オレンジ色のライトが、きぐるみの横顔を不吉に照らしていく。
男性とも、女性ともつかない、無機質なアナウンスが聞こえた。――次は7月27日です。
「おい、明後日じゃないか」
「ああ。いいだろう? 倍も時間がある」
「ふざけんなよ」
オレはバイトと就職活動をしたいんだ。真っ当な大学三年でいたいんだ。
バスがトンネルを抜ける。
※
窓の外にみえたのは、オレの部屋だった。
――またかよ。
どうしてマンションの3階がバスの窓からみえるんだ。
まったく、ふざけている。いまさら常識なんてものに期待もしていないけれど。
暗い時間だ。部屋の中の時計は、午後8時を指していた。その手前で、2人が向かい合っていた。
一方は、オレだ。手にはスマートフォンを持っている。それを、じっと覗き込んでいた。
もう一方は、サングラスをかけた男だ。はっきりとはわからない。だが、今日あの廃ホテルで出会った男のように思った。
サングラスはオレに拳銃をつきつけていた。――拳銃。それも、フィクションじみている。
「お前には箱を開けられなかった」
とサングラスは言った。
テーブルの上には、見覚えのある小さな箱が置かれている。あの、アタッシェケースに入っていた小箱だ。南京錠のような、不思議な鍵が、4つもついていた。
「偽物は、死ね」
発砲音。同時に、バスがまたトンネルに入った。
【BAD FLAG-03 4つの鍵】
※
しばらく口を開けなかった。
きぐるみがその不気味な顔を、こちらに近づける。
「どうだい? 自分が死ぬ姿をみるのは」
オレはゆっくりと首を振る。
「ショックだよ。もちろん」
なんてことだ。あと、たった2日で、オレは撃ち殺されるのか。
「どうすればオレは生き延びられる?」
「知らねぇよ。箱を開けるんじゃないか? さっきの話の感じだと」
「どうすれば箱を開けられる?」
「どうしてオレに訊くんだよ。オレは少年だぜ? 難しいことはなーんにもわからねぇんだ」
オレはため息をつく。どうしろってんだよ、一体。
軽い口調できぐるみが言う。
「さて、そんなことは置いといて、だ」
「オレが死ぬのがそんなことかよ」
「本番は、これからだ。バッドエンドは8月24日に訪れる」
きぐるみがそういうのと同時に、再びバスが、トンネルを抜けた。
※
今度は、道端だ。
オレはいない。――7月27日に死ぬのなら、当然か。
そこにいたのはみさきだった。
佐倉みさきが、両目を見開いて、まっすぐにこちらをみていた。
彼女の胸には赤い染みがあった。初め、それは小さな染みにみえた。だが急速に広がっていく。朝顔が咲くのを早送りでみているようでもあった。
彼女の口元から一筋、赤い血が流れて、そして。
みさきはゆっくりと、前のめりに倒れた。
【BAD FLAG-?? 8月24日】
※
オレは額に手を当てる。
――なんてことだ。
また、彼女なのか。どうしてまた、彼女が血を流すんだ?
不条理だと思った。納得できなかった。
「どういうことなんだよ!?」
思わず、叫ぶ。
だが相変わらずきぐるみは気味の悪い笑みを浮かべている。
「まずは、お前が生き延びろ。話はそれからだ」
いや、そりゃ生きてたいよ。どうしろってんだよ?
「そろそろ時間だ。また明日会おうぜ」
ときぐるみは言った。
「毎晩出てくるつもりかよ」
「毎晩ってことはねぇよ。オレだって暇じゃねぇんだ」
「お前にどんな用があるんだよ」
「子供は遊ぶのが仕事だよ」
「ロケットだろ。飛べよ」
「もちろん。どんどん飛び出すぜ」
思わずため息が漏れた。こいつとは会話が成立しない。
バスが停まり、ドアが開く。オレは席を立った。
「じゃあな」
「ああ――」
ぼそりと、きぐるみが言う。
「ソルを信じろよ」
ソル。だから、何者なんだよ、そいつは。
オレは肩をすくめてみせる。
「だんだん、信じてもいい気になってきた。でもあのスマホ、電波入ってないぞ?」
「いろいろ難しいんだよ。ソルはずっと遠い場所にいる。でも、本当に大事な時には、その声が届く」
「そんなもんか」
「ああ。そういう風にできている」
オレはきぐるみに背を向けて歩き出す。
とにかく、明後日、生き延びなければならない。
フミ@自称bell初期情報係 @ayn_l_k
こ、公式にまで大切にされなくなった久瀬(笑)死ぬことが『そんなこと』かよ!
子泣き中将@優とユウカの背後さん @conaki_pbw
まずは明後日…あの鍵の箱か
tanpopo @touyoutanpopo
よっぽど回避が難しいのか、FLAGの数が多いのか・・・
yunyanpuru @yunyanpuru
明後日までに4つのカギって…大丈夫か?
鶏肉 @nanashi_1029
ホームページ更新されたっぽい
蓮霧(れんむ)は愛領@夏休み @renmu0309
BADFLAGやっぱり増えてるな・・・
ひげ @HiGravityEdge
偽物? 何の偽物だって言うんだ? そういえば、選ばれるだの何だのスーツも言っていたな… もしや、ソルの援護を受けられる事が、選ばれるという事か?
※Twitter上の、文章中に「3D小説」を含むツイートを転載させていただいております。
お気に召さない場合は「転載元のアカウント」から「3D小説『bell』運営アカウント( @superoresama )」にコメントをくださいましたら幸いです。早急に対処いたします。
なお、ツイート文からは、読みやすさを考慮してハッシュタグ「#3D小説」と「ツイートしてからどれくらいの時間がたったか」の表記を削除させていただいております。
コメント
コメントはまだありません
コメントを書き込むにはログインしてください。