Doc のコメント

先日の生放送、楽しく拝見させていただきました。
次回の放送も楽しみにしております。

放送で話題になった流行曲線がなぜ同じ形に見えるのかということですが、数学的にはこういうことになります。(よしりん先生が「運命曲線」と文学的にみごとに表現しているのに無粋だなと思うのですが、現象をなんでも数理的に考えてしまう職業病なので許してください。それから最初に断っておきますが、この話は数学トリビア以上のものではありません。)

流行曲線の山があるとして、それを頂上付近の部分、それより左の上昇部分、右の下降部分の3つに切り分けて考えます。また、実際のデータには揺らぎやノイズ等がありますので、それらを取り除いて滑らかにした大まかなグラフの概形を考えます。

まず、頂上部分は、左右対称形に近く変化がゆっくりであれば、大体同じ形に見えます。(数学的に表現すると、頂上部でテイラー展開すると2次項のみで概形が決まるということですが、ここは読み飛ばしてください。)

次に、右側の下降部分は、感染者が減っていく理由によって形が変化するところですので、状況によって様々なバリエーションがあると思います。ただし、おおよそ指数関数的に減少する(再生産数の減少によって単調に減るような)場合には次の上昇部分の説明と(時間軸を逆向きにすると)同じになります。

問題は左側の上昇部分ですが、ここは感染拡大期にはおおよそ指数関数的に上昇することが知られており(これは感染者から感染が発生するためで、高利の借金と同じです)、下図のような形をしています(このグラフは指数関数的な減少と半減期の説明のためのものですが、横軸の向きを逆にすると、今回の場合に対応します)。
http://www.phys.u-ryukyu.ac.jp/~maeno/sizensuugaku2016/hangen.png

この指数関数は、数学的な特徴として、どこで切り取っても縦軸のスケールを変えて高さをそろえると同じグラフになるという性質があります。つまり、山の頂上の高さが変わっても、グラフの形は変わらないということです。これが別の関数の場合には、例えば、直角三角形を考えてもらうと、端の方で切って、縦軸のスケールを変えて高さをそろえると、尖った直角三角形になってしまって形が変わってしまいます。そういうことがないというのが、指数関数の特徴なわけです。

そのため、上昇部分のグラフの概形は、山の高さに依存せず、山の広がりを表す倍化時間(上図の半減期に対応)のみで決まることになります。この倍化時間が大体同じであれば(もしくは横軸のスケールを調整すれば)、同じ概形に見えることになります。

ここで注意が必要なのは、山の形が山の高さ(感染者数)や位置によらないということは、形状を見ても感染者数やピーク時期の情報は得られないということです。例えば、もし仮に冬に第2波が来たとして、その時の感染者数が1000万人に及んだとしても、その時の流行曲線も縦軸のスケールを変えると第1波と同じ形になるので、概形では区別ができません。また、第1波と第2波をまとめてグラフにしても、第1波の山の高さは第2波の千分の一程度ですので見えなくなってしまい、第2波の山だけが残るため、結局グラフの形状は変わらないということになり、真のピーク時期がいつなのかはグラフの概形からは分からないということになります。

以上、無粋な話ですみません。数学好きでへぇーと思ってくださる方がいましたら幸いです。

No.278 47ヶ月前

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