マル激!メールマガジン 2023年9月6日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1169回)
日本は次の感染症への備えはできているか
ゲスト:明石順平氏(弁護士)
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新型コロナの感染症法上の位置づけが5類に移行したことに伴い、厚労省がすべての陽性者の集計を行わなくなってから4ヶ月が経った。現在は指定された約5,000の医療機関からの週1回の報告を基にした定点把握しか行われていないため、陽性者数の正確な数字は分からないが、少なくとも新型コロナに国中がのたうち回った時期と比べれば、国民生活は平静を取り戻しつつあると言っていいだろう。
コロナが猛威を振るう2021年、当時の菅義偉首相は記者会見の場で、日本がパンデミックへの備えが十分ではなかったことを認めた上で、緊急事態下に法律や制度をいじるのは難しいが、平時に戻ったらそれが必要だとの考えを示している。
総理自身が認めたように、日本はパンデミックへの備えができていなかった。そのため国民は、日本の陽性者数が欧米に比べて遙かに少なかったにもかかわらず、長期にわたり緊急事態宣言やまん延防止等重点措置による行動制限を甘受しなければならなかった。そして、国民生活が平静を取り戻し「平時」に戻りつつある今、日本は次なるパンデミックに備えた法と体制整備に着手していなければならないはずだ。「喉元過ぎれば熱さ忘れる」ではあまりにも勿体ないではないか。
実際、政府が行ってきたコロナ対策とはどんなものだったのか。会計検査院によると、日本は2019年度から2022年度にかけて、約114兆円のコロナ予算を計上している。IMFによるとゼロゼロ融資など政府保証のついたローンも含めると、日本政府の支出額は総額で257兆円に及ぶという。これは世界では660兆円を費やしたアメリカに次いで大きな額となる。日本の一年間の国家予算が100兆円あまりであることを考えると、コロナ対策だけで250兆というのは気の遠くなるような額だ。
その内訳を見ると、緊急事態宣言などによって影響を受けた事業者への補償など経済対策が全体の6割を占める。4度の緊急事態宣言やその前後に発出されたまん延防止等重点措置などにより、日本中の飲食店は時短営業を求められ、映画館やデパート、ライブハウスなどの集客施設は休業を強いられた。
野球やその他のスポーツは無観客試合となり、学校も休校になったり、すべての授業がリモートになったりした。県境をまたぐ移動が自粛を求められ、国民は常時マスクの着用を求められた。そのような行動制限や移動制限が長期にわたって続けられた結果、飲食業界は無論のこと、旅行業界なども厳しい痛手を受けた。そして、何よりも多くの国民が長期にわたり多大な制約の下で暮らすことを強いられた。
陽性者数と比較して日本の行動制限が長期にわたった大きな理由が、医療インフラの脆弱性にあったことは論を俟たない。人口あたり世界一多い病床数を誇りながら、政府の「要請」にもかかわらずコロナ病床への転換は一向に進まなかったため、日本は感染の波に襲われるたびに緊急事態宣言を発令せざるをえなかった。その結果、必然的に生じたのが莫大な営業補償や事業や雇用を継続するための政府保証による融資だった。
病床問題については、その後、感染症法が改正され、非常時には政府は民間病院に対しても病床の転換を「勧告」できるようになった。「お願いしかできない」状態から「勧告」できるようになったのは意味がある。しかし、日本のコロナ対策を徹底検証しその結果を近著『全検証 コロナ政策』にまとめた弁護士の明石順平氏は、パンデミック下で病床の転換が遅々として進まなかったのは、政府の強制権限の有無以前の問題として、日本には医師の絶対数が足りなかったことを指摘する。
政府が民間病院に対して病床を転換させる権限を持ったとしても、新たに増強されたコロナ病床に配置される医師がいなければ病床は絵に描いた餅になってしまう。
明石氏は日本の医師は平時でも「地獄のような労働環境」にあり、過剰時間労働が常態化しているのが実情だという。そのような状況でパンデミックに襲われれば、満足な医療ケアが提供できるはずがない。
医師数の増加には医学部定員の拡大が必要だが、日本最大の圧力団体である日本医師会が医学部の新設や定員増に反対しているため、医師数の増加は遅々として進んでいない。病床数では人口当たり世界一を誇っていた日本だが、人口1,000人あたりの医師数はOECD平均を大きく下回り先進国で最低水準にある。
もう一つ、われわれが考えなければならないことは、コロナ禍で政府は100兆円を超える大盤振る舞いをしたが、その予算の使われ方が果たして妥当だったのかという問題だ。たとえコロナ禍と言えども政府の支出は将来にわたり国民が返していかなければならない。当然、無駄は許されない。コロナ対策予算としては先にあげた営業補償などの「経済・雇用対策」が全体の6割を占め、残る4割をワクチン接種などの「コロナ感染症防止策」と「コロナ対応地方創生臨時交付金」が占めている。
15兆円あまりが計上された「コロナ対応地方創生臨時交付金」では、全国の自治体に配分された予算が、モニュメントの作成や自治体幹部用の公用車の購入など、コロナ対策との関係が不明な使われ方をしていたことが、調査報道を専門に行うNPO「Tansa」の調査で明らかになっている。また、計上された15兆円のうち実際に執行されたのは9.4兆円にとどまり、そもそもそれだけのニーズがなかったことがうかがえる。残る5兆円あまりは使い道がなかったのだ。
他にも雇用調整助成金や病床確保費用などの不正受給が問題になる中で、明石氏はコロナ対策を銘打ってばらまかれたお金の火事場泥棒が多くいたことを指摘する。
日本は2022年3月に最後のまん延防止等重点措置が解除されるまで、世界各国、とりわけ欧米諸国と比べると、人口あたりの陽性者数や死者数はずっと少なかったが、行動制限が解除されたとたんに陽性者数や死者数が欧米並みに急増していることから、日本のコロナ対策は一にも二にもまずは国民に多大な行動制限を強いる緊急事態宣言とまん延防止等重点措置によって支えられていたと考えられる。
また、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が実際には強制力がなかったにもかかわらず、ほとんどの国民がこれに従ったことから、日本のコロナ対策は政府に従順な国民によって支えられていたとも言えるだろう。その一方で、政府が行った対策としては、ワクチン接種の推進には一定の効果が認められるが、行動制限に対する補償が必要な人の下に十分に届いていたのかや、かなりの無駄と不正のまん延があったことが大きな課題として残った。
日本はコロナに対してどのような対策を行い、実際にどれほどの予算が費やされたのか、それは妥当だったのかを検証した。また、日本が今回のコロナ対策の反省の上に立った上で、次のパンデミックへの備えができているかなどについて、弁護士の明石順平氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・コロナはまだ終わっていない
・世界第2位のコロナ支出は有効に使われたのか
・もともと逼迫していた日本の医療
・医師を増やしたくない医師会
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■ コロナはまだ終わっていない
神保: 今日は2023年9月1日の金曜日で、関東大震災からちょうど100年となります。先週はそれを機に地震と原発というテーマで、元裁判官の樋口英明さんにお話を伺いました。今日のゲストは弁護士の明石順平さんです。明石さんには以前にもアベノミクスの検証の時に出演していただき、今回の番組は明石さんの著書『全検証コロナ政策』を参考にさせていただきました。
5類になり日常的にモニタリングされなくなったのですが、コロナは完全に終わったわけではなく感染者はまだまだいます。コロナ後遺症やワクチン後遺症の問題などは色々ありますが、ここ3年間何をやってきて、それは効果があったのかどうかということを検証していきたいと思います。
明石: 2022年頃からコロナおしまいムードが漂っていたと思いますが、データを見ると真逆で、2022年から本番開始というところがポイントです。
神保: まん延防止等重点措置が2022年3月に終わっているのですが、それよりもずっと感染者数が少なかった2020年の緊急事態宣言の時の方が大騒ぎでしたよね。オリンピック前も今より少ない感染者の割に大変な状況でしたが、まん防が終わり対策を取らなくなってから感染者数が桁違いで増えました。
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