Niels@CPH のコメント

死生観の話が出たので、つい引用したくなりました・・・。『ソクラテスの弁明』です。

『思うに、死とは人間にとって福の最上なるものではないかどうか、何人も知っているものはない、しかるに人はそれが悪の最大なるものであることを確知しているかのようにこれを怖れるのである。しかもこれこそまことにかの悪評高き無知、すなわち自ら知らざることを知れりと信ずることではないのか。』

有名な「無知の知」というやつですが、「悪法も法なり」という出所不明の言葉も広まっているので、ソクラテスの死については、彼は法を遵守するために、死さえ甘受した、かのように思われているフシがあります。

ところが実際は、彼は死を、甘受するようなもの=悪いもの、とは少しも思っていません。

死の何たるかなんて、神ならぬ人間には知る由もない。それなのに、死は悪いものだ、いや善いものだ、死にたくないとか死にたいとか、どうして思えるだろうか。思えるとしたら、自らを人間ならぬ神とする場合だけだが、僕はそんなバチ当たり者ではないのでね。

この整然しごくな論理どおりに、彼は平然と毒杯を仰いだわけですが、我ら凡人は、もちろん彼ほど論理的になれませんし、また敬虔にもなれません。生死の神秘を論理的に考えて、その神秘に畏れ入るよりも、俗な生活設計を優先してしまいます。自らが神になったつもりに、ある程度はなっているのでしょう。

世間では今、新しいウィルスに乗じて、おれは神だと叫ぶ人が多いように思えます。おれは死を知っている、死は神秘ではない、悪だと。さらには、お前も神だ、人類みんな神だと。
できるだけ騙されないように気をつけたいと思います。

No.349 54ヶ月前

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