csusukom のコメント

アインシュタインの見識

一月半ほど前(9月30日)に,山尾議員に対する報道に関連して,キュリー夫人を襲った不倫スキャンダル騒動を思い出してお知らせしました.山尾倉持両氏の報道騒ぎは収まらないどころかさらに激しくなっているようです.そこで,思い出したことをまた2,3付け加えます.
 
キュリー夫人のスキャンダル騒動に際してソルボンヌ大学やフランスの文化大臣がキュリー夫人を全く擁護しなかったことは前回記しました.実は,2つ目のノーベル賞の際,当のノーベル賞委員会自身も,スキャンダルの勢いに怖気づいていました.ノーベル賞の授賞式にはスウェーデン王室一族が出席しますが,スキャンダル取材に殺到する記者たちによって混乱がおこることを恐れたのです.キュリー夫人に「ストックホルムの授賞式に出席してもらう必要はない.」(注:“頼むから来ないでくれ”)と通知してきたのでした.

そんな中で,今回伝えたいのはアインシュタイン(言うまでもないですが20世紀最大の物理学者,Albert Einstein)が,このスキャンダルに対する激怒を,キュリー夫人に宛てた以下の激烈な言葉で表明していることです.

“Go to Stockholm! I am convinced that you [should] continue to hold this riffraff in contempt...if the rabble continues to be occupied with you, simply stop reading that drivel. Leave it to the vipers it was fabricated for."
「ストックホルムに行くべきです.あなたは,こんな人間のくずどもを軽蔑すべきです.もし大衆があなたにとやかく言い続けるのを止めないなら,そんな戯言はいっさい無視してしまえばよいのです.そんなくだらないことは,それにふさわしい毒蛇(悪人)どもにくれてやるのです.」

このときアインシュタインはキュリー夫人より11歳年下の若干32歳.専門家の間でこそ天才として別格の位置を確立していましたが,ノーベール賞はまだだし,世間的にまだ無名の若造です.しかし,仕事柄キュリー夫人をよく知っており,自分の判断に100%の確信を持っていました.

キュリー夫人が実際にトックホルムに出かけて無事授賞式を乗り切ったことは,前回記したとおりです.(アインシュタインの助言が無くてもキュリー夫人はストックホルムに出かけたと思います.)1年半ほどのバッシング後遺症からキュリー夫人が復活した後,程なく第一次大戦が始まります.そこで(ポーランドについでの)フランスへのキュリー夫人の愛国心が燃え上がります.献身的で学者離れした縦横無人の活躍が、フランス中の庶民から上流社会まで、人々の度肝を抜き,バッシングから一転して、フランスあげての国民的英雄(女性の場合にはなんと言うのでしょう?)に祭り上げられてゆきます。

前回も書いた事を繰り返します.当時から100年あまり経った現在、キュリー夫人を「不倫疑惑の学者」と考える人が世界中に一人でも居るでしょうか。バッシング騒動が結局何だったかといえば、大衆の有名人たたき願望を発行部数の増大に利用しようとした大衆紙が、キュリー夫人を餌食にしただけ,と断言できるでしょう。無意味な馬鹿騒ぎであっても、あのキュリー夫人でさえ押しつぶされそうになったほど危険なものでした。

キュリー夫人のスキャンダルを離れて一般の我々の今の社会を考えても,毎日起こるあらゆる事柄に対して、我々は常に個人としての判断と見識を求められています。その際,まともな判断ができる人が多ければ,その社会は健全で安定でしょう。逆に、おろかな感情や判断に流される人の比率が高くなると,社会が全体の方向を誤りやすく,それが自壊に向かう危険を高めるでしょう.今回の山尾倉持両氏についての異常な加熱報道を見ていると,おおいに危機を感じますが,同時に,ゴー宣道場のような場を基点として,何とかまともな感覚の人間が増えることを祈らざるを得ません.

No.238 85ヶ月前

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