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山田玲司のヤングサンデー 第116号 2016/12/26
「死ぬまでにやろう」という悪魔の話
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「この世界の片隅に」という凄まじい映画体験がずっと頭に残ってまして。
中でも頭に残っているのが、原作のこうの史代さんが語っていた「自分にとっての広島」についての話です。
広島で生まれ育っていたのに、ずっと向き合うのを避けてきた「原爆」について描いてみようと決めたことについて「夕凪の街」という漫画のあとがきで書いているんですよね。
「あったこと」なのに、自分を含めてみんなが忘れていく、遠い出来事になってしまっていることについて、広島の漫画家として避けることはできない、と思って描いたのが「夕凪の街」や「この世界の片隅に」だったわけです。
「私にとって避けては通れないモノ」は誰にでもあると思う。
凄く好きなジャンルだったり、それについて個人的な経験があったり、何らかの縁があったりして「いつかやらなければいけない」と思っているやつです。
「まあいつかやればいいか」なんて先送りしつつ、頭の片隅にどこかにあって「このままだと死ぬまでやれないかもよ」なんて時々自分を責めてくる「あれ」です。
ちなみに師匠の江川達也さんは教師をやっていたんだけど、教師の漫画は描きたくなかったと言っていました。
それを当時の編集者が「教師を描くなら連載させてやる」と言って、江川さんは教師ものの漫画でデビューしたわけです。
「教育」に、ただならぬこだわりを持っていて、教師を辞めた経験もある江川さんにとって「教師もの」は「避けては通れぬもの」であり、結果作品(BE FREE)は大ヒットして、彼は最高の漫画家キャリアを始めたわけです。
「教師もの」を持ちかけた編集者も見事だし、それに応えた江川さんも正しい。
その時もし江川さんが「教師の漫画だけは描きたくない」なんて言ったら、彼はこれほどの成功を納めなかったと思う。
そして、こうの史代さんに「ヒロシマ」を描くことを持ちかけた編集者も正しい。
そんな話を話していたら「 山田さんにとっての、避けられないものって何なんですかね?」と担当の熊ちゃんが言った。
うーん・・・
ウルトラマンだの仮面ライダーだのに「地球を救え」と刷り込まれたことかもしれない。
でもそれは「ゼブラーマン」で描いた。
環境問題は「ココナッツピリオド」とか「資本主義卒業試験」や「Bバージン」で描いた。
「売れるものがいいのか?いいものって何か?」みたいな「アートと産業の相克」については「NG」や「アリエネ」で描いた。
でもそれらは僕にとって「描きたいもの」や「描かせてもらえるもの」で、「避けられないもの」ではない気がする。
この違いは大きい。
「美味しいお菓子が作れるから、お菓子ばっかり作っているけど、本当は香川県の生まれで、うどんがどうしても作りたかったお菓子屋さん」みたいなことかもしれない。
そんな人が病気になったら「やっぱり、うどんが打ちたかった・・」なんて思うかもしれない。
これを読んでいるあなたには「避けられないもの」はありますか?
「いつか、うどんを・・」と思いながら、お菓子ばかりを作っていたら、今年が終わってしまった、なんてね。
僕を含めてほとんど人が「そんな感じ」で年を重ねるわけですけどね。
経済状態が良くないだの、時間がない、だの言っているうちに「避けたまま」で人生が終わるのは面白くないよね。
「避けられないこと」っていうのは、その人にとっての「人生のテーマ」みたいなものなのかもしれない。
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