マル激!メールマガジン 2019年3月6日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第934回(2019年3月2日)
日本人が知らない日本の「スゴさ」と「ダメさ」
ゲスト:デービッド・アトキンソン氏(小西美術工藝社社長)
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デービッド・アトキンソン氏はかつてゴールドマン・サックス証券で金融調査部長を務め、90年代の日本の不良債権危機にいち早く警鐘を鳴らしたことで知られる。アトキンソン氏は今、小西美術工藝社という漆塗、彩色、錺金具の伝統技術を使って全国の国宝・重要文化財の補修を専門に行う会社の代表に就いている。そのかたわら裏千家に入門し茶名「宗真」を拝受するなど、日本の伝統文化への造詣はそこらあたりの日本人よりも遙かに深い。
そのアトキンソン氏にイギリス人の目で見た日本の魅力とダメなところを聞くと、どうもわれわれ日本人は、自分たちがすごいと思っているところが外国人から見ると弱点で、逆に必ずしも自分たちの強さとは思っていないところに、真の強さが潜んでいるようなのだ。
例えば、日本人の多くは、日本が1964年の東京五輪や1970年代の万博を経て、経済大国への道を駆け上がることが可能だったのは、日本人の勤勉さと技術や品質への飽くなきこだわりがあったからだと信じている。
しかし、アトキンソン氏はデータを示しながら、前後の日本の経済成長の原動力はもっぱら人口増にあり、他のどの先進国よりも日本の人口が急激に増えたために、日本は政府が余計なことさえしなければ、普通に世界第二の経済大国になれたと指摘する。だから、勤勉さだの技術へのこだわりなどを神話化することは得策ではないと言うのだ。
逆に、日本は人口増のおかげで経済規模を大きくする一方で、一人ひとりの生産性や競争力を高めるために必要となる施策をとってこなかった。そのため、規模では世界有数の地位にいながら、「国民一人当たり生産性」は先進国の中では常に下位に甘んじている。
その原因についてアトキンソン氏は、日本は長時間労働や完璧主義、無駄な事務処理といった高度成長期の悪癖を、経済的成功の要因だったと勘違いし、その行動原理をなかなか変えられないからだと指摘する。その成功体験に対する凝り固まった既成概念故に、日本人、とりわけ日本の経営者は一様に頭が固く、リスクを取りたがらない。人口増加局面では、無理にリスクなど取らず、増える人口を上手く管理していけば自然に経済は成長できたが、人口の減少局面に直面した今、日本流のやり方は自らの首を絞めることになる。
しかし、その一方でアトキンソン氏は、日本人の清潔なところや治安の良さ、住みやすさ、細やかな気配りや器用さ、真面目さといった素養は、日本人の潜在的な能力の高さを示していると言う。日本人は潜在能力は非常に高いが、過去の成功体験に対する間違った認識から、その潜在力を発揮できず、逆に改めるべき点がなかなか改められないというのがアトキンソン氏の見立てだ。
日本の潜在力を引き出すためのウルトラCとして、アトキンソン氏は政府が最低賃金を全国一律で毎年5%引き上げることを提唱する。そうなれば「頭の固い」「リスクテークをいやがる」日本の経営者でも、厭が応にも毎年5%以上の生産性を上げる必要性に駆られることになり、過去の過った成功体験にすがっている場合ではなくなるからだ。
外国人だからこそ見える日本の長所、短所を厳しく指摘するアトキンソン氏と、ジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
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今週の論点
・日本の高度成長は、急激な「人口増」こそが要因だ
・なぜ誤った神話が生まれ、認識が修正されないのか
・日本はその潜在能力を発揮できていない
・処方箋は「最低賃金の引き上げ」にあり
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■日本の高度成長は、急激な「人口増」こそが要因だ
神保: われわれ日本人は、ある種の神話というか、前提を共有してしゃべっています。今回はその前提自体をひっくり返せたら、という企画意図でテーマを設定しました。一言でいえば、われわれは日本の強さと弱さがわかっていない、あるいは勘違いしてしまっているのではないかということです。そこで、元ゴールドマン・サックスの金融調査部長で、文化財の補修などを手がける小西美術工藝社社長のデービッド・アトキンソンさんをゲストにお迎えしました。
最初に、2015年に上梓された『イギリス人アナリストだからわかった日本の「強み」「弱み」』からまとめさせていただくと、日本の強みは「経済力、治安が良い、清潔、住みやすさ、細かさ、器用さ、真面目さ、高い技術力、職人魂、極める美学、技術力、アレンジのうまさ、足し算」など、逆に弱みは「効率性の低さ、生産性の低さ、柔軟性に欠ける、頭が固い、長時間労働、行き過ぎ、完璧主義、無駄な事務処理、面倒になることを極端に避ける、リスクを取りたがらない」と書かれている。僕は、面倒なことをとにかく嫌がるということが特に面白いと思いました。一章を割かれて、実はこのことが日本人の行動の根底にあるのではないか、と分析されていました。
アトキンソン: 自分が日本に住んでいて、ビジネスを行なうにあたって、これが一番問題になります。私は観光や文化などの分野で、さまざまな政府委員会に入っていますが、こうしたほうがいい、と新しいことを提案すると、反発反論、人格否定、暴言暴論が多く出てきます。何事も現状を変えるのが嫌で、面倒を嫌います。そして、一番無難な方向を選ぶんです。
宮台: 僕らは電力の仕組みについてずっと議論してきましたが、本当に変わりません。
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