もし、マイナンバーカードがコロナ禍前に完全に義務化されており、それに個人の賞罰などの機微情報や移動の自由を伴う様々な社会的機能が統合されていたと仮定しよう。国家は平然と新しい生活様式に適応しない者にペナルティを与えたかもしれない。公共の福祉の名の元に、接種歴の有無で社会生活を制限することだって可能である。接触管理アプリなるディストピアの産物をなんの違和感もなく受け入れた大衆だ、それくらいはどうとも思うまい。

合理性や利便性を盲目的に追求する先にあるのはオール・イン・ワン、一元化、すなわち、「それがなかったら人生終わり」のパスポートである。模範的市民である限りは安全安心、であるがゆえに人々は、模範的市民性を強く内面化し、また他人にそれを求めるようになるだろう。これが単なる戯言でないのは、特定薬剤の接種履歴で特定政策の恩恵に浴せるか浴せぬかを極めて差別的に選定する、戯けた旅行キャンペーンを見れば明らかである。あなたは模範的市民です、だからご褒美をあげます、あれは「そういうこと」である。そして、それに本気で反発する人間になかなかお目にかかれないのが現実だ。世の多数派の人々は、息苦しい思いをしている人間の存在よりも、「模範的である我々」が恩恵を享受できるほうがずっと大事なのだろう。社会的な公正さはこうして失われていくのである。

ただ、生－権力の担い手は、所詮は凡庸な小市民に過ぎない。そこに勝機がある。理不尽に抗することを諦めてはならない。そう思いますね。