遅ればせながらですが、先週土曜日の”オドレら正気か?”無事放映できたことに、お悦び申し上げます(そばに三味線様とちぇぶさまが待機されていたようですが、こういう地道なところの貢献に、敬意を表します)。 さて、今回も、時には熱く、時にはクールに「コロナ渦」が語られていた!というのが、率直な感想でございます。私見では、現在の変異株の話題になったときに、チャットで“デルタ変医”とコメント出されていた方がいたのですが、実に本質をついていて、“お見事”という感じでございました。 それから、番組中で言及されていたことで、2つほど以下にコメント致します。 1つは、PCRの話。PCRを診断に用いる危険性は、この番組でもライジングでも何度も取り上げられておりますが、特に木蘭さんが言われていた「PCRは本来実験室で使用するもの」というのは、実験者の実感としてまったくその通りかと思います。実際には、実験に用いる遺伝子をクローニングするとか、遺伝子の機能を調べるために変異を導入することにPCRを使用しておりますが、ここではPCRによる汚染は、そんなに大きな問題とはなりません(なぜならば、PCRを回す回数が少ないからです)。ただし、実験室においてもPCRを1つの道具(primer)を用いて多数の検体を調べるような検討を行う場合には、擬陽性のことは大きな問題になることを、経験しております。 2つ目は、「ブレイクスルー感染 (Breakthrough infection)」というタームについてです。自分の理解では、ここでは「ワクチンを打った後にも、それをすり抜けてコロナが感染する」ということを意味しているのだと思います。一応英語でも書きましたように、こういうタームは、実際研究論文中でも使われているようですが、私見ではわざと意味を分かりにくくしているような気が致します。さて、これを書きましたのは、研究業界で“ブレイクスルー”といった場合には、それは「科学における既存の知見や障害となっていることを、これまでにない新しいアプローチによって乗り越えること」を指すためであります。例えば、DNAが遺伝子の本体であるというのは、いまでは当たり前のことになっておりますが、発見前当時、DNAはこの名前に由来するように、“なんだかよくわからないが、糖とリン酸がくっついて単純の構造を繰り返した巨大なポリマー”のように考えられており、とてもじゃないがメンデルが想定していた遺伝物質のはずがない、と思われていました(当時は、より複雑な構造を持ち様々な酵素反応に寄与するタンパク質が遺伝子の本体だと思われておりました)。しかしながら、当時の人が思いもよらぬ方法(DNAを粗精製して肺炎双球菌という細菌に入れると、肺炎双球菌が毒性を獲得する)で、エイブリーとグリフィスは遺伝子の本体はDNAであることを証明しました。さらに、X線回折格子などのデータ入手にいろいろ問題があったと言われていますが、分子模型を組み立てるという演繹的なアプローチにより(これもある意味斬新)、DNAの構造が実は2重らせんである、という嘘のような美しい秩序をもった構造をしていることがわかりました。閑話休題。 前置きが長くなりましたが、私見では、“ブレイクスルーは本来ポジティブな意味として使われているはずなのに、「ブレイクスルー感染」のようなネガティブな内容に使うのは、よくわからない横文字のタームを使うことにより、それがポジティブな意味であると錯覚させるためであるのか?”という素朴な疑問を、番組を見ていて感じたことであります。 それでは、次回も楽しみにおります。
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小林よしのりチャンネル
(ID:18275636)
遅ればせながらですが、先週土曜日の”オドレら正気か?”無事放映できたことに、お悦び申し上げます(そばに三味線様とちぇぶさまが待機されていたようですが、こういう地道なところの貢献に、敬意を表します)。
さて、今回も、時には熱く、時にはクールに「コロナ渦」が語られていた!というのが、率直な感想でございます。私見では、現在の変異株の話題になったときに、チャットで“デルタ変医”とコメント出されていた方がいたのですが、実に本質をついていて、“お見事”という感じでございました。
それから、番組中で言及されていたことで、2つほど以下にコメント致します。
1つは、PCRの話。PCRを診断に用いる危険性は、この番組でもライジングでも何度も取り上げられておりますが、特に木蘭さんが言われていた「PCRは本来実験室で使用するもの」というのは、実験者の実感としてまったくその通りかと思います。実際には、実験に用いる遺伝子をクローニングするとか、遺伝子の機能を調べるために変異を導入することにPCRを使用しておりますが、ここではPCRによる汚染は、そんなに大きな問題とはなりません(なぜならば、PCRを回す回数が少ないからです)。ただし、実験室においてもPCRを1つの道具(primer)を用いて多数の検体を調べるような検討を行う場合には、擬陽性のことは大きな問題になることを、経験しております。
2つ目は、「ブレイクスルー感染 (Breakthrough infection)」というタームについてです。自分の理解では、ここでは「ワクチンを打った後にも、それをすり抜けてコロナが感染する」ということを意味しているのだと思います。一応英語でも書きましたように、こういうタームは、実際研究論文中でも使われているようですが、私見ではわざと意味を分かりにくくしているような気が致します。さて、これを書きましたのは、研究業界で“ブレイクスルー”といった場合には、それは「科学における既存の知見や障害となっていることを、これまでにない新しいアプローチによって乗り越えること」を指すためであります。例えば、DNAが遺伝子の本体であるというのは、いまでは当たり前のことになっておりますが、発見前当時、DNAはこの名前に由来するように、“なんだかよくわからないが、糖とリン酸がくっついて単純の構造を繰り返した巨大なポリマー”のように考えられており、とてもじゃないがメンデルが想定していた遺伝物質のはずがない、と思われていました(当時は、より複雑な構造を持ち様々な酵素反応に寄与するタンパク質が遺伝子の本体だと思われておりました)。しかしながら、当時の人が思いもよらぬ方法(DNAを粗精製して肺炎双球菌という細菌に入れると、肺炎双球菌が毒性を獲得する)で、エイブリーとグリフィスは遺伝子の本体はDNAであることを証明しました。さらに、X線回折格子などのデータ入手にいろいろ問題があったと言われていますが、分子模型を組み立てるという演繹的なアプローチにより(これもある意味斬新)、DNAの構造が実は2重らせんである、という嘘のような美しい秩序をもった構造をしていることがわかりました。閑話休題。
前置きが長くなりましたが、私見では、“ブレイクスルーは本来ポジティブな意味として使われているはずなのに、「ブレイクスルー感染」のようなネガティブな内容に使うのは、よくわからない横文字のタームを使うことにより、それがポジティブな意味であると錯覚させるためであるのか?”という素朴な疑問を、番組を見ていて感じたことであります。
それでは、次回も楽しみにおります。