M.O のコメント

『ライジング』の感想から内容がずれてしまうのですが、青木理氏が書かれたルポルタージュ『安倍三代』(朝日新聞出版)が大変に興味深い内容だったので、この場をお借りして少し紹介させていただきます。
安倍晋三を含む安倍家三代の政治家の人物像を追ったものです。
これを読むと、安倍晋三が何故ここまで非人間的な権力者に堕落してしまったのか、ある程度のヒントは掴むことが出来ると思います。

ただ、私が驚いたのは、初代となる安倍寛(かん)という政治家の存在。
結核で身体をむしばまれながらも、平和主義と反権力を掲げ、圧倒的不利の状況だった大政翼賛体制下での選挙で勝利する、という命懸けで「公」を体現したという人物です。
現代ではほぼ忘れ去られてしまっていますが、本書で再びスポットが当てられたのはは良かったと思います。
もっとも、そのきっかけが、全く正反対のスタンスである安倍晋三、というのは皮肉ではありますが。
ちなみに安倍晋三は、安倍寛については国会で一度言及したことがあるだけで、常日頃からは「(母方の)岸信介の孫」であることを強調していたそうです。

二代目はご存じ、安倍晋太郎ですが、やはり戦時を経験しているだけあって父と同じ平和主義者。
なおかつ、社会的弱者への視線を持ち続けていたリベラリストだったそうです。

三代目となる安倍晋三は、成蹊学園時代から神戸製鋼所時代に至るまで、一貫して「素直」「可もなく不可もなし」「目立たない」「敵をつくらない」という凡庸の極みであったようです。
政治に関心を抱いていた様子がなく、政治談義をしたこともない。
神戸製鋼所時代の上司は「現在の右派思想は、政界に入ってからの後天的のもの」とした上で、
「子犬がオオカミの子と群れているうち、まるでオオカミのようになってしまった」
という絶妙な例えを語っています。

また、青木氏は昭恵にもインタビューをしており、安倍晋三の取材をしても「天賦の才」や「努力」にまつわる話が全く出てこない点について聞いているのですが……

「政治家には、すごく努力している人もいるし、天才的な人もいる。
主人はそのどちらでもないのかな、とは思います。でも、選ばれて生まれてきたんだろうなとも思う。
天のはかりで、使命を負っているというか、天命であるとしか言えないと思っていて。
(中略)
主人がいま総理大臣になっているということは、やはりなにか、主人が成し遂げなければいけないものがあり、そのための使命を与えられていると、感じていると思います」

出たっ!! 天命!!
ひょっとして、晋三も昭恵も中身が空っぽの人間で、こういうスピリチュアルなかたちでしか「自分らしさ」を得られない者同士なのではないか、だからお互い惹かれ合ったのではないか、と思ってしまいました。

安倍寛、安倍晋太郎の凄味、晋三のダメっぷり(アメリカ留学にまつわる経歴詐称についても触れられています)について知ることが出来ます。
同時に、何故、晋三のような凡庸の極みが総理大臣の座に就くことが出来たのか、こうした事態を防ぐことは出来なかったのか、について考える材料になるかもしれません。
また、世襲議員の存在が政治を劣化させているのではないか、という青木氏の問いかけについても考えることが出来ます。

No.79 90ヶ月前

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