マル激!メールマガジン 2016年10月19日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
──────────────────────────────────────
マル激トーク・オン・ディマンド 第810回(2016年10月15日)
トランプが負けてもトランプ現象は終わらない
ゲスト:渡辺靖氏(慶應義塾大学環境情報学部教授)
──────────────────────────────────────
オクトーバー・サプライズ。アメリカの大統領選挙は投票日直前の10月に、予想外の展開を見せることが多い。ここで候補者の過去のスキャンダルが浮上したり、ちょっとした失言などがあると、11月上旬の投票日までに失地を挽回する時間がないため、結果的にそれが命取りになるからだ。
予備選挙から一貫して今年のアメリカ大統領選挙の根幹を揺るがしてきた「トランプ旋風」が、ここに来て大きな節目を迎えている。どうやら2016年の大統領選のオクトーバー・サプライズは1本の猥褻ビデオだったということになりそうだ。
10年前に録画されたという1本のプライベートなビデオによって、トランプの一連の暴言がどうやら彼の本音だったらしいことが、白日の下に晒されることとなった。少なくとも、これまで恐る恐るトランプを支持してきた消極的な共和党のトランプ支持者の多くは、そう受け取ったようだ。もはや大統領選挙自体は決したかに見える。
本来であればそれは、アメリカの歴史上初の女性大統領の誕生を意味し、もう少し盛り上がりを見せてもいいはずだが、そうした雰囲気はほとんど感じられない。
まず、民主党のヒラリー・クリントン候補も多くの問題を抱えているからだ。今回は敵失で漁夫の利を得た形になるクリントンだが、メール問題や健康問題など、通常の大統領選挙では十二分に致命的になり得る問題がいくつも浮上していた。しかも、クリントン対トランプの選挙戦が、表層的なスキャンダルネタでお互いを罵り合うネガティブ・キャンペーンに終始したため、クリントンの政策が十分有権者に浸透したとは言えない状態だ。
アメリカウォッチャーで慶應大学教授の渡辺靖氏は、ビデオ問題が浮上して以降、トランプは自分の支持層を拡げるのを諦める一方で、コアな支持者を固める戦略に出ていると指摘する。それはトランプが大統領選挙後も、トランプ現象を率いていく覚悟を決めたことを意味している。クリントン政権にとっては選挙が終わった後も、トランプが率いる一大勢力が最大のリスクファクターになる可能性が否定できない。
渡辺氏はトランプの影響力がどの程度温存されるかは、選挙戦でトランプがどの程度の支持を集められるかにかかっていると言う。確かに選挙で惨敗すれば、トランプの勢いにも一時的にブレーキがかかるかもしれない。しかし、一説には何があってもトランプを支える支持者が全米で1400万人はいるという。今回の大統領選挙でトランプの下に結集した、現状に不満を抱える保守的な一大勢力は、今後、アメリカの政治地図を根幹から塗り替える存在になっていく可能性は否定できない。
トランプ現象のその後と、選挙後のアメリカ政治の見通しについて、渡辺氏とジャーナリストの神保哲生、社会学者の宮台真司が議論した。
++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
今週の論点
・トランプのスキャンダルで大統領選の趨勢は決まったか
・まさに「何でもあり」 大統領選は度を越した中傷合戦に
・消極的支持による“クリントン政権”への懸念
・トランプ現象は対岸の火事なのか
+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
■トランプのスキャンダルで大統領選の趨勢は決まったか
神保: 先週、実は別件でアメリカに行ってきたのですが、大統領選挙がすごいことになっていました。日本でも報道されてはいますが、やはりあの感じは伝わってこない。何でもありで、次元が低い泥仕合のようになっています。選挙の結果自体は決した感があり、おそらくヒラリーが勝つでしょう。しかし、勝敗が決したらもうそれでいいじゃないか、と簡単にいかないような気配もあります。宮台さんは現状、米大統領選に対してどういう印象を持っていますか。
宮台: 神保さんほど実感しているかどうかわかりませんが、やはり相当ひどい。もしこれでヒラリーが勝ったとしても、これほどヘイトされている大統領というものがあり得るのか。ジョージ・W・ブッシュのときでさえ、確かにバカだという批評はあったけれど、憎まれてはいませんでした。むしろセクシーだと言われていましたよね。
神保: ナイスガイだと。しかも今回の場合は、相手があまりにひどいから勝つという。
宮台: そうでしょう。共和党が今後どうなるのかもわからないし、まさに泥仕合で、ポリシーとかイデオロギーがまったく問題にされず、「お前の母ちゃん出べそ」のような話になっている。これはたぶんアメリカだけの問題ではなく、民主主義の将来にとってどういうことを意味しているのか、ということを感じざるを得ません。
神保: 似たようなことは今、フィリピンでも起きているし、イギリスではEU離脱という形で表れています。果たして日本は大丈夫なのか、ということも含めて、一度あらためて点検したほうがいいと考えて、あえて今、この問題を取り上げることにしました。つまり、選挙になって、もしヒラリーが勝ってしまったら、もう「トランプ現象は何だったのか」という話はあまり出てこない可能性もあるからです。ゲストは前回もトランプのことで番組に出ていただきました、アメリカ・ウォッチャーで慶應義塾大学教授の渡辺靖さんです。大統領選挙には「オクトーバー・サプライズ」という言葉がありますが、どうも変なサプライズになってしまいそうな感じですね。
渡辺: 英語でゲーム・チェンジャーと言いますが、あのビデオがこれまで拮抗しつつあった世論調査を一気に引き離す分岐点になりました。
コメント
コメントを書く