中北浩爾氏:連合は決して自民党に取り込まれてはならない
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マル激!メールマガジン 2023年10月11日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1174回)
連合は決して自民党に取り込まれてはならない
ゲスト:中北浩爾氏(中央大学法学部教授)
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もはや蜜月などと暢気なことを言っていられる状況ではなさそうだ。日本から労働運動が消えたとき、市民生活にどれだけ大きな影響が及ぶかをよくよく考えておいた方がいいのではないか。
労働組合の全国組織である連合の定期大会が都内で10月5日から2日間にわたって行われ、岸田首相自身が出席した。1年おきに開かれる連合の定期大会については、連合とは友好関係にあった民主党政権下では歴代首相が出席しているものの、自民党の首相が出席するのは2007年の福田康夫首相以来のこととなる。それに先だって岸田首相は国民民主党の元参議院議員の矢田稚子氏を首相補佐官に任命しているほか、連合の支援を受ける国民民主党は政権入りを虎視眈々と狙っているようだ。
これまで日本の労働運動は一貫して労働者の代表として野党を応援し、政府とは対決的な立場をとってきたが、ここにきて自民党はいよいよ連合の抱き込みを本気で図ろうとしているかに見える。そしてあろうことか連合の方も、その状況を「満更でもない」と受け止めているように見える。
政治学者で連合の歴史にも詳しい中央大学法学部の中北浩爾教授は、自民党は労働組合の票を狙っていると言う。医師会、農協、宗教団体などほとんど全ての団体が与党に寄っていく中、連合だけはこれまで一貫して野党勢力を応援してきた。加入者数は減少傾向にあるとはいえ、700万人の組合員を抱える連合が、創価学会と並ぶ日本最大の組織票であることは間違いない。
しかし、ここにきて高齢化による支持母体の先細りに直面する自民党は、いよいよ労働組合にもちょっかいを出してきた。自民党から見れば、そこに手を出さざるを得なくなってきたという面もあるが、その一方で、労働組合の側も自民党の取り込みに抗いきれなくなってきているようだ。
しかし、もし労働組合が部分的にでも自民党支持に回ることになれば、日本には与党に太刀打ちする勢力が無くなってしまう。連合票だけでは選挙には勝てないと言われるが、無党派層の票だけで戦えるほど小選挙区制の選挙は甘くない。中北氏も組織票というベースの上に無党派層の票をどれだけ上乗せできるかが日本の選挙の戦い方だと指摘する。
その意味で55年体制の発足以来、一貫して野党勢力の後ろ盾となることで日本の政治に一定の緊張感をもたらしてきた与野党対立の構図が、今ここに来ていよいよ崩壊しかねない最終局面を迎えていると考えるべきだと中北氏は言う。
今回の定期大会では、現職の芳野友子氏がシャンシャンで会長に再選された。中北氏は、かつての連合や前身の総評や同盟などでは熾烈な主導権争いがあったことに触れた上で、他に会長に立候補する人が誰もいなかったことは、連合の弱体化のみならず現在の日本の労働運動の劣化ぶりをまさに象徴していると言う。
日本の労働組合の組織率(労働者で労働組合に加入している人の割合)は、70年代半ばまで35%前後を推移していたが、現在は16%台まで落ち込んでいる。8割を超える労働者にとって、もはや労働組合は遠い存在になっているということだ。労働組合の組織率の低下は世界的なトレンドであり日本固有の現象ではないが、その一方で今、世界では一部の国で労働運動が活性化している。
アメリカでは、これまで労働組合が存在しなかったグーグルやアマゾン、スターバックスなどで、会社側の激しい組合潰し策を乗り越えて、相次いで労働組合が結成されたほか、現在デトロイトの3大自動車メーカーも足並みを揃えてストを決行している。他にもフランス、ドイツ、カナダ、韓国をはじめ各地で大規模なストライキが行われるなど、他の国では労働運動が下火になっているわけではない。
言うまでもないが労働組合の第一の役割は、賃上げなどで労働者の労働条件を改善することだ。労働者というとやや口幅ったい言い方になるが、要するに働く人の賃金や労働条件が向上しなければ、人々の生活は楽にならないし、一人一人が豊かな人生を送ることはできない。しかし、現在日本の労働者が置かれている環境は日に日に厳しくなっている。
財界にとって有利な税制や制度が維持されていることもあり、企業の内部留保は膨らみ続け、高齢の社員の賃金や退職金はしっかり守られる一方で、若年層の賃金は上昇せず、非正規雇用の割合も上昇し続けている。これは日本の労働運動が本来の機能を果たせていないことの証と言わざるをえない。このままでは連合は労働組合というよりも、今や昭和のレガシーとなりつつある正社員という既得権益を守るための利益団体に成り下がってしまう。それが自民党と組むことになれば、もはやそれは日本の労働運動の死を意味することになる。
今こそ日本の労働運動の建て直しを真剣に考えなければ、国家100年の計を過つことになるのではないか。
野党が頼りないから与党に擦り寄った方がかえって自分たちの利益が守られるのでないか。働く人の中にはそのように考える向きもあるようだが、それは自民党という政党を、そしてひいては政治という権力闘争を甘く見過ぎだと中北氏は言う。自民党としては野党の票田であり後ろ盾である連合を切り崩したいとは考えているが、いざ連合が自民党に取り込まれれば、自民党政権が連合の主張する労働者の権利の向上などに真剣に取り組むわけがない。
それはこれまでもそしてこれからも自民党の最大の後ろ盾が財界であることに変わりはないからだ。90年代に自民党と組んで自社さ政権を成立させた社会党は、いいように自民党に利用された挙げ句にポイと捨てられ、事実上党が消えてなくなる憂き目にあっているのをわれわれは目撃しているはずだ。野党も連合も道を見誤ってはならない。
日本の労働運動に今何が起きているのか、それが政治やわれわれの生活にもたらす影響などについて、中央大学法学部教授の中北浩爾氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・連合の抱き込みを図る自民党
・立憲/国民への分裂が連合に与えた影響
・活発化する世界の労働運動
・労働運動の衰退とその先に来るもの
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■ 連合の抱き込みを図る自民党
神保: 今日は2023年10月6日の金曜日で、1174回目のマル激です。今日は日本の労働組合運動の死をテーマに話していきます。また、それ自体が政治のみならず市民生活にどういう影響があるのかということについて考えたいと思います。ゲストは中央大学法学部教授の中北浩爾さんです。
中北: 連合が1989年にできてからもう30年以上経ち、組織の劣化が起きていると思います。それまでは労働運動という戦いをやっていたのですが、その中で鍛えられた世代がもう終わりかけている中で労働運動も劣化してきていて、連合の会長に手を挙げる人が前回も今回もいなかったということがそれを表していると思います。昔は皆、自分がやりたいと思っていたのですが、それがなくなりました。
結局、戦いがあって鍛えられる世界でやってこなかったツケが労働運動に来ているのだと思います。昔が良かったのかどうかは分かりませんが、それに代わる人材育成やシステムが組織内部で生まれないとこうなっていくんだなと思いますし、労働運動の使命を連合が果たし得ているのかということに繋がると思います。
神保: ジャニーズ問題にしても、あらゆるところでこういう劣化が起きていますね。昨日と今日で連合の定期大会がありましたが、誰も手を挙げなかったので芳野会長が再選されました。そしてそこに福田首相以来の自民党の首相として岸田さんが出席されましたが、それもただ原稿を読んでいるだけでした。
中北: 労働運動は本来幅広い人に訴えなければなりません。もちろん会場の人たちに向けて間違いないように話すことも大切でしょうが、その域に留まっているということは悲しいです。労働運動は幅広い組合員だけではなく、非組合員や働いている労働者以外にもアピールをしてその正当性の下で力を発揮する運動だと思います。狭いインサイダー戦略をとるのではなく、正しさの感覚に支えられなければなりません。
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