落とした、足元には、読み取りづらいけれど、白い線で「1」と書いてある。事前に石を使ってマークしておいたものだ。慎重に距離を測ったし、最短距離で走る練習もした。
 押し寄せてきた炎が周囲を取り囲む位置で止まり、一層強く燃え上がる。すぐ目の前で暴れる赤。あまりの熱に、一瞬、汗が乾いた。炎が消えて、またあの黒い悪魔がみえたとたん、新しい汗が噴き出す。
 オレは走る。もう炎をみるのはやめる。
 ――2番、緑のエリア。
 周囲で炎が弾けるのと同時に、反復跳びのように逆側に走る。
 ――3番、オレンジタイル。
 オレはこのイベントを知っている。
 オレ自身が経験するのは初めてでも、ソルたちが答えを教えてくれる。
 ――4番。左手前柱の裏。
 背後で柱がはじけ飛び、爆風が背を打った。
 石の破片が頬をかすめていく。知ったことじゃない。
 ――5番。白と黒のタイル、割れているところ。
 安全地帯が狭い。スライディングの要領で止まる。
 練習では走り出すときに、何度か割れ目に足を取られた。落ち着いて。でも次は距離が長いから迅速に。
 ――6番。水色のタイル、割れているところ。
 初めは震えていた拳が、今は落ち着いているのがわかる。
 余裕はない。夢中だった。震えている暇がないくらいに、必死だった。
 ――7番。右奥柱の裏。
 また柱が燃え上がるが、気を取られなければなんてことはない。
 リズムは一定だ。悪魔も炎も関係ない。オレはただ定まったルートを、定まった速度で移動すればいい。通学みたいなもんだ。なにも難しいことはない。無理やりにそう考えた。
 ――8番。白い床、はがれたところ。
 もう少し。あと1手。確実に。
 ――9番。右手前。柱の裏。
 次だ。
 赤い絨毯の真ん中に、大きく書いた「10」という文字がみえる。
 うつむいて、文字だけをみて、ただ走る。
 白い線を踏んで顔をあげる。
 もう目の前に、炎の波が迫っている。
 怖かった。心のどこかで、疑っていた。たった1冊の本の命を預けるようなこと、できるならしたくはなかった。
 ――いや。違う。
 オレが命を預けるのは、もっと大きなものだ。
 あの攻略本に書かれていたテキストを思い出す。

       ※

 久瀬くん信じてるよ!!応援してる!
 負けるな!ファイトーー!
 負けんじゃないぞ!負けたら承知しないからな!
 応援しています。ハッピーエンド目指して皆で頑張りましょう。
 大丈夫。ソルの攻略本だよ。
 自分を信じろ!絶対大丈夫だからな!
 八千代からコインロッカーの鍵掠め取った時を思い出せ!
 あんな感じで行けば大丈夫やれる!
 ソルを信じてくれ。こちらも君を信じるから
 君は聖夜教典上の英雄なんかじゃなくて、いまほんもののヒーローになってる!最高にかっこいいぜ!

       ※

 覚悟を決めて、白い本を床に置く。
 目は閉じなかった。
 すぐそこで炎が割れて、焦げ臭い匂いがした。
 真正面に悪魔がいる。
 オレはもう、うつむかない。
 最後だけ、まっすぐに、顔をあげて走る。
 悪魔が軽く腕を掲げた。
 正面から、炎の波が迫っていた。
 ――もう一歩。
 その中に飛び込むように、走る。
 ――もう一歩。
 目の前に悪魔がいる。
 そいつはこちらを見下ろして、笑ったような気がした。
 オレは笑わなかった。悪魔の足元で、かしずくように膝をつく。
 誰に対して。悪魔。まさか。
 黒い表紙の本を、置いた。
 顎から汗がたれて、ぽたりとその本に落ちた。
 なにか、巨大なガラスが割れるような。
 異様に高い、濁った叫び声が聞こえて、顔を上げると悪魔が身をよじりながら燃えていた。

読者の反応

空つぶ@3D小説bell参加中 @sora39ra 2014-08-22 21:31:40
塔の攻略省略された・・・(´・ω・`)  


子泣き中将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw 2014-08-22 21:31:15
って悪魔戦だー!!!!  


鬼村優作 @captain_akasaka 2014-08-22 21:31:50
なにこのかっこよさ  


aranagi@静岡ソル @arng_sol 2014-08-22 21:33:02
事前にマーク描く久瀬頭良すぎ  


ルート@私は正しました @Led1192 2014-08-22 21:35:39
@sol_3d 少女の前で石にマーキングして走ったりスライディングしたりというナゾの儀式をした勇者 


雑食人間@3D小説大阪現地愛媛遠征組 @zassyokuman 2014-08-22 21:34:17
悪魔戦!!アツい!!やっぱりソルのことを信頼してくれてると思うと感動する。 


ラピス @rapiss 2014-08-22 21:33:50
久瀬君悪魔に勝ったー!!!ソルからのメッセージで泣きそうになったのに誰だよ「大丈夫。ソル達の攻略本だよ」って書いたやつ笑ったわくそww  


空飛ぶ蜥蜴 @karashimiso477 2014-08-22 21:38:06
@marmalade0193 知らないので普通にかっこよく見えてました笑  





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お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント(  @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
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