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河野有理氏:自民党総裁選から読み解く日本の現在地とその選択肢

2024/09/25 20:00 投稿

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マル激!メールマガジン 2024年9月25日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1224回)
自民党総裁選から読み解く日本の現在地とその選択肢
ゲスト:河野有理氏(法政大学法学部教授)
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 事実上、次の日本の首位を選ぶ自民党総裁選まで1週間を切った。9人もの候補者が乱立している割には、各論の政策論争はあるものの、その選択が大局的な観点から日本という国の針路にどのような影響を与えるかについては、ほとんど議論も論評も見られないのが残念だ。
 この総裁選は実は過去10年にわたり日本の政治を牽引してきた安倍政治継承の是非が問われている選挙でもあり、さらに遡れば小泉政権による構造改革路線以降、推進されてきた新自由主義的な改革を方向転換するのかどうかが問われている重要な選挙でもある。
 総裁選そのものに一般有権者の投票権はないが、そこで自民党の党員と国会議員がどのような選択を下すかは、今後の国政選挙における投票行動の重要な指針となるはずだ。
 自民党は2009年の総選挙で大敗を喫し野党に転落したが、その選挙の当選者は民主党の308に対し119という自民党にとっては正に壊滅的な敗北だった。しかし、その後、民主党政権の失敗などもあり、安倍新総裁の下で衆院の議席が300近くになるまで党勢を回復させた。その意味で、今日の自民党は正に安倍自民党と言っても過言ではない状態にあった。
 岸田政権が発足した際、宮沢喜一首相以来の宏池会出身の首相となった岸田氏は政権発足当初は「新しい資本主義」などを政策の旗印に掲げ、アベノミクスから決別する意思を明確に示していた。しかし、岸田政権も所詮は党内力学的には安倍政権と同じ安倍、麻生、茂木派ら自民党主流派の後押しで成立した政権だった。厳しい言い方をすれば、安倍傀儡政権だったのだ。岸田首相個人の思いはそうした党内力学の前に無視され、岸田政権では路線転換につながる政策はほとんど何も実現できなかった。
 しかし、その後、安倍氏が凶弾に倒れ、統一教会問題や裏金問題の発覚で党内最大を誇った安倍派が崩壊状態に陥る中で、自民党は今回の総裁選を迎えている。その意味でこの総裁選で誰が次の総裁=首相になるかは、自民党の、ひいては日本の今後の針路を左右する重大な選択になる。
 アベノミクスの下で円安が進み、株価は上がり大企業は史上最高益を毎年塗り替えた。しかし、その間、賃金は上がらず国民負担率も上昇を続けた。さらにここにきて物価が高騰し、国民生活は苦しくなる一方だ。相変わらず教育支出も子育て支援も限られている中で、少子化はさらに進んでいる。そうした中で格差は広がり社会の分断が進んだ。
 今日本が問われているのは、このアベノミクス路線をこれからも続けるのか。引き続き市場を重視し、格差と分断を容認するのか、再配分重視へシフトすることで格差を是正し社会の連帯の再構築を図るのか。自己責任に重きを置くのか、リスクを社会に分散させるのか。この総裁選はその選択を問うものでなければならないはずだ。
 政治思想史が専門の河野有理・法政大学法学部教授は、特に決選投票が石破対高市になった場合、安倍路線継承の是非が問われることになると指摘する。実際、高市氏の推薦人は大半を安倍派の議員が占め、支援者にもアベノミクスを推進した学者らが多く参集している。
 これに対して、田中角栄氏を政治的な父と仰ぐ石破氏は、高市氏や他の候補と比べると、再分配志向が強く、たびたび格差の是正の必要性を訴えている。そこでいう格差とは所得格差であり、東京などの都市部と取り残された地方との格差でもある。田中政権の日本列島改造論当時、日本は右肩上がりの高度経済成長期にあり、再配分するための新たな財源が毎年生まれていた。しかし今日本は人口も減り、経済も縮小する中で、再分配する財源がそもそも細ってきている。
 格差を解消する方法が再配分だけでは足りない場合、それに代わる概念として例えば小さな経済圏を作ってそれを連携させる「自治」が考えられるが、果たして鳥取出身の石破氏はそれを理解できているか。
 河野有理氏は、石破氏は政治改革や安全保障など自分が得意とする抽象的なテーマを好んで論じる傾向があり、財政や金融といった経済政策にはこれまであまり具体的にコミットしてこなかったことを指摘する。これまで党や内閣の要職を歴任してきた石破氏ではあるが、財務相や経産相の経験はない。現実的に石破政権というものを考えなければならないとなると、首相を支える経済チームがどのような布陣になるかが重要になる。
 一方、高市氏はこの総裁選を保守対リベラルの戦いと捉え、その認識を明確に打ち出すことで、岩盤保守の支持をしっかりと掴んでいると河野氏は語る。しかし、高市氏に靖国神社に参拝し、夫婦別姓に反対し、女系天皇に反対するといった岩盤保守層が好む政策以外にどのような政策があるのか、とりわけ経済政策については未知数のところがあると指摘する。
 この総裁選は日本に何を問うているのか。日本には今どのような選択肢があるのか。自己責任論に下支えされた新自由主義路線を今後も続けるのか、新たな道は存在するのかなどについて、法政大学法学部政治学科教授の河野有理氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
 
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今週の論点
・今後も安倍自民党が維持されるのか
・石破対高市という構図が持つ意味
・自民党が右に寄れば寄るほど政権交代の可能性が上がる矛盾
・派閥解消がもたらしたもの
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■ 今後も安倍自民党が維持されるのか
神保: 今日は政治思想というアングルから、今の自民党が何を選ぼうとしているのかを見ていきたいと思います。自民党の総裁は総理大臣なので、これは残念ながらわれわれに投票権がない大統領選挙のようなものです。メディア報道では基本的に政策の各論ばかりで、マクロ的な視座が得にくいと思ったのでこのテーマにしました。
本日のゲストは法政大学法学部教授の河野有理さんです。河野さんは政治思想史の専門家ということで、日本がここまで辿ってきた道と現在地、これから何を選ぼうとしているのかということを政治思想のアングルから伺いたいと思います。
自民党総裁選は折り返しに来ていて、来週の金曜日が総裁選の本番です。世論調査などはいろいろ出ていますが、選挙期間を長くしたことによってニュース自体は若干中だるみしているかなと思います。まず今回の総裁選を総体としてどう見ていますか。
 
河野: まず何よりも候補が9人出たということが従来の自民党総裁選との明らかな違いで、その理由は派閥がなくなったことです。今までの総裁選は派閥の中でなんとなく談合をしてこの人を推そうということを決めてから3~4人が出るということが通常でしたが、9人も出てきたので、ある意味でアメリカ予備選挙のように一気に候補者が出ていくということになったのかなと思います。
しかしアメリカの場合は期間を長く取り、その間にふるい落とされていくのですが、日本の場合は期間が短いのでどういう展開になるのかが見通せません。また公職選挙法の縛りがないのでPR会社を入れても良いですし、ある意味何をしても大丈夫です。
 
神保:  現在小泉進次郎さんは後ろに森喜朗さんや菅さんが控えているということがバレバレになっているので、本人の理念や思想を問題にしてもしょうがないのかなと思うのですが、小泉さんが失速してきた結果、このままいくと石破さんと高市さんの決選投票になる可能性が出てきます。他の候補は脱落した感がありますが、石破対高市の意味ということについてお伺いしたいと思います。 

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