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臼杵陽氏:極右勢力に牛耳られたイスラエルはもはや誰も止められないのか

2024/10/09 20:00 投稿

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マル激!メールマガジン 2024年10月9日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1226回)
極右勢力に牛耳られたイスラエルはもはや誰も止められないのか
ゲスト:臼杵陽氏(日本女子大学文学部教授)
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 イスラエルが10月1日、遂にレバノンへの地上侵攻を始めた。それを受けて、レバノンを支援するイランはイスラエルに向けて180発以上の弾道ミサイルを発射した。イスラエルはすでにイランへの反撃を明言しており、戦火のさらなる拡大が避けられない状況となっている。
 ハマスによるイスラエルへの奇襲に端を発する両者の軍事衝突は、ほぼ一方的なイスラエルの侵攻という形で進み、10月7日で1年を迎える。ガザの死者が4万人、しかもその大半は子どもを含む一般市民という状況の中、国際社会からの度重なる停戦要求も実らず、残念ながら当分の間イスラエルの攻撃は続くものと見られ、犠牲者の数も増え続けることが避けられない状況だ。
 それにしてもイスラエルは、どれだけ世界から指弾されてもガザへの攻撃をやめないどころか、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラやイエメンのフーシ派など、多方面に戦線を拡大している。そして、1日のイランによるミサイル攻撃で、遂にイランまでがイスラエルと限定的とは言え、戦争状態に突入しようとしている。
 イスラエルの先進技術と軍事力、そしてアメリカからの軍事支援が当面は続くと予想されることから、仮にイランと戦火を交えることになったとしてもイスラエルの軍事的な優位性は揺るがないと考えられている。しかし、もはやイスラエルの最大の敵は国外の反イスラエル勢力ではなく、イスラエルが国内に抱えた極右勢力であることがイスラエルにとっては国家存亡に関わる最大のリスクファクターになっているとの指摘が出始めている。
 なぜイスラエルは世界から指弾を受けてもガザ攻撃を続け、遂にはレバノンやイエメン、そしてイランにまで戦火を拡大しなければならないのか。日本女子大学文学部教授でイスラエル・パレスチナ研究の第一人者の臼杵陽氏は、イスラエル国内の政治状況にその原因があると指摘する。ネタニヤフ政権は内政的に不安定な状況にあり、政権を延命するために国内の目を外に向けようと戦争を継続している面があるのだと言う。
 1院制の議会を比例代表方式で選出しているイスラエルでは、政府は1948年の建国以来、常に連立政権で成り立ってきた。様々な背景を持ったユダヤ人やアラブ人が集まって20世紀にいわば人為的に国家を建設したイスラエルは、完全比例選挙では多数の少数政党が生まれやすく、宗教政党や極右政党も議席を得やすい構造になっている。
 ネタニヤフ首相が率いる「リクード」は世俗的右派に属するが、120の議席があるイスラエル国会では32議席しか持っていない。結果的にネタニヤフ政権は宗教政党の「シャス」、「統一トーラー・ユダヤ連合」や、極右政党の「宗教シオニズム」、「ユダヤの力」などと連立し、68議席の右派連合を作っている。仮に宗教政党や極右政党が政権から離脱してしまえば、右派連合は過半数を維持できなくなる恐れがある。
 ネタニヤフ首相が率いるリクード自体が元来、思想的には保守であり、ユダヤ民族主義を強調する傾向があるが、それ以上に連立のパートナーを組む「宗教シオニズム」と「ユダヤの力」の2つの極右勢力が、パレスチナの入植拡大を叫ぶなどナショナリズムを煽る政策を強く主張し、保守的なネタニヤフ政権を更に右に引っ張っている。実際に今年6月にも、ハマスと停戦合意すれば連立を離脱すると脅しをかけるなどして、和平プロセスの妨げとなっている。いわば、2つの少数政党が政権のキャスティングボートを握ることで政権を操る事態に陥っているのだ。
 しかし、例え軍事的な優位性があるとはいえ、イスラエルもいつまでも戦火を拡大しているわけにもいかない。イスラエル経済にも重圧となっていることに加え、このままではイスラエルの国際的な立場は悪くなる一方だ。また、イスラエル国内にも反戦運動や厭戦機運が出始めているという。
 中東でなぜ戦火が拡大しているのか、なぜイスラエルはガザから撤退できないのか、原油の94%を中東諸国に依存している日本への影響はないのかなどについて、日本女子大学文学部教授の臼杵陽氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
 
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今週の論点
・極右政党がキャスティングボートを握るイスラエル議会
・宗教勢力を支えるイスラエルの若者たち
・中東でのアメリカの存在感が薄まる中でエスカレーションは起こってしまうのか
・イランによるミサイル攻撃で今後火種がますます広がる可能性はあるのか
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■ 極右政党がキャスティングボートを握るイスラエル議会
神保: 今日のテーマはイスラエルです。一体何が起きているからこんなことになっているのか、イスラエル側から見ていきたいと思います。 ゲストは日本女子大学文学部教授で、アラブ・イスラエルがご専門の臼杵陽さんです。臼杵さんには2015年にも出演していただき、その時はテロとの戦いという問題について話をしていただきました。
臼杵さんに出演をお願いした後にイランからのミサイル攻撃がイスラエルに対して行われました。大半は迎撃されたという話ですが、イスラエルの歴史の中でこれだけの攻撃を受けたことは初めてということなので、エスカレーションは避けられないのではないのかという見方があります。
イスラエルはレバノンとの国境地帯でヒズボラと戦っていて、今ではホルムズ海峡を通る日本の原油も危ない状況です。日本の原油の輸入元として中東への依存度は94.1%です。イスラエルからの報復としてイランの核関連施設を狙うことは難しいようですが、その代わりに石油施設が標的になるかもしれず、そうなれば日本への影響は必至です。まず最新の状況をどのようにご覧になっていますか。
 
臼杵: イスラエルと直接に事を構えるということは紛争が世界大に広がる可能性も含んでいるので、イランがイスラエルを直接攻撃するということは相当の決断だったと思います。
 
神保: レバノンのヒズボラ、イエメンのフーシ派、パレスチナのハマスはイランが後ろ盾になって応援していました。これまでイランは直接攻撃はしていませんでしたが、武器や訓練を提供していました。しかしここに来て自分から直接介入してミサイル攻撃をしました。何がイランをそうさせたのでしょうか。
 
臼杵: やはりイランにとってみればヒズボラはシーア派でありイランと同じなので、彼らに対して軍事的サポートをする意図があったと思います。ヒズボラが完全にイスラエルにやられてしまったので、それを黙視できないということがイラン側の決断の元になったと思います。イランとしてはシーア派のヒズボラは同胞と言っても良いのですが、ガザのハマスはスンナ派で、少なくとも宗教的には別なのですが、共闘を組むという形でイスラエルを南と北から攻撃することで何とかしたいという考えがあったのだと思います。
しかしそれもうまくいっていなかったことが、今回の直接攻撃に繋がっていったのだと思います。
 
神保: イスラエル側がポケットベルを一斉に爆破させたことや、ヒズボラの絶対的な指導者だったナスララ師を殺害したこと、またイランに守られていたハマスの指導者であるハニヤ氏を殺害したことなど、報復が避けられないくらいの状況を作るまで攻め入った背景は何でしょうか。
 
臼杵: イスラエルの国内問題との絡みで、外側に目を向けるということがネタニヤフ政権にとっては必要でした。ネタニヤフ政権は内政的に不安定だということもあり、国家の安全保障という大義名分を全面に押し出すことがネタニヤフ政権の延命にとって有効でした。またイスラエル国民にとっても、彼らが言うところのテロリストが攻撃してくることに対応するということもあり、実際にハマスがとった人質がほとんど帰ってきていないということが大きいと思います。それが最終的にネタニヤフを攻撃的な形で対応させているのではないのかと思います。
 
神保: きっかけは去年の10月7日の奇襲ということで、確かに人質もあれだけ取られていますし、たくさんのユダヤ人が死んだということもあるのですが、その後のガザへの攻撃のスケールには国際的に相当な非難があがりました。それにもかかわらずついに今度はレバノンにまで戦禍を広げたということは、国内的な政治状況が後押しをしているということでしょうか。
 
臼杵: 国内的なものが突き動かした側面もあるというくらいで、ネタニヤフ政権にとっては国家の安全保障を脅かす者に対しては何をしても許されるというところがあり、その上で国民もばらばらなっている状況では敵を想定して攻撃するということは常套手段として行われてきました。
 
神保: ニューヨークタイムズの記事で読んだのですが、イスラエルは軍事的な優位性という意味では外の敵はそれほど恐るるに足らない状況になっていて、いざ軍事衝突があれば簡単に勝てます。しかし、イスラエルの存亡の脅威となっているものは国内にあるということで、イスラエル内の右派の存在についてニューヨークタイムズに詳しいレポートがありました。ネタニヤフ政権自体が右寄りだとしても、極右と連立を組んでイスラエルで多数党を形成している状況が最もイスラエルを危うくしているということだと思うのですが、そこはどうでしょうか。
 
臼杵: ネタニヤフの母体であるリクード党自体の国会内での議席数の減少もあり、単独では政権を取れません。それではどこと連立を組むのかという時に、中道の政党と組んだところで決定的なアピールはできないので、より右に傾かざるを得ないということです。極右がどこまでネタニヤフと見解を一致させるのかということは分かりませんが、ネタニヤフ自身は現実的右翼というレッテル貼りをされることが多く、極右とは一線を画しています。
どちらかといえば風見鶏的に政治家として動いているので、連立を組まなければ政権を取れないということであれば、選択肢としてより影響力を増している右側と手を組まざるを得ないということだと思います。 

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