湯之上隆氏:日本が半導体戦争に負けた理由と同じ過ちを何度も繰り返す理由
マル激!メールマガジン 2023年8月2日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド (第1164回)
日本が半導体戦争に負けた理由と同じ過ちを何度も繰り返す理由
ゲスト:湯之上隆氏(技術経営コンサルタント)
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日本はなぜ同じ過ちを繰り返すのだろう。
「日の丸半導体」などと囃され1980年代には世界シェア1位を誇っていた日本の半導体産業が、今日、見る影もないほどまでに凋落している。かつて世界シェアの8割を誇っていたDRAMでは、韓国サムスンや台湾TSMCとの価格競争に完膚無きまでに敗れ、日本は製造そのものから撤退してしまっている。
半導体は今日、パソコンやスマホなどのIT製品を始め、エアコン、電子レンジなどの家電製品、そして自動車から兵器にいたるまで、あらゆる電子機器に使われている。単純計算でも世界で1人当たり年間平均138個の半導体を購入している。実際は先進国の方が途上国よりも遙かに多くの半導体製品を利用していることを考えると、先進国では1人あたり少なく見積もっても500個程度、金額にして3万5,000円から4万円分もの半導体を、われわれ1人1人が毎年購入している計算になる。
それだけ広く利用されている製品を日本がほとんど自前で作れていないということは大きな問題だ。なぜならばグローバル市場で半導体不足が起きると、自前の半導体を製造する手段を持たない日本は、家電製品や自動車が作れなくなってしまうからだ。実際、新型コロナの流行で2021年から世界的に極端な半導体不足が生じたため、日本では自動車やパソコンの品不足や納品遅れなどが軒並み発生している。
しかし、一時は世界を席巻した日本の半導体産業は、なぜ国際競争に負けてしまったのだろうか。日立やエルピーダなどで半導体の技術者として従事し、半導体業界の現状に詳しい湯之上隆氏は、日本の凋落は市場のニーズを顧みず、市場が求めていない種類の半導体を作り続けてしまった結果だと指摘する。日本の半導体産業が世界に打って出た1980年代、半導体は主に大型のメインフレームコンピュータに使われていたため、半導体にも高精度で耐久性の高い製品が求められていた。
そのニーズをいち早く満たすことに成功し、世界市場を席巻したのが、日本の半導体メーカーだった。しかし1990年代に入り主たる半導体の利用目的がパーソナルコンピュータ(PC)や携帯電話、そしてスマートフォンなどのIT機器や家電へと推移するなかで、ハイスペックで高品質ながらその分不必要に高価格な日本の半導体は、市場からそっぽを向かれてしまったのだという。莫大な数の半導体が必要になった市場では多少性能や精度は落ちても、より安価な半導体が求められるようになっていた。
その後、日本は背水の陣とばかりに経産省が主導する形で企業合併やコンソーシアム(企業の連合体)などを組織して、莫大な税金を注ぎ込むことで何とかグローバル競争に立ち向かおうとした。しかし、複数のメーカーが参加する合弁企業やコンソーシアムは、社内の主導権争いに終始したり、技術屋のプライドが邪魔したりなどして、相変わらず市場が求めている半導体を供給することができなかった。
しかし、かつて「産業のコメ」と呼ばれ戦略物資でもある半導体市場から、完全に撤退するわけにもいかない。そのため経産省はまたしても莫大な税金をつぎ込み、以前から失敗を繰り返しているコンソーシアム方式を通じて「日本の半導体産業の復権」の音頭を取っている。
実際、政府は国内半導体の売上を2030年までに現在の3倍の15兆円にすることを目標に、2兆円の補助金を投じている。しかし、湯之上氏によるとおよそ勝算のない計画に多額の補助金を注ぎ込んでいるため、あたかも無数のアリが甘い砂糖に吸い寄せられるかのように、世界中の半導体メーカーが日本に手を突っ込んできているが、そのどれをとっても日本の半導体産業の復権に寄与することが期待できないという。
しかも、海外の工場を補助金を使って誘致するにあたり、日本向けの製品を優先的に作るよう求めるなどの条件を全く付けていないため、日本国内の半導体の安定供給に寄与することも期待できない。これではわれわれの血税の2兆円が何のために注ぎ込まれているのかがわからない。
湯之上氏は日本の半導体産業を復活させるためには、何をおいてもまず人材を育てるしかないと言う。それなくして日本半導体産業の復権はあり得ないが、それには時間がかかる。また、日本は半導体そのものの世界シェアは失ってしまったが、半導体材料や製造装置では依然として高いシェアを維持している。
日本のこうした技術を使わなければ、世界のどの国でも半導体は作れないといっても過言ではないのだという。多額の補助金を海外の半導体メーカーに献上しておきながら日本にはほとんど何のメリットもないような無駄遣いをするくらいなら、日本が強みを持つ分野をより強化していくことに注力した方が賢明だと湯之上氏は言う。
なぜ今あらためて半導体が注目されているのか。日本が国際競争に負けたのはなぜか。経産省主導の日本の半導体政策は何が間違っているのか。半導体競争に負けることで日本はどのようなリスクを抱えることになるのか、などについて、日立などで半導体技術者として従事してきた技術経営コンサルタントの湯之上氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・日本のDRAMはなぜ凋落したのか
・半導体不足の本当の原因
・日本の半導体政策の誤り
・半導体産業のなかの日本の強み
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■ 日本のDRAMはなぜ凋落したのか
神保: 今日は2023年7月28日、1164回目のマル激です。今日は半導体の話をするのですが、宮台さんから何かコメントはありますか。
宮台: 僕は1964年の東京オリンピックの時にテレビを買い、その時はブラウン管でした。中に真空管があったんですよね。当時はラジオも真空管でした。ところが僕が中学に入る頃、ちょうど大阪万博の直後にラジカセの時代がはじまります。真空管からトランジスタへ、という新しい時代になったということです。中一でなぜアマチュア無線技士の資格をとったかというと、その先に日本や自分の未来があると思ったからですよね。それが70年代でした。
神保: 僕は半導体というものを日常的には意識したことがなかったのですが、僕らが日常使用していても意識したことがないものの最たるものが半導体かもしれない。
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