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山田玲司のヤングサンデー 第144号 2017/7/17

「自意識をぶっ壊す言葉」

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「誰得」という言葉をよく聞くようになって久しい。


僕は最近の言葉はあまり好きになれないことが多いのだけど、この「ダレトク」は悪くない。


「誰得」という言葉は最近の言葉で、「その行動はいったい誰の利益になるのか?」という意味。


感情的になって、それまでの仕事や恋愛関係を台無しにしてしまいそうな行動に出た時に「それって誰の得になるの?」なんて感じに使う。


「損得」を軸とした「功利主義的な言葉」でしょう。


でも、この言葉、使いようによっては悪くない。



それを感じたのは先週の話です。


その日僕はテレビ局にいました。

詳しい事はいずれ報告しますけど、深夜の番組で「アイドルの恋愛相談」を頼まれたのです。

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かつて僕はネットに現れた「恋愛相談のカリスマ少年がアイドルの恋愛相談を受けることになる」という漫画を描いていました。


その連載が終わって約15年。まさか自分自身がテレビで「アイドルの恋愛相談」を受けるなんて、想像もしてなかった。


そんなものは昔から出来たとは思うけど、かつての僕は「とにかく漫画で大ヒットを飛ばして、余裕が出来たら好きな事をしよう」と思っていました。


なので、今やっている「トーク番組」や「絵本」や「アニメ」などの企画は、とりあえず保留して、我慢をしたまま「漫画連載」を何年も続けていたのです。


そうなるのも仕方ない話で、漫画がヒットしないと生活ができなくなるし、何より僕は「いい漫画」が描きたかった。


漫画以外の事で収入を得るのは難しいと思っていたし、どこかで「メジャーで通用しなくなる」のが悔しかったし、落ちぶれた漫画家が仕方なく別の事を始めてる、とか思われたくなかった。


要するに「しょうもない自意識(プライド)」のせいで動けなかったのです。


なので、僕は自分が色々な事ができると知りながら、「他のこと」を試したいと思いながら長い事「漫画だけ」のストイックな生活をしていたのです。



ところが「何かを我慢しながら描いた漫画」は、人気が出ないもので、状況は更に悪くなっていくのです。


なので、僕はこのニコ生「ヤングサンデー」を始める頃「やれる事は何でもやろう」「やりたいことは挑戦してみよう」と決めたのです。


もちろんやりたいことのメインは「漫画」です。

そこに「やりたくてもやらなかったこと」と「自分に向いていると言われること」を追加したのです。


当時の僕は「自分の理想」と「自分が出来ること」と「自分がやりたいこと」の3つのバランスをとる事ができるようになってきていたのかもしれない。


そんなこんなの延長で、気がついたら漫画家本人がアイドルの恋愛相談を受けるなんていう日が来て、現実がフィクション(漫画)に追いついたわけです。


漫画という本業をずっとやってきたからこそ「余裕」でその場を楽しめる自分もいる。


そんな感じだったんです。


ところがね。



収録が始まって、今大人気のアイドルを前に「どうすればモテるか?」なんて話をしている時です。


ふいに「俺は何をやってんだ?」という意識が頭をよぎったのです。