「反則だ」
とファーブルは言った。
「反則事項の取り決めはなかった」
とオレは答えた。
「約束を破るのは悪い子だ」
そう告げると、ファーブルが言葉を詰まらせたのがわかった。
「じゃあ、こちらからは2つ、要望を出す」
事前に考えていたことだ。
「ひとつ目は、今すぐに、あらゆる意味でオレを解放すること」
動揺が残っているのだろう、普段よりも甲高い声で、ファーブルは「わかりました」と答えた。
「スマートフォンは今夜中に返してもらう約束だ。あんたが嘘つきじゃなければ、すぐに返してもらえるな?」
また。長い沈黙のあとで、ファーブルは「はい」と答える。
「じゃあ、ふたつ目のお願いだ」
「ドイルさんの居場所ですね?」
「いや」
実は、それはもう知っている。
※
一昨日のことだ。
情報元は明かせない、と断わった上で、オレは八千代に言った。
「少なくとも強硬派は、強引な手段であんたの口を割る方法を考えている。標的がオレに移り変わっていなければ、近々、あんたは奴らに捕えられる」
そのとき、八千代は爪を切っていた。
親指の爪の形を気にしながら、彼は笑って「へぇ」と答えるだけだった。
「狙ったんだろう?」
とオレは確認する。
でなければファーブルに、あんなことを言うはずがない。
――八千代はメリーに褒められる方法を知っている。
たぶんそれは、彼らにとっては無視できない言葉なのだろう。少なくともファーブルが強硬派に情報を流し、八千代を襲わせるくらいには。
八千代はまだ笑っていた。
「強硬派は、どうとでもなる。法を犯すとわかっている相手は敵じゃない。国が守ってくれる」
「でも、みさきはさらわれたままだ」
「準備が足りなかったんだ。旅には準備が必要だ。パスポートはきちんと貴重品袋にいれておかなければならない」
「わざと襲われるつもりか?」
「反対かい?」
「いや」
似たことを考えていた。
「みさきの姉と、電話で話した。誘拐された女の子の家族だ。たぶん彼女を頼れば、警察の動きも早くなると思う」
「うん、都合がいいね」
「あんたのことも紹介しておいた」
「どうして?」
「もしオレがさらわれたら、あんたから彼女に連絡を取ってくれ。八千代だと名乗れば通じるはずだ」
彼は肩をすくめる。
「オレの方が、上手くやられたふりができる」
でもオレは、バスの窓から、八千代が血を流す景色をみている。あれがやられたふりだとは思えない。
「こっちが襲われたときの保険だよ。基本的には、あんたに頑張ってもらうつもりでいるさ」
「ふうん。ま、いいよ。保険は嫌いじゃない」
八千代の表情は、苦笑に似ている。
かまわずにオレは言った。
「互いの位置が、すぐにわかるようにしておきたい」
「ああ。発信機をふたつ用意しよう」
「すぐに手配できるか?」
「明日には手に入る」
とりあえず、信じてもいいだろう。
ふと、疑問に思う。
――あの未来のオレたちは、同じ備えをしていなかったのか?
どうして八千代が血を流しても、警察はかけつけなかったのだろう?
その疑問は、次の八千代の言葉で氷解した。
「とはいえ、強硬派だけ足をとめても仕方がない」
「ファーブルか?」
「うん。余計な荷物はまとめて捨てたいな」
だが、ファーブルは自身では手を動かさない。
「どうするつもりだ?」
「ファーブルは強硬派を裏切るよ。たぶんね」
「裏切る?」
「強硬派がオレの口を割ったら、きっとあいつの仲間たちがわらわらとやってくるよ。人助けだ、なんとしても彼を救い出せ、ってね」
「それで?」
「強硬派はやっぱり警察に捕まる。その前に、ファーブルの一味がオレから聞いた情報を訊き出す。相手は『人を拉致して暴行を加えた強硬派』だからなにをしようと問題ない。ファーブルはヒーローごっこがしたいんだ。そして情報を独占する」
「なら、あんたはさっさと口を割った方がいい」
「どうかな。ヒーローは遅れてやってくるもんだよ」
八千代が切り終わった爪にやすりをかける。
「あいつらからすれば、オレは邪魔者だ。ある程度痛めつけてから助け出した方がいい。そのある程度が読み切れない」
「なら、こっちでさっさと、警察を呼べばいいじゃないか」
「いや。狙うのは、ファーブルの一味が強硬派のところに踏み込んだタイミングだ」
「どうして?」
「ファーブル側も、強硬派に暴力で負けたら意味がない。情報を独占するには、警察がくる前に、あいつらの口を割らないといけない。そのタイミングを上手く狙えれば、両方のグループの足を止められる。警察からみればどちらも悪者だ」
なるほど。
ファーブルは強硬派と八千代の足止めを狙っていて、八千代はファーブルと強硬派の足止めを狙っている。
「ボタンを押したら、SOSの信号が届くようにしておくよ。危なくなったら助けを呼ぶよ。君はそれからゆっくり、警察に連絡してくれればいい」
と彼は言った。
――その結果が、血を流す八千代か。
ファーブルを捕らえるために、ファーブルの助けをぎりぎりまで待って、ああなったのだろう。
「つまり別の方法でファーブルの足止めができたなら、さっさと警察を呼んでも問題ないわけだ」
「ああ」
爪に息を吹きかけて、八千代は頷く。
「とはいえその方法がみつからない」
※
だが、ファーブルは必ず約束を守るはずだ。
「ふたつ目のお願いはこうだよ、ファーブル」
オレは笑う。
「あんたも、あんたの仲間も、今後一切『英雄の証』に関わるな。手に入れようとすることも、話題に出すことも禁止する」
【BREAK!!/BAD FLAG-04 囚われた男 回避成功!】
かめ@kameaaa32 @kameaaa32 2014-08-14 00:01:09
反則だwwwwこれはブルスコォwwww
ふらんつ≠さんそん @Blase_Flamme 2014-08-14 00:02:36
八千代さんのフラグブレイク!!
リコリス@単冠湾泊地 @lycoris_alice05 2014-08-14 00:04:02
よぉっしゃぁあああああああ!!!!!!!!!!!!
KK @seioukk02 2014-08-14 00:07:17
ひゅー、やるね、さすが英雄
まさか、完全に手出しさせなくさせるとはお見事だね
とりあえず、これで八千代は守れたわけだ さあ、あとは15日バスと愛媛凸だけだな!!!
雑食人間@3D小説大阪現地愛媛遠征組 @zassyokuman 2014-08-14 00:09:05
電波はまだある。今のうちに久瀬くんに指令メール送っておきましょう。
少年(ベルくん) @3d_bell 8月13日
↓のメールを送ります!
桃燈 @telnarn 8月13日
@aiu_096 @3d_bell じゃぁこんな感じかな。「スマホの奪還おめでとう。15日に向けてこちらからも確認をしたいのだが、今、君とドイルとで計画していることについて教えてほしい。ちなみにファーブルとのゲームはどれも白熱した、とても楽しいひと時であったよ!」
桃燈 @telnarn 8月13日
@3d_bell さっきの久瀬君から計画を聞くメールの次に「勝負の結果として、こちらからはヒーローバッヂを埋めた大まかな場所を開示することになった。協会と競争になるので、急いでほしい」という感じで。細かい住所まで教える必要があると思う方は、このツイにリプで追加を。
桃燈 @telnarn 8月13日
@3d_bell 久瀬君にスマホが返った時のメールに追加です「強硬派がドイルを狙っているとしたら組織的なものであり、中心を担うとしたら、ダザイもしくはホールとのことである」
少年(ベルくん) @3d_bell 8月13日
@telnarn @aiu_096 【久瀬さんからの返信】
いつもありがとう。計画については、進行中だが、みんなのおかげで上手くいきそうだ。
説明は少し長くなる。
ゲームは、みていても手に汗を握ったよ。勝利おめでとう!
@telnarn 【久瀬さんからの返信】
わかった、ありがとう。
ダザイ、ホールか。そのふたりの名前は覚えておく。
八千代ならなにか知っているかもしれない。
@telnarn 【久瀬さんからの返信】
わかった、ありがとう。
大枠では、ファーブルは動けないはずだが、安心はできないな。
渋井トトロール @soukuusibui 8月13日
@3d_bell
久瀬君に「君が愛媛にいる時に越智くんたちと埋めたタイムカプセルについて聞きたい。埋めた具体的な場所や目印にした物、どんな些細な事でもいいから埋めた時の事を思い出せたら教えて欲しい」ってメールしてください。お願いします。
少年(ベルくん) @3d_bell 8月13日
@soukuusibui 送りました! 返信をコピペします!
【久瀬さんからの返信】
わかった。みんなのおかげで、とりあえず目先の障害物がなくなったんだ。
オレもそっちに集中するよ。
KK @seioukk02 8月13日
@3d_bell ベルくん、これはみんなの了解がとれたら送ってくれ (でも、なるべくなら電波が届いてるうちに久瀬くんに伝えておきたい)
今回のようにスマホを取られるなどして我々と連絡を取れなくなることがあると思う
なので、それの対策を久瀬くんにも考えてほしい
少年(ベルくん) @3d_bell 2014-08-14 00:33:37
【久瀬さんからの返信】
わかった。先週は未来のオレを通して、たぶんあの「これで完璧」のサイトで、今日は動画で連絡をとれたわけだからな。スマートフォンがなくても、方法はあるかもしれないな。
もちろんできるだけスマホをなくさないように気をつけるが、保険は大切だ。
TeamFirpfut / 南雲 @jin_nagumo 2014-08-14 00:34:46
あああ、電波切れた。。。更新来るか、、、?
※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント( @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
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