マル激!メールマガジン 2024年1月24日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1189回)
早急に支援体制を作らなければ災害関連死は防げない
ゲスト:新田國夫氏(医師、日本在宅ケアアライアンス理事長)
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 元日に能登半島を襲った最大震度7の地震は、建物の倒壊、土砂災害、津波、火災などで甚大な被害をもたらした。1月19日の時点で報告されている死者数は232人。この中には地震発災後に亡くなった、災害関連死と認定された14人も含まれている。
 今後、災害関連死をどう防ぐかが、大きな課題となる。
 災害関連死は、阪神・淡路大震災以来、繰り返し問題とされてきた。震災を生き延びながら、その後、支援が行き届かずに亡くなる人が後を絶たないのだ。その中には避難所での感染症まん延、厳しい寒さによる低体温症、同じところにじっとしていることから起こるエコノミークラス症候群、誤嚥性肺炎などが含まれる。ことに高齢者にとっては避難生活がそのまま健康を害することにつながる場合が多い。
 19日午後2時の段階で、避難を続けている人は石川県の発表で県内の359カ所の避難所に1万4,000人。その多くは家が倒壊したり、ライフラインが途絶えて自宅での生活が困難になっている人たちだ。金沢市内などに設けられた1.5次避難所や、ホテルや旅館などに二次避難した人たちもいる。
 災害関連死を防ぐために、全国から医療や福祉の関係者が支援に入り避難生活を支えているが、支援の手が届かない被災者が大勢取り残されている。
 ビデオニュースでは、1月13日から14日にかけて、避難所や介護施設や自宅で寒さと雪や雨の中、必要な医療支援を受けられていない高齢者の現状を把握し、支援につなげるために被災地に入った医師の新田國夫氏に同行し、高齢化率50%を超える能登半島北部の穴水町、能登町を訪ねた。
 地震発生から約2週間が過ぎても、施設で暮らしていた高齢者たちは苛酷な状況に置かれていた。地震までは普通に歩いていた人たちが雑魚寝状態の狭い部屋の中で寝たきりになり、そこに追い打ちをかけるように新型コロナの感染が広がっていた。起き上がることができずに大きな褥瘡(床ずれ)ができている高齢者もいた。
 さらに、介護が必要な高齢者を抱えているために避難所に行けない人たちもいた。われわれが訪ねるまで支援者は誰も来ておらず、電話も通じずテレビも見られないという状況に置かれていた。介護事業所も被災し、これまで当たり前に利用できていた介護サービスはストップしていた。在宅避難をして困っている世帯がどのくらいあるのかは行政でも把握できず、地域の介護関連のリソースがどのくらい被災し今後の見通しがどうかもまだ把握されていなかった。
 在宅療養支援医協会会長で在宅ケアに取り組む新田氏は、特に高齢者の場合は、急性期のDMATなどの医療派遣から、生活を支える医療に早い段階から移る必要があるが、それが難しい状態にあると指摘する。医療や看護、介護など多くの団体が被災地に入り支援を行っているが、それでも必要な支援が届かない人たちが大勢いる。東京郊外の国立市で地域包括ケアに取り組んでいる新田氏は、地域全体を面でとらえ生活を支える仕組みをつくらないと災害関連死は防げないだろうと語る。
 震災を生き延びた被災者たちを災害関連死から守るために今、何が必要なのか。高齢者を支えるケアに詳しい新田國夫氏と、社会学者の宮台真司とジャーナリストの迫田朋子が議論した。

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今週の論点
・在宅避難者に支援が行き届かない現状
・不十分な情報共有体制
・治すことから治し支える医療へ
・大災害への備えとしての地域づくり
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■ 在宅避難者に支援が行き届かない現状
迫田: 今日は2024年1月19日の金曜日、第1189回目のマル激トーク・オン・ディマンドとなります。今回は能登半島地震についての番組で、13日と14日に神保さんと現地へ取材に行きました。石川県知事が、能登半島の中でなかなか支援の手が届かない孤立集落はほぼ解消したと記者会見で述べていましたが、私たちが今回行ったところでは支援の手が届いていない被災者が多くいたということをぜひ知っていただきたいと思います。

宮台: それは孤立集落ではない場所だということですよね。

迫田: はい、町の中でした。今日は日常的に在宅ケアをされている医師の新田國夫さんと一緒に、特に在宅や高齢者ということについて今何が必要なのかということを考えていきたいと思います。これまでに起きた様々な災害についても、取り残されてだんだんと持病が悪くなり災害関連死という形で命を落とされる方がいましたが、今ならまだ間に合うかもしれないということで、手立てを考えたいと思います。

宮台: 日本は元々地震が多く、2011年には東日本大震災、1995年には阪神淡路大震災があり、どんどんシステムが改善されてきているのかなと思っていましたが、必ずしもそうなっていないということですね。

迫田: 良くなっているところもありますが、同じことを繰り返して教訓を学んでいないところもあるということですよね。今回の新田先生の視点は、在宅で取り残された人を助けなければならないというところにあります。

新田: こういった震災の時には避難所等がマスメディアでも取り上げられます。避難をする病人は急性期の状態なので、DMATという急性期の疾患をトリアージするチームが診て、後方病院に送ります。しかし避難所にすら来られない人や、すぐに避難所から自宅に戻る人があっという間に災害関連死をしてしまうので、そういう人をどうやって診るのかということが課題だと思います。

迫田: 能登半島地震は1月1日16時10分、石川県能登地方を襲いました。マグニチュード7.6で一時は津波警報なども出ました。私たちが行ったのはそれから2週間後でしたが、それでも様々な課題がありました。死者数は232人で、そのうちの14人が災害関連死として認定されています。この数字が増えることがないようにと思うのですが、非常に危惧されています。
避難所と避難者の数は、輪島市は128カ所で4,797人、珠洲市は45カ所で2,335人、石川県全体では359カ所で13,934人。このほかに1.5次避難所が3カ所できています。1.5次避難所とは、2次避難所としてホテルや旅館、病院などに移る前の段階で1次避難所から移ってくる場所です。

 私たちは穴水町と能登町の2か所を訪ねたのですが、それはちょうど岸田首相が現地に入るという時でした。まずは穴水町の公立病院にあるDMATの本部に行きました。そこではKISA2隊(きさつたい)という在宅ケアを行っている医療関係者のグループが支援に入っていて、これは新型コロナの時に在宅ケアで病院に入れなかった人たちを訪問し医療を提供していた、主に関西の医師や看護師のグループです。その人たちが穴水町にある施設の高齢者支援をしていたので訪ねました。

宮台: 避難所に避難していない方々は、避難する必要がないのか、必要はあるけれど避難できないのか、あるいは必要はあるけれど避難しない事情があるのかどうかはどうなっているのでしょうか。

迫田: それはそれぞれの方のご判断ですが、最初は避難所にいたけれど電気が通ったので自宅に戻ったという人もいます。避難所は混んでいて寒いので、それであれば自宅の方が良いということで戻った人もいます。それ以外にも、足が不自由でとても避難所までは行けないという人や、介護が必要な親がいてそこまでは連れていけないという人がいます。