マル激!メールマガジン 2016年3月9日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第778回(2016年3月5日)
偏見と憎悪に支えられたトランプ現象の危険度
ゲスト:渡辺靖氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)
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 トランプ旋風が止まらない。米大統領選の民主、共和両党の候補指名争いは最大のヤマ場となる「スーパーチューズデー」で、民主党はヒラリー・クリントンが、共和党はドナルド・トランプが圧勝し、指名獲得に大きく近づいた。今回の勝利で、トランプが7月の共和党全国大会にトップで突入する可能性が非常に高くなり、残るは果たしてトランプが投票権を持つ代議員の過半数の支持を得られるかどうかに移っているとの見方もある。
 今年の大統領選挙の候補指名争いは、民主・共和両党ともに、当初は泡沫候補に終わると見られていた候補が予想外の善戦を続けている。一般的にはこの現象は、硬直化した旧態依然たるワシントン政治に辟易とした有権者が、異色の候補者に惹かれた結果だと説明されているし、おそらくそれは大筋では正しい評価だろう。しかし、トランプに集まる熱狂的な支持には注意が必要だ。それは支持者たちの多くが政策そのものよりも、トランプのスタイル、とりわけ人種や宗教、性別に対する偏見や憎悪を剥き出しにした発言を憚らない演説スタイルに惹きつけられていることが、明らかになってきたからだ。
 アメリカ政治が専門の渡辺靖慶応義塾大学環境情報学部教授は、アメリカの有権者の間に燻る既存の政治に対する不満が高まっていることは当初から認識されていたが、少数派に対する憎悪や偏見に支えられたトランプ現象を目の当たりにして、それがここまで悪化しているとは専門家たちも予想できていなかったと語る。
 とどまるところを知らないトランプ旋風にようやく危機感を持った共和党の指導部やメディアは、ここにきてトランプ批判を強めている。しかし、ワシントン・インサイダーと見られる共和党の指導層や既存のメディアがトランプを叩けば叩くほど、トランプ支持者が増えるという皮肉な現象が起きている。
 トランプ旋風なるものにこのまま勢いがつけば、11月の本選でトランプが大統領に選出されることも十分にあり得る状況だ。しかし、これだけ偏見や憎悪を振りまくことで支持を広げてきた候補者が、世界一の超大国アメリカの大統領になった時、アメリカ社会のみならず世界に与える影響は計り知れない。
 トランプ旋風を支えるヘイト(憎悪)やビゴット(偏見)の正体とその背景を、希代のアメリカウオッチャー渡辺靖氏と、神保哲生、宮台真司が議論した。

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今週の論点
・トランプ現象は、共和党の“最後のあがき”か
・「インサイダー対アウトサイダー」の構図になれば、トランプは侮れない
・回復不能になった、民主党対共和党の対立軸
・トランプが本当に大統領になったら
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■トランプ現象は、共和党の“最後のあがき”か

神保: アメリカの大統領選挙がただならぬ状況にあるようです。報道の中で、トランプという異色の候補が勝ってきているということは伝わっていると思いますが、なぜトランプに支持が集まっているか、という理由については言及されていない。今回はその点について議論したいと思います。

宮台: トランプブームに象徴されるような方向性が、今後増しこそすれ、緩和するだろうというように見通せません。一つの典型的な例はスウェーデンです。スウェーデンは、EU加盟国の中で最も移民、難民が多いのですが、いわゆるダーティワーク、3Kワークのほとんどすべてを彼らが担っている。つまり、社会的な差別が可視化しているのです。その結果、福祉大国スウェーデンは、結局他人のふんどしで相撲をとっていただけの話になる。そして、その“他人のふんどし”がまさに可視化したせいで、社民主義リベラルの正統性そのものが危うくなっています。