ネタバレになりますが、伊藤計劃のＳＦ小説「ハーモニー」では、それこそ、今日食べるものを栄養素まで踏まえて提示してくれるナノマシンが、人類のほぼすべてにインストールされています。健康・医療至上主義社会というやつです。この作品では、ラストに感情を廃した、個人が社会と完全に調和した世界が実現されます。選好、すなわち好き嫌いが、多かれ少なかれ世の中を動かしている。好きか嫌いかは、突き詰めれば感情論に行き着く。感情を廃すれば、人間は常に計量的で確定的な行動を取るでしょう。経済学が仮説でなく、真理になる瞬間とは、そういうものでしょうが、その瞬間、人類の歴史は終焉を迎える。