3D小説「bell」本編

■久瀬太一/8月6日/16時

2014/08/06 16:00 投稿

  • タグ:
  • bell本文
  • bell本文08月06日
久瀬視点
banner_space.png
 八千代は当然のように、ホテルのオレの部屋までやってきて、フィッシュバーガーにかみついていた。
「さっさと食えよ。アイス溶けるぜ?」
 と彼は言った。
「ああ。そりゃ大変だ」
 オレはいまいち食欲がないまま、フライドポテトを口に運ぶ。
 フィッシュバーカーの包装紙を丁寧に折り畳んでゴミ箱に捨てて、八千代はサーティワンアイスクリームのロッキーロードを手に取る。
「で? 手紙の内容は?」
「ファーブルって奴が、オレに会いたいってさ」
「どんな条件で?」
 オレは手紙の内容を要約して告げる。
「食事をごちそうしてくれるらしい。時間も場所もこっちが指定していい。向こうから来るのはファーブルひとり。こっちから行くのはオレひとり。それから、直接顔を合わせられたなら、ドイルの秘密を教えてやる、ってさ」
「オレの秘密ねぇ」
 八千代は紙コップについていた白い半透明のフタを外し、ストローを使わずにコーラを飲んだ。
「そのことは、オレには話すなって書いてなかったか?」
「書いていたさ、もちろん」
「どうして話す?」
「ファーブルって奴よりは、まだあんたの方が信用できる。そう決めた」
 オレは食欲もないままハンバーガーにかみつく。が、意外と腹が減っていたのか、ケチャップの味が妙に美味く感じた。
 八千代は笑う。
「ありがたい話だねえ。で、どうするつもりだい?」
「しばらくはあんたの指示に従う。そういう約束だ」
「君は危ういくらいに律儀だな」
「結局、そうした方が上手くいくんだ。少なくとも、オレの21年間の経験じゃね」
 利益を追求すれば正直に、まっとうに商売するしかない。世の中を上手く渡りたければ素直に、律儀に生きた方が効率的だ。オレはそう思っている。
「賢明だ。それを知らない奴らばかりが、世の中を生きづらくする」
「で、オレはどうすればいい? この手紙は無視か?」
「いや。会った方がいい」
 意外な答えだ。
「どうして?」
「奴らが知っている、オレの秘密ってのが、ちょっと気になる。それからオレと君とがあんまり仲が良すぎると不自然だ」
 オレはハンバーガーにかみついて、とくに意味もなく首を振る。
「わかった。会ってくるよ」
 とはいえ、気になっていることもある。
「今回だけは、教えてくれ。どうしてファーブルはオレに会いたがる?」
「どうしてだと思う?」
「普通に考えれば罠だ。捕らえて、強引に悪魔の居場所を聞き出したがっている」
 そうでなければ、直接会う理由がない。ただ話したいだけなら電話で充分だ。
 でも八千代は首を振った。
「いや。穏健派は嘘をつかない」
「どうして?」
「それがあいつらの、良い子の定義のひとつだからだ」
「いい子?」
「あいつらは良い子でいたいんだよ。特別なプレゼントが貰えるようにな。だから嘘はつかないし、暴力も避ける」
 わけがわからなかった。
「誘拐は、良い子のすることか?」
「あいつらの定義じゃ、誘拐じゃないんだろ。保護とか擁護とか、一見正しげな言い回しなんだよ」
「殺人は?」
「もちろん、いけないことだ」
「でもあいつらはみさきを殺そうとした」
 少なくとも先月、みさきが捕えられた廃ホテルには時限爆弾があった。
「穏健派と強硬派は思想が違う。それに、強硬派でも殺人はやっぱり禁止されている。君の彼女を殺そうとしたなら、なんらかの言い訳を用意していたはずだ」
「言い訳?」
「たとえば、彼女自身が死を選ぶように仕向ける」
 ――ああ。
 それっぽいことを、あの誘拐犯が言っていた気がする。悪魔は自ら死を選ぶ、とかなんとか。
「馬鹿げた話だ」
「ああ。馬鹿げた連中なんだ。実際のところ」
 理解することを諦めて、オレはようやくサーティワンのカップに手を伸ばす。ジャモカアーモンドファッジを選んでいたが、表面がすでに溶けつつある。
 それをスプーンですくいながら、オレは尋ねた。
「じゃあファーブルって奴は、どうしてオレに会いたがっているんだ?」
 こちらに危害を加えないなら、直接顔を合わせる理由なんてないように思う。
「たぶん、オレには聞かれたくない話をするんだろう。あるいは君を仲間に引き込みたいのかもしれない。オレを裏切らせてね」
 その程度のことなのか。
 なら、確かに会った方がよさそうだ。
 八千代は空になったサーティワンのカップをゴミ箱に放り込んで、言った。
「魔法の言葉を教えてやるよ」
「魔法の言葉?」
「もし奴らを黙らせたいような事態になれば、こう言ってやればいい。――ドイルはメリーに褒められる方法を知っている」
 メリー。――確か、今の聖夜協会でもっとも力を持つ人物だ。
「メリーに褒められるって、なんだよ?」
「あいつらはメリーに褒められたいから良い子でいるのさ」
「どうして?」
「特別なプレゼントが欲しいからだよ」
 だがプレゼントを与えるのは、センセイという人物だったはずだ。
 メリーじゃない。
「わけがわからないな」
「今はそれでいい」
 オレはため息をつく。
 八千代がなんと言おうが、ファーブルに会うのは気が進まない。
 とはいえ、今は嫌なことを避けて通れる場合でもなかった。
「高いランチでもごちそうになってくればいい」
 と八千代は笑う。
 ああそうするよ、とオレは答えて、とりあえずジャモカアーモンドファッジを食った。
読者の反応

aranagi@静岡ソル @arng_sol
そうそう、今朝8月3日のまとめしてておもったんだけど、ファーブルと一緒に現れたもう一人は名乗ってないんだよね  


KURAMOTO Itaru @a33_amimi 
@arng_sol 名乗ってないですねー.ニールの部下っぽいメガネとある誘拐犯も名乗ってないですし… 


テイル@SOL埼玉班 @Tailchaser 
ファーブル・レンブラントは穏健派、太宰が強硬派だっけ?  


tet @tet_rw 
@tos 31アイスクリーム今日までが31%オフか…  





※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント(  @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
banner_space.png
久瀬視点

コメント

コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。

いまブロマガで人気の記事

3D小説『bell』

3D小説『bell』

このチャンネルの詳細