Doc のコメント

普段テレビを見ないので知らなかったのですが、こんなにひどいことになっているのですね。日本の科学報道は何十年も問題視されてきて、一向に改善されないどころか悪化しているように見えます。

PCR検査の問題については難しくて判断に悩んでいるのですが、少なくとも単純に今のまま増やせばよいという話ではないと考えています。

一般に、検査・隔離というのは、医療上の利点(早期発見による抗ウイルス剤の活用等)を除いて感染抑制に絞って考えると、以下の二つの効果が見込めます。

1. 実効再生産数Rtの低下:早期隔離することで、感染してから隔離(/回復/死亡)するまでの平均時間(Tとする)が短縮され、その分だけRtが低減する。接触率を下げてRt何割減と言っているのと同じ効果。

2. 感染サイクルの時間スケールの減少:感染の時間スケールはTを単位にしているため、これが減少すると、感染拡大期には、Rt低下の効果と打ち消しあって影響が消える一方、感染収束期には収束が速やかになる効果がある(ロックダウンの期間を短くできる)。

問題なのは、今回の場合に実際にどれくらいTを減らせるのかということなのですが、この評価が難しいところです。

現状のTの値は推定が難しいのですが、大まかには10日程度とされています。また、感染から発症までの平均期間は5日程度、無症候も半分程度あり、PCR検査の感度(偽陰性)も8~9割程度(一人二か所の検体)であると言われています(偽陽性の方は0.01%程度なので無視できます)。

そうすると、Tを大きく減らすためには発症前に検査して隔離する必要があり、現在のように発症して4日以上経ってから検査するというやり方ではいくら検査をしてもほとんど効果がないということになります。また仮に発症者の全てを発症時に隔離できたと仮定しても、2~3割減にすぎず、自粛の6割減の代用にはなりません。さらに、発症者からクラスタ追跡して無症候者を探すにしても、感染者が少ない内は効果が見込めるかもしれませんが、拡大期にはとても対応できないでしょう。

全国民を2週間に一度検査する等すれば話は別ですが、現状のシステムのまま検査数を増やしても効果はないと思います。また、そもそも現在の感染研の旧式の機材と手順では検査数は大きく増やせないのではないかとも思います(諸外国並みの検査数にするには仕組み自体を更新する必要があるのでないかと)。

それから、検査数を増やさないと実態がつかめないという意見もありますが、これについては定期的に無作為抽出調査を行えばよいだけの話なので、行政検査を増やす必要はないと考えます。世界から信用される統計がないというのは先進国としてみっともないことですし、信頼が壊れることは長期的に大きく国益を損なうことになるため、調査はやるべきですが(研究調査は機材・試薬・人材共に行政検査とは別系統でできるため、負担もかからないはず)、これは別の話です。

こうして考えると、今回の場合、検査・隔離というのは、主要な対策ではなく、ロックダウン等に比べて社会コストが少ないお手軽、お得な対策にすぎないのではないかという気がしていますが、私の勉強が足りてないだけかもしれません。

No.165 48ヶ月前

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