久瀬視点
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 昼食はチェーンの牛丼屋で済ませた。
 店を出て、自動販売機で微糖の缶コーヒーを買い、公園のベンチに座る。プルタブを引き開けてからあのビラの番号に電話をかけてみた。
 コール5回で、若い女性が出た。
「はい、ベートーヴェン編集部です」
 ずいぶん早口だ。それに声が大きい。
「アルバイト募集のビラを貰ったんですが」
「そう。待ってたのよ、すぐにこっちに来て」
 話がはやすぎる。
「いや、いくつか確認させてください。オレ、大学の三年で就職活動の準備とかもあるんで、ある程度――」
 そちらのスケジュールも優先できますか? と尋ねるつもりだった。
 だが遮られる。
「そんなことはどうだっていいのよ」
 オレの人生をなんだと思っているのか。
「今日は空いてるのよね?」
「はい。明日は企業合同の就職説明会ですが」
「明日なんてそんな呑気なスケジュールはどうでもいいの。人生には今日しかないの。早くこっちに来なさい。ああ、ちょっと待って、今どこ?」
 気おされて、オレは最寄り駅を告げる。
「なら駅で落ち合った方が早いわね。日給1万、食事もつく。いいわね?」
「まだ履歴書も用意してませんよ」
「過去なんてどうでもいいの。人生には今日しかないの」
「それ、口癖なんですか?」
「社訓よ」
 どんな経営をしているんだ。
「キミ、名前は?」
「久瀬です」
「そう。私は宮野。じゃあ15分後に駅前ね。西の方の出口。約束よ」
 答える前に電話が切れた。クラシックからはずいぶん遠い位置にいそうな人だ。――いや、そうでもないか。『運命』なんかは意外と似合うかもしれない。
 運命はこのように扉を叩く、と聞きかじった逸話を思い出しながら、オレは喉を鳴らして缶コーヒーを飲んだ。

       ※

 オレにはいくつかのルールがある。
 主義と言ってもいいが、大仰な言葉は好みじゃない。
 どれもささやかなものだ。
 たとえば、子供からの質問にはできるだけ丁寧に答える。たとえば、誕生日は必ず祝う。現金は贈り物にしない、自分のための嘘はつかない、約束はもちろん守る、女性は決して待たせない。
 一方的な約束は、約束だとは認めないことに決めていた。
 でも待ち合わせをすっぽかすと、女性を待たせることになりそうだ。
 オレが駅前に辿り着いたのは、15時10分を少し過ぎたころだった。
読者の反応

アンナ♡ヾノ。ÒㅅÓ)ノシ ‏@anyamix  
むむ!続きが来たとな…


amor000(ムゲン) ‏@nagaeryuuiti  
・子供からの質問にはできるだけ丁寧に答える
・誕生日は必ず祝う
・現金は贈り物にしない
・自分のための嘘はつかない
・約束はもちろん守る、女性は決して待たせない
・一方的な約束は、約束だとは認めないことに決めていた。

これ、まとめた方がいいかな?


とうしん ‏@toshin000  
@nagaeryuuiti あからさまに重要っぽいですよね。
やはり久瀬とつながるにはベル君をかいしたほうがいいってことか。 


amor000(ムゲン) ‏@nagaeryuuiti  
@toshin000 ですね。あと、なぜ、佐倉先輩の元へ行かなかったのか? ってのも気になるところです。
まぁ、一方的に招待状を送ったのなら、約束だとは認めないってことかもしれませんが。

あ、でも送っていないという可能性が高いから一概には言えないか





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