Chariot のコメント

配信ありがとうございます。
『華氏451度』は未読なのですが、「書物による表現が権力によって弾圧されている世界」が描かれているという大雑把な知識は持っていました。
ちょうどEテレ『100分de名著』が同書を取り上げるということで見てみたところ、思っていた以上に現代社会に通ずる部分が多く驚きました。
確かに今のところ、公的権力による焚書は行われていないようですが(恐らく)、それ以外の記述や描写にゾッとします。

・主人公の妻は耳にイヤホンのようなものを付け、一日中テレビから「与えられる情報」を眺め、何不自由ない生活を送りながらもうつ病を患っている。
・昇火士(ファイヤーマン)の隊長の言葉「本当は本を燃やす必要なんてない」「そもそも大衆が本を読まなくなった」「本を燃やすのはエンターテインメントだ」。

どちらも現代日本にそっくり当てはまる要素ですよね。
出演者の伊集院光(この方の知性溢れるコメントにはハッとさせられることが多い)は「70年前に書かれた作品だということを忘れてしまう」とおっしゃってましたが、まさにそれです。
私は本作は言論弾圧だけを描いた作品だと思い込んでいたため、このディストピアに到る過程として、マスメディアの普及と大衆の白痴化に言及していたことに驚愕しました。
同番組で過去に取り上げていたハヴェルの『力なき者たちの力』は、権力によって発禁処分とされたものの、レジスタンスらによって地下で回し読みされていたのだそうですが、そういった力づくの弾圧とはかなり様相が異なる。
端から大衆は本を読む気がなく、与えられた娯楽や情報に満足しているので、権力はこれ幸いとばかりに焚書を実行し、大衆はそれを見て楽しみながら自分たちが「正しい側」にいることを確認している(まるでワイドショーを見ているかのごとく)、というような歪みっぷり。
「質より量・スピード・お手軽さ」を追求し続けた現代社会の顛末がこれなんだろうな、と。
2~3年前に話題となった新井紀子著『AI vs 教科書が読めない子供たち』の内容が想起されますし、突き詰めればオルテガの『大衆の反逆』にも通じるところがあるのだろうと思います。
(以上は『100分de名著』の解説に触れて感じた間接的な私見なので、見当違いがあるかもしれません。『華氏451度』は今の読書が終わったら読みます)

こうした観点からすると、マスコミが第一権力として暴走している現状を解決するのは、一筋縄ではいかないように感じます。
もちろん、マスコミの責任は徹底追及すべきですが、大衆がマスコミを熱狂的に支持したのも事実。
そしてマスコミ側の「大人の事情」が絡んでいるのも事実。
近代以降の技術革新、それによってもたらされた大量消費社会、市民の大衆化など、様々な要因が地続きになっており、マスコミのモラル欠如だけでは済ますことができないように思えてきます。
恐らく、三権分立や社会契約論といった概念が世に出た時代には想定されていない(というか、想定しようがない)混沌とした状況が極まってしまったのかな、と。
こうした状況が是正されるための方策の一つとして、「本の力」を信じるというのは私は大いに支持します。
動画は短期的な効果は上がるかもしれないけど、大衆はすぐに飽きて忘れるでしょう。
とにかくコロナ禍を終わらせる、という目的のためには仕方のないところもありますが、根本的な解決にはなり得ないと思います。
保守の立場であれば、10年20年先を見据えて、時間はかかっても「本の力」でこの国を立て直す、そのためにも出版ビジネスを買い支えていくというのが、ひとつの「あるべき態度」なのだろうとあれこれ考えを巡らせております。

No.116 42ヶ月前

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