<さいあっぷ> 新型コロナの死者数を季節性インフルエンザの死者数を比較するときは、後者については過去の死者数ではなく2020年の死者数(とても少ない)を比較対象とすべきだとする意見があります。しかし私たちは、そもそもなぜ、新型コロナと季節性インフルエンザを比較するのでしょう。 ことの始まりは2020年1月頃に、日本に「新型コロナ」という《未知の》疫病が入ってきたことでした。この疫病に対して《どの程度の対策をとるのが適切か》、それを決めるための最もオーソドックスなやり方は、過去の事例を参照することです。 この点で、季節性インフルエンザを参照するというのは、まずは妥当であると言えます。その基本的性質(症状や感染の仕方など)において、過去に国内で発生した疫病の中では、もっとも類似しているからです。そのもっとも類似した事例において、どのような対策が、どれくらいの強度で実施されていたかを参考に、新型コロナの対策を決めればよいわけです。 あらゆる点で、新型コロナが季節性インフルエンザが類似しているならば、それへの対策も、季節性インフルエンザと同様のものを採用すればよい。ところがこの二つの疫病には、小さな差異を別にすれば、一点、きわめて重要な差異がありました。疫病の発生から数か月して明らかになったこと。それは、《この新しい病気は、あきらかにインフルと比較して、死亡率(あるいは100万人当たりの死者数)が低いようだ》ということでした。 周知のように、国内における「第一波」は三月末にピークアウトし、強い感染対策が実施されるようになる4月上旬には、感染者数は急激な下降局面に入っていました。この「第一波」における死者数は1000人弱。その後、緊急事態宣言が解除された後の7月頃から、いわゆる「第二波」が来ました。 この「第二波」のとき、国内では感染対策はとられていたとは言っても、それは欧米のような厳しいロックダウンからは程遠い、緩やかな規制でした。4月以降、確かに駅などの人出は減りましたが、その一方で、朝夕の通勤電車はあいかわらず満員で、商店街やスーパーなどでは人出が増えたところさえありました(神戸市の例:https://www.city.kobe.lg.jp/documents/33729/20200428.pdf)。家庭内でも外でも、人々は食事中にはマスクを外して普通に会話していました。 中日新聞の記事(5月2日付)にはこう書いてあります。 「各地の主要駅の減少率は横浜駅で37~44%、大阪・難波駅が29~44%、神戸・三ノ宮駅で35~44%、福岡・天神駅では32~43%にとどまった。都内の繁華街では、休日の銀座や夜の渋谷駅前で80%程度かそれ以上と大きく減少。浅草・雷門や新宿二丁目、六本木は50%前後、高齢者に人気の巣鴨地蔵通り商店街は3~15%だった。」 つまり、感染を収束させるために必要だと喧伝されていた「8割減」など、まったく実現されていなかったということです。実際、4月以降に実施された感染対策は、その科学的効果が疑わしいものばかりです。それなのに、7月以降のいわゆる「第二波」から現在に至るまでに報告された死者数は3千数百人(水増し済み)。合計で、この1年間のコロナ死者は5000人弱(水増し済み)にとどまっています。(やりきれないのは、このように4月以降の感染対策は実質的効果が極めて疑わしいのに、その一方で、その社会的副作用だけは確実に生じているという点です。ご存じの通り、多くの人が仕事を失い、店を失い、文化とスポーツを失い、青春を失い、精神的・身体的健康を失い、塗炭の苦しみにあえいでいます。) 話を本題に戻しましょう。新型コロナと、これまでに私たちが経験した季節性インフルエンザの最も大きな違いは、前者の死者数が後者の死者数と比較して明らかに少ない、という点です。そうであるならば、新型コロナに対する感染対策が、インフルに対する対策よりも強力なものになるというのは、どうにも筋が通らない。合理的ではない。普通に考えて、その対策は、インフル以下のものであっていいはずだ…。 以上に示した通り、なぜ新型コロナと季節性インフルエンザを比較するかと言うと、それは過去の対策例を参照して、現在の状況に対応するためです。その意味で、新型コロナの死者数と比較するのは、同じ年(2020年)のインフルの死者数であるべきだ、という主張は、的外れなものと言わざるを得ません。 仮に、こうした主張が意味を持つとすれば、「強い感染対策が実施された2020年、インフルの発生はきわめて少なかったのに対して、新型コロナの発生はそれなりに多かった。それゆえ新型コロナはインフルよりも恐ろしい病気である」と主張する場合でしょう。 しかし、こうした主張は、不適当です。たしかに2020年、通常のインフルエンザ流行期の1・2月において、インフル死亡者の数は非常に少なかった。しかし、そもそもこの時期には、例年以上の大げさな感染対策はほとんど実施されていませんでした。この時期、マスクを付けている人は例年並みの2人に1人ほど。「三密」「ソーシャルディスタンス」などという言葉が流行するのは、まだまだ先のこと。それでも、インフルはあまり流行しませんでした(…その理由はなぜだろう、ということになって、もしかして<ウイルス干渉なのか?>という議論が出てくることになります。) そして、3・4月以降について言えば、上の述べたように、この時期以降に実施された感染対策は、社会的副作用ばかりが強いが感染を実際に抑える効果は疑わしい<ザル対策>でした。 以上の意味で、「強い感染対策がとられていた時期、新型コロナだけは感染が増えたから、新型コロナはインフルよりも恐ろしい病気である」という主張も、不適切だと考えます。 以上、ウサギでした。
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<さいあっぷ>
新型コロナの死者数を季節性インフルエンザの死者数を比較するときは、後者については過去の死者数ではなく2020年の死者数(とても少ない)を比較対象とすべきだとする意見があります。しかし私たちは、そもそもなぜ、新型コロナと季節性インフルエンザを比較するのでしょう。
ことの始まりは2020年1月頃に、日本に「新型コロナ」という《未知の》疫病が入ってきたことでした。この疫病に対して《どの程度の対策をとるのが適切か》、それを決めるための最もオーソドックスなやり方は、過去の事例を参照することです。
この点で、季節性インフルエンザを参照するというのは、まずは妥当であると言えます。その基本的性質(症状や感染の仕方など)において、過去に国内で発生した疫病の中では、もっとも類似しているからです。そのもっとも類似した事例において、どのような対策が、どれくらいの強度で実施されていたかを参考に、新型コロナの対策を決めればよいわけです。
あらゆる点で、新型コロナが季節性インフルエンザが類似しているならば、それへの対策も、季節性インフルエンザと同様のものを採用すればよい。ところがこの二つの疫病には、小さな差異を別にすれば、一点、きわめて重要な差異がありました。疫病の発生から数か月して明らかになったこと。それは、《この新しい病気は、あきらかにインフルと比較して、死亡率(あるいは100万人当たりの死者数)が低いようだ》ということでした。
周知のように、国内における「第一波」は三月末にピークアウトし、強い感染対策が実施されるようになる4月上旬には、感染者数は急激な下降局面に入っていました。この「第一波」における死者数は1000人弱。その後、緊急事態宣言が解除された後の7月頃から、いわゆる「第二波」が来ました。
この「第二波」のとき、国内では感染対策はとられていたとは言っても、それは欧米のような厳しいロックダウンからは程遠い、緩やかな規制でした。4月以降、確かに駅などの人出は減りましたが、その一方で、朝夕の通勤電車はあいかわらず満員で、商店街やスーパーなどでは人出が増えたところさえありました(神戸市の例:https://www.city.kobe.lg.jp/documents/33729/20200428.pdf)。家庭内でも外でも、人々は食事中にはマスクを外して普通に会話していました。
中日新聞の記事(5月2日付)にはこう書いてあります。
「各地の主要駅の減少率は横浜駅で37~44%、大阪・難波駅が29~44%、神戸・三ノ宮駅で35~44%、福岡・天神駅では32~43%にとどまった。都内の繁華街では、休日の銀座や夜の渋谷駅前で80%程度かそれ以上と大きく減少。浅草・雷門や新宿二丁目、六本木は50%前後、高齢者に人気の巣鴨地蔵通り商店街は3~15%だった。」
つまり、感染を収束させるために必要だと喧伝されていた「8割減」など、まったく実現されていなかったということです。実際、4月以降に実施された感染対策は、その科学的効果が疑わしいものばかりです。それなのに、7月以降のいわゆる「第二波」から現在に至るまでに報告された死者数は3千数百人(水増し済み)。合計で、この1年間のコロナ死者は5000人弱(水増し済み)にとどまっています。(やりきれないのは、このように4月以降の感染対策は実質的効果が極めて疑わしいのに、その一方で、その社会的副作用だけは確実に生じているという点です。ご存じの通り、多くの人が仕事を失い、店を失い、文化とスポーツを失い、青春を失い、精神的・身体的健康を失い、塗炭の苦しみにあえいでいます。)
話を本題に戻しましょう。新型コロナと、これまでに私たちが経験した季節性インフルエンザの最も大きな違いは、前者の死者数が後者の死者数と比較して明らかに少ない、という点です。そうであるならば、新型コロナに対する感染対策が、インフルに対する対策よりも強力なものになるというのは、どうにも筋が通らない。合理的ではない。普通に考えて、その対策は、インフル以下のものであっていいはずだ…。
以上に示した通り、なぜ新型コロナと季節性インフルエンザを比較するかと言うと、それは過去の対策例を参照して、現在の状況に対応するためです。その意味で、新型コロナの死者数と比較するのは、同じ年(2020年)のインフルの死者数であるべきだ、という主張は、的外れなものと言わざるを得ません。
仮に、こうした主張が意味を持つとすれば、「強い感染対策が実施された2020年、インフルの発生はきわめて少なかったのに対して、新型コロナの発生はそれなりに多かった。それゆえ新型コロナはインフルよりも恐ろしい病気である」と主張する場合でしょう。
しかし、こうした主張は、不適当です。たしかに2020年、通常のインフルエンザ流行期の1・2月において、インフル死亡者の数は非常に少なかった。しかし、そもそもこの時期には、例年以上の大げさな感染対策はほとんど実施されていませんでした。この時期、マスクを付けている人は例年並みの2人に1人ほど。「三密」「ソーシャルディスタンス」などという言葉が流行するのは、まだまだ先のこと。それでも、インフルはあまり流行しませんでした(…その理由はなぜだろう、ということになって、もしかして<ウイルス干渉なのか?>という議論が出てくることになります。)
そして、3・4月以降について言えば、上の述べたように、この時期以降に実施された感染対策は、社会的副作用ばかりが強いが感染を実際に抑える効果は疑わしい<ザル対策>でした。
以上の意味で、「強い感染対策がとられていた時期、新型コロナだけは感染が増えたから、新型コロナはインフルよりも恐ろしい病気である」という主張も、不適切だと考えます。
以上、ウサギでした。