Doc のコメント

木蘭さんのブログの疑問ですが、こういうことだと思います。

まず、何もしなければ(敢えて何も対策しないことを貫けば)、最終的な死者数は基本再生産数R0と致死率で決まって、変数の推定やモデルの詳細で値は異なりますが、(R0が世界平均の2.5でも日本の1.7でも)おおよそ数十万人規模になります。ここの計算は特に疑う余地のない部分だと思います(致死率がもっと低いのではないかという期待はありますが、今のところは何とも言えません)。

しかしながら、実際には何かしらの対策(行政レベル・個人レベル含め)が取られるため、基本再生産数は実効的に場所・時間で変化することになり、実効再生産数Rtに置き換えて考える必要があります。この時、RtをR0の何割減にするかというのが、いわゆる8割減とかいうものです。また、Rtの値を携帯端末情報等から推定しようというのが、西浦教授らの行っている研究だと思います。

Rtの値が1に近くなると、新規の感染者数と新規の回復者・隔離者・死亡者数が釣り合うようになり、現役の感染者数が一定となって、新規感染者数と新規死亡者数が一定になります(累積は線形増加)。ただし、感染してから、感染が確認されるまでに平均で2週間程度、死亡が確認されるまでに1か月程度はかかるため、データを見る際にはその分の時間差を考慮する必要があります。

これは別の表現にすると、(累積値の上昇を除けば)時間を止めるということに対応します。自粛でRtを1にできれば、その間は感染の拡大を凍結できるということです。

さらに、Rtの値が1より低くなると、現役の感染者数が指数関数的に減っていき、それに応じて新規感染者数と新規死亡者数も減っていきます。

これは時間を巻き戻すということに対応します。

例えば、通常時でRt = 1.7の時には、1.7 - 1 = 0.7の速度で感染が進むのに対して、自粛してRt = 0.7(6割減)になると、0.7 - 1 = -0.3の速度で感染が進む(巻き戻る)ことになります。この場合、自粛を1か月続けると0.3×30÷0.7で2週間弱、時間を巻き戻すことができます。

なので、自粛を続けて感染拡大前まで時間を巻き戻せれば完全に収束ということになりますが、最初に戻っただけなので第2波がくると、また同じ状況になります。

結局のところ、Rtを下げるのは一時的なものですので、根本的な解決ではなく、時間を稼いでいる間に治療法・ワクチンの開発や医療体制の整備を行うというのが本筋の狙いです(また自然増の場合には理論下限値を超えて犠牲者が出るオーバーシュートという現象があり、それを防ぐという効果もあります)。感染拡大した諸外国はそれらを踏まえてロックダウン等の判断をしているのだと思います。

ただし、西浦教授の場合には、時間を巻き戻してもう一度挑戦すれば、今度こそはクラスター対策の封じ込めが成功して第2波以降の被害は出ないと仮定しているのではないかと思われます。その仮定が正しければ(個人的には大いに疑問ですが)、このまま自粛を続けて感染拡大前まで時間を巻き戻せば、「数十万人が数百人に」という計算になるのだと思います。

小難しい話になってしまってすみません。
本日の生放送、楽しみにしております。

No.240 48ヶ月前

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