マル激!メールマガジン 2016年9月7日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/
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マル激トーク・オン・ディマンド 第804回(2016年9月3日)
間違いだらけの2020年東京五輪
ゲスト:小川勝氏(スポーツライター)
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 リオ五輪が終わり、いよいよ4年後、東京にオリンピックがやってくる。
 52年前の東京五輪で日本は、先の大戦からの復興と国際社会への復帰を世界に印象づけた。2020年の五輪で日本はどのようなメッセージを発するつもりなのだろうか。
 実は安倍政権にとって2020年東京五輪の位置づけは明確に示されている。それが昨年11月に政府が閣議決定した「2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会の準備及び運営に関する施策の推進を図るための基本方針」(以下基本方針)だ。
 この文書には2020年東京五輪で政府が何を目指しているかが明確に書かれているのだが、五輪取材経験が豊富なスポーツライターの小川勝氏は、どうも政府は五輪をホストすることの意味を根本からはき違えているようだと指摘する。「海外に日本の力を見せる」「過去最高の金メダル数獲得を目指す」などホスト国の日本が享受すべきメリットばかりが強調されており、それは五輪の本義、オリンピア精神の推進とはかけ離れているからだ。
 オリンピック憲章はその冒頭で精神と肉体のバランス、平和主義、差別の撤廃などを謳っている。そうした考え方に賛同を示し、それを更に発展させることに一役買う覚悟のある都市だけが、五輪のホスト国になる資格を有する。
 小川氏によると、五輪の目的は以下の4つの「ない」によってあらわすことができるという。それは1) 開催国のためのものではない、2) 国同士の争いではない、3) 経済効果を求めてはならない、4)勝つことが目的ではない、の4つだ。
 五輪のホスト国は自らの利益は度外視した上で、オリンピック憲章に則ったオリンピズムの精神への支持を明確にし、持ち出しになることを前提に五輪を開催する。それがホスト国の務めだと小川氏は言う。
 オリンピズムの精神は簒奪され捻じ曲げられ続けてきたが、その物語はまだ生きているのだ。2020年の東京大会はそれを生かす大会となるのか、それを殺す大会となるのかが問われている。
 リオ五輪が終わり日本が2020年の東京大会に向けて動き始める今、五輪ホスト国に相応しい基本的な姿勢と考え方とは何かを訴える小川氏と、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。

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今週の論点
・オリンピックに「恩恵」を期待する欺瞞
・立ち返るべき、オリンピック憲章の根本原則とは
・ホスト国がやってはならない4つのこと
・日本が目指すのは「メダル大国」か、「スポーツ大国」か
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■オリンピックに「恩恵」を期待する欺瞞

神保: 8月にドーピング問題を取り上げたばかりですが、あえてもう一度、オリンピックをテーマに議論したいと思います。今回はリオではなく、2020年東京五輪の話です。国立競技場がどうだとか、コストがどうだとか、さまざまな問題がありますが、根本的に間違った方向に進んでいるように見えるため、まだ4年あるうちに、一度確認したほうがいいと思いました。
 宮台さんは2020年という年に東京にオリンピックが来るということの意義について、どういうふうに捉えていますか。

宮台: 「終わりの始まり」ということでしょう。安倍政権は基本的に、金融政策と財政政策を最も大きな柱のひとつと位置づけており、ある種の財政出動の口実として、最後に成り立つのがオリンピックということになる。しかしその後、恐らくそのような図式はもう維持できませんから、そのような図式のもとで支えられていた日本のレジーム、あるいはエスタブリッシュメントというものはどんどんガタガタになっていくでしょうね。言い換えれば、オリンピックがなければ正当化できない政策がそこまで正当化されて、継続されるということに、滅びの予兆としての意味があるということです。