マル激!メールマガジン 2020年3月4日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム https://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第986回(2020年2月29日)
コロナウイルスの情報洪水に飲み込まれないために
ゲスト:大野智氏(島根大学医学部附属病院臨床研究センター教授)
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ヘルス・リテラシーという言葉を聞いたことがあるだろうか。
リテラシーは通常、「読み解く力」と訳されることが多い。ヘルス・リテラシーは、「人間の健康や安全、人命に関わる情報を読み解く力」とでも訳せばいいだろうか。どんな分野でもメディアや誤情報に乗せられないためにリテラシーを鍛えることは大事だが、とりわけヘルス・リテラシーはこれが低いと容易にパニックが起きたり、誤った治療法や薬によって健康を害したりするなど影響が命に関わる場合が多いので、重要なものとなる。
マル激では9年前の原発事故で科学の市民化と市民の科学化の両方が不足していることを痛感し、その視点から諸問題にアプローチしてきた。そして、巷がコロナウイルス情報で溢れかえる今、われわれはあらためて市民の科学化が問われる局面を迎えているのではないだろうか。
島根大学医学部附属病院の教授でヘルス・リテラシーに詳しい大野智氏は、一般の市民にとって、今回は「新型コロナウイルス」という呼称が恐怖を助長した面があったと指摘する。なんといっても「新型」なので未知の部分が多く、またコロナウイルスという名前も、必ずしもわれわれの多くにとって馴染みがあるものではなかった。
未知の物に対しては、誰もが怖れを持つのは当然だ。しかし、とは言え今回のコロナウイルスは感染力としては既存の季節性インフルエンザ並かそれ以下であり、致死性ではSARSやMERSを遙かに下回ることが既にわかっている。また、各都道府県の医師会などがガイドラインを出しているが、手洗いやうがいなど既存のインフルエンザ対策が有効であることもわかっている。咳やくしゃみが出る人は、コロナであろうが何であろうがマスクをすべきだし、熱が出たり具合が悪い人は仕事や学校に行かずに家で安静にしているべきだ。
結局、コロナであろうが季節性インフルであろうが、あるいは通常風邪であろうが、こういう常識的なことをやっていればある程度の蔓延は防げる。逆に言えば、どんなに沢山の情報を集めても、市民一人ひとりができることは、その程度のことしかないのだ。
一方で、政治や政府には、また別の心配事がある。今回PCR検査が進まないことで、日本が感染症に対する備えを怠ってきた実態が露呈してしまったが、もし大量感染が起こり、とりわけ重篤な症状を呈する患者が現在の日本の医療のキャパシティを超えてしまえば、いわゆる医療崩壊が起きる。その「崩壊レベル」が思った以上に低ければ、医療体制の整備を怠ってきた政治の不作為が露呈することになり、その責任が問われることになる。そこで政府は大量感染を起こさない、あるいは起きたとしても、発現のタイミングをできるだけ遅らせることで、医療体制の拡充を進め、時間を稼ぐ必要が出てきた。
このように政治は政治で、いろいろ心配しなければならない問題がある。しかし、それはわれわれ市民の問題ではない。そうした政治的な動きや、それに乗っかり、悪戯に危機を煽ることで数字を稼ごうとするメディアによる情報洪水に巻き込まれると、実際は国産シェアが97%もあり品不足になる理由がまったくないはずのトイレットペーパーが品薄になるような、いつもの馬鹿げたパニックが起きてしまう。
今まさに市民のヘルス・リテラシーが問われている。情報洪水の中から、自分にとって意味のある情報だけを拾い上げる作業は骨の折れる作業かもしれないが、それをせずに真偽不明の怪しい情報に踊らされることのコストの方が実際には遙かに大きいはずだ。今こそリテラシーを発揮して、これまで何度も政府やメディアに踊らされてきた苦い経験を活かそうではないか。
今週のマル激では大野智・島根大学教授と、情報洪水の中で誤情報に踊らされパニックしないための方策をジャーナリスト神保哲生、社会学者宮台真司が議論した。
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今週の論点
・新型コロナについて、溢れる情報をどう受け取るべきか
・不安を前提にパニックが広がる仕組み
・感染拡大を抑制すると、収束が遅くなる理由
・まずは国民一人ひとりの冷静な判断と、簡便な検査体制の整備を
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■新型コロナについて、溢れる情報をどう受け取るべきか
神保: 今日は2020年2月28日、これが986回目のマル激となります。昨日突然、全小学校・中学校・高校の休校を事実上、政府が決定しました。
宮台: そうですね。ただ、自治体によっては従わないと明言しているところもいくつか出てきました。
神保: 前川喜平さんなどもツイートしていましたが、そもそも総理大臣にも知事にもその権限はなく、教育委員会が決めることだということです。先週、われわれはあえて羽田の問題を取り上げましたが、コロナ一色のなかで、他のことも実はたくさん動いています。今日は平気で102兆円の予算を通しましたし、来週は種苗法の改正案も出てくる予定です。しかし、メディアはコロナしかやっていないから、それをほとんど誰も見ていません。確かに新型ウイルスでそれなりに警戒しなければいけないし、広がれば特に既往症のある人や高齢者にとって脅威になるのはわかりますが、反応が例によって尋常ではなくなってきていますね。
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