na85 のコメント

 今回のライジングの主要テーマは明治期の多くの人々の善意でつくられた明治神宮の森にも関連するので、少し森林について書きます。
 日本にある森は次の3つに分類されます。1.自然な植生に合った天然の森林、2.人の手が入った里山の雑木林、3.スギ・ヒノキなどの単一樹種を密植された人工林です。
 1.の自然な植生とは、北関東・甲信越・北陸までの北東日本ではミズナラ・コナラ・ブナを中心とする落葉広葉樹林であり、それより南西の地方ではシイ・カシなどを中心とする常緑広葉樹林(照葉樹林)です。そのような森は高木・亜高木・灌木・下草が混ざって生え、落葉などが積もって土壌は厚く、そこに生息する動物・魚・鳥・昆虫・菌類による自然な生態系ができています。全国の神社の鎮守の森はこのような状態で保たれているときに森厳な雰囲気を醸し出すと思われます。明治神宮の森は人の手で創られたとは言え100年以上も健康な状態を保っているため植生に合った森林だと言えます。
 2.は主にブナ科の木を薪・木炭などの燃料やキノコ栽培の榾木として活用したり、適度な高さで伐った伐り口から生えるひこばえを刈敷農業の有機肥料にしたりという具合に人の手を入れた里山です。そのような山村に住む人は木を伐りすぎないように節度を持って利用する知恵を持っていたはずですが、化石燃料の普及によって薪や木炭の需要が減り、交通が不便な山麓地域での細々とした農業も過疎と高齢化で行われなくなり、多くは人の手が入らない荒れた雑木林になっています。
 3.の単一人工林は、大東亜戦争の空襲による焼け野原からの復興、とくに住宅再建の木材需要を満たすため建材として利用しやすいスギやヒノキのみを日本全国の山林に植林していったことで出来上がった人工林です。それまでスギやヒノキは自然な植生の木々に混じって生えていたわけですが、麓から山頂近くの斜面まで同一樹種で埋め尽くすという設計主義的な造林は後に悲劇的な事態を引き起こしました。
 スギやヒノキなどの針葉樹は根を横に広く張り、ブナ・ナラ・カシなどの広葉樹は根を深く張るため、針葉樹と広葉樹が混ざって生えていると根が縦横無尽に張り巡らされて土壌が強くなります。低木・灌木・下草は降った雨の地面への急激な落下を防ぎ、とくに落葉広葉樹では落ち葉が多いためその分解物による厚い土壌ができ、水の土壌への滲みこみが遅くなって保水作用が強くなります。もしこれが針葉樹のみの樹林だとどうなるでしょうか。針葉樹の樹脂(松なら松脂)と抗菌物質によって生育できる菌類が少なくなり、すなわち落ちた葉や枝も分解されず土壌は薄いままであり、針葉樹の根は深く張らないため極めて弱い土壌が出来上がります。山頂近くの斜面までそのような人工林が埋め尽くしていた場合、ちょっと大型の台風が居座って大雨が続けば、あっという間に土壌の保水作用の限界を超えて鉄砲水・洪水・土砂崩れ・斜面崩壊が起こります。水害を防ぐためにダムと護岸、土砂災害を防ぐために砂防ダムを造ることを余儀なくされているわけです。※台風が巨大化するメカニズムの考察もまた別の機会に書きます。また森林に広葉樹のナラ科が多く混ざっていれば、大量のどんぐりが地面に落ち、低木や灌木にも実がなり、キノコも生え、それらがサル・シカ・イノシシ・クマなどの動物の餌として十分に供給されるため里山や人家付近に降りて食害を起こすこともなくなります。ちなみにスギやヒノキが減れば春先の花粉アレルギーを持つ人には福音となるでしょう。
 さらに広葉樹の高木や灌木が葉や実を落とし、それが動物や昆虫、菌類に分解されることによって厚い土壌ができることは他にもこんな効果をもたらします。地中には金属を主成分とする化合物が石や砂として存在しています。地中に水が滲み込んでも安定した鉱物のときには金属は溶出しませんが、生物が分解されてできる有機酸が一緒に沁み込むと金属がイオンの形で溶けて地下水に金属イオンが含まれます。生物が生きていくうえで鉄やカルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、銅などの微量の金属が欠かせません。これらの金属イオン(陽イオン)が有機酸とともに水に溶けた栄養塩類が地下水に含まれ、河川水に流れ込んだり湖の底から湧出したりすれば、川や湖で多様な生物が生きられるようになります。その水を田に引き込んだり畑に撒いたりすれば田畑に自然の生態系ができて採れる作物が栄養豊かに実ります。この地下水が河口や伏流水から海に流れ込めば海も豊かになります。例えば川や湖、農薬を使わない田んぼでは、植物プランクトンは栄養塩類を吸収して光合成を盛んに行うことで繁殖し、これを動物プランクトンや貝類が食べ、これを昆虫や小魚、小動物が食べ、これを大型の魚や鳥が食べて食物連鎖がつながります。栄養塩類の発生場所である森でも、行きつく先の海でもそこに棲む生物たちで同様の生態系が出来上がります。また海から森へ還るシステムもあります。サケやアユ、ウナギなど遡上性の魚が上流を目指し、鳥や動物がこれを捕食して食べ残しや糞を森にまき散らします。人間が海で雑魚を獲って肥料にしたり人糞を肥料にしたりした場合も、畑で虫が発生し、これを鳥や獣が食べて森に糞をばら撒き、森で植物の実を食べた鳥が里山で種入りの糞をしても生態系が繋がります。
 つまり森が健康であれば山も川も海も豊かになって豊作豊漁となり、人間の住む農山漁村の共同体が栄えるわけです。江戸期には「木一本首一つ」という具合に「魚付林」という伝統が確立していました。河畔・湖畔・海岸の森を伐採しなければ魚が豊漁になることを体験的におそらく縄文期から伝承してきたからでしょう。火山が多いこと(金属の土壌への噴出)と雨が多いこと(金属イオンを含む水を湧出)、そして歴史の知恵が伝承されてきたことにより、ひときわ豊かな土地を現代まで保つことができたと考えられます。そしてこのような生態系における水(水脈の循環)と栄養(動植物の生命でつながった環)の動きが人知を超えたカミと捉えられ、春に山から里に下り秋にまた山に還るという動線を持った穀物を実らせる社稷のカミと意識されるようになったのではないかと考えます。実りの秋にはカミ様に感謝しつつ神人共食し、翌年の豊作豊漁を予祝するような祭りが行われるわけです。
 農山漁村の共同体を復活させることは自由貿易体制から半ば離脱して農林漁業が生業として成り立つようにしなければ難しいかもしれません。しかし森を復活させる方法はあり、従って無農薬有機の農業や沿岸漁業を豊かにできる方法はあります。山林で針葉樹を伐採したあとは植生にあった木々に植え替えて広葉樹と針葉樹も混植にしていくわけです。そのためには集成板(CLT)を建材として木材需要を増やす必要があります(端材を木質バイオマス発電に利用)。混植した場合どこにどれだけ育った針葉樹がどのくらいあるかを把握し、木材需要とマッチングする森林官や森林マイスターの資格整備が急務となります。土砂災害を根本的に防ぐ目的で急ピッチで進めるためには公共投資として人工林の自然樹種への植え替えを行うしかないでしょう。土壌の有機塩類を含んだ水が地下水に流れても、河川が三面張りコンクリート護岸では水を引いた田畑も河口の海も豊かになりません。森の混植が進んで保水作用を備えた緑のダムが完成したら川の護岸もダムも必要最低限を残して撤去し、木と石と土による近自然工法と魚付林で流れを調節し、海岸の護岸も植生に合った魚付林に替えたいところです。ここまで来たら農業資源と水産資源は相当豊かになっているはずです。あとは政府が一次産業保護政策を行う決断をするだけとなります。

 実のないことを長文で書いて申し訳ないです na85

No.71 133ヶ月前

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