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山田玲司のヤングサンデー 第195号 2018/7/16

「漫画で戦う」とは何か?

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僕は大学生の頃、付き合っていた彼女とケンカばかりしていた。


あまりに同じようなケンカが続くので、僕は「僕らは毎回このパターンでケンカになってる」という内容の漫画を1話分描いて彼女に読ませた。


口で何度説明してもわかってもらえないから「漫画」で伝えようとしたのだ。


そんな努力も虚しく彼女とは別れる事になるのだけど、今思うとこの時の僕の行動は、漫画家として「正しい」。


「言葉では伝わらないもの」を伝えてくれる力が漫画にはあるのだ。




先週の放送では「エンタメ」と「作家性」についての議論が盛り上がった。


漫画には「楽しませてくれるもの」と「人生を変えてくれる」ものがある。


これは漫画に限らず、映画やドラマや音楽、絵画、小説などにも当てはまる。



僕は「意味もなくくだらないもの」も好きだけれど、本当に探しているのは「自分の常識を変えてくれるもの」だ。


そしてそんなものを作ってみたいと思って生きてきた。

だから僕の創作の衝動はまず初めに「今まで信じていたものより素晴らしいものが見つかった!」という所から始まるのだ。


相手は自分とは違う常識を信じて生きている。

そのせいで不幸になってしまうこともあるのに、それを疑わない。


そういう人が「かつての自分」と重なる。

このままだとあの人は「僕が落ちた崖」と同じ崖から落ちてしまう所を想像してしまう。

崖から落ちない方法も、崖から這い上がる方法も自分にはわかっている(気がする)のに!


こうなるともう「伝えるしかない」と思ってしまう。

彼女に伝えようとした時の様に「漫画」という最高のツールを使ってそれを実行する。



そうは言っても、作り手が観る人の「常識」を覆すのは本当に大変。


人は「変わる」のが嫌いだし、多くの場合、説教も現状否定もされたくないのだ。

エンタメを求める人の多くは「そのままでいいんですよ」と言ってもらいたいのだ。


そんな人に「新しい何か」を伝えようとするなら、そのための「蜜」や「砂糖」が必要になる。

それは表面的な「現状肯定」や「エロ」や「スカッとする暴力」や「わかりやすい正義」だったりする。

自分の主張や趣味に反していても、それをやらなければステージには出られない。


僕の人生のほとんどが「この問題との格闘」に費やされてきた。