M.O のコメント

今週も配信ありがとうございます。
竹内久美子の「睾丸論」、唖然としました。
この人、20年以上前にドーキンスの利己的遺伝子論について俗っぽく解説した『そんなバカな! 遺伝子と神について』(文春文庫)という本で一躍脚光を浴びた方でしたね。
この当時、講談社ブルーバックスとかで進化論にかぶれていた私は、この本を楽しく読んでいた思い出があります。
確かに乱婚制のチンパンジーの睾丸は大きい、ということに既に触れられていましたが、そこに拘るのではなく、様々な動物による「種の保存(あるいは、遺伝子の保存)」のために奮闘する生態を面白おかしく描写していた内容だったと思います。

ところが、男性が浮気性なのは少しでも多くの遺伝子を残したいから、という考えに端を発して、シリーズ2冊目ともいえる『賭博と国家と男と女』あたりから雲行きが怪しくなります。
男性のあらゆる行動様式について、「これがあったからこそ、人類の文明は進歩したのだ!」と言わんばかりの「男性賛美」が目に付くようになります。
そして、女性については、「男性に選んでもらえるように、あれこれ画策している」という、えらく受け身――場合によっては姑息ともとれる行動様式が身についてしまった、という論調でした。
この時点で、私は竹内久美子の本は読まなくなったのですが、多分この人、すさまじいまでの「男系固執派」だろうなと想像してしまいます。

そもそも利己的遺伝子論って、庶民の一般的な幸せ――結婚とか出産とか――をことごとくシニカルかつ即物的に見てしまうものなので、これにハマると極右か極左に振れてしまうように思います。
何しろ、人間を含む生物は、遺伝子の「乗り物」に過ぎないという考え方ですから、情も何もあったものではなく、生物をモノとしてでしか見られないという恐ろしい考え方です。
その上で、遺伝子の意向に逆らわずに人生を送っていれば、少子化などが起こるはずもなく、いわゆる「伝統的な家族のかたち」が維持できるはず、という機械的な考え方に到達してしまうのでしょう。
そういう意味において、竹内と産経ネトウヨ派の両者は親和性があるのだろうと思います。

そして行き着いた先が、睾丸の大きさ(笑)!
もはや全ての行動の原点は「遺伝子を残すこと」であり、そのためにはモテなければいけないわけであり、モテるか否かも全ては物理的に決定されており、その基準は客観的に確認できなければならず、その答えが――睾丸の大きさ!(笑)
京大の生物学者で霊長類研究で輝かしい功績を残された今西錦司先生が泣くぞ。
ドーキンスも「私はそこまでは言ってない」とたしなめてくるかもしれない。

大衆週刊誌の連載コラムに、暴論じみたかたちで掲載するのならともかく、よもや『正論』に堂々と鎮座する記事となるとは、確かに産経新聞、末期的症状ですかね。

No.97 80ヶ月前

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