【開場前】
関係者入口から、まだ開場していないZepp DiverCityへ入ると懐かしい音が聞こえた。
機材トラブルで時間が押して、まだサウンドチェックをしているようだ。
YOSHIKIのドラム復活を生のステージできちんと見届けるためにここへきた。
だからファンと共に、ステージが始まる瞬間を観るつもりだった僕は、懐かしい音に惹かれて近づいた扉を開けるかどうか迷った。
しかし誘惑には勝てない。思い切って扉を開ける。
中へ入ると、懐かしいサウンドチェック独特の空気感が身体を包む。マイクを持ったYOSHIKIが、早口の英語でスタッフに指示を出している。
『WE ARE X』のシーンそのままだが、英語を日本語に置き換えると今度は30年前の懐かしい光景と重なる。
思わずPA卓を探してしまう。30年前の僕だったら、会場中あらゆる場所で音を確認し、エンジニアにオーダーを重ねていくだろう。そう思うと、少し身体に力が入る。
いや、力を入れる必要はない、僕はあくまで見学者なんだ。そう自分に言い聞かせないと身体があの頃に戻ってしまう。それほど、アリーナではない空間で行われるXのライブは特別なのだろう。
ふと予感がしてステージに視線を戻すと、ちょうどマイクを置いたYOSHIKIが突然ドラムを叩き始めたところだった。
驚いたその瞬間の僕は、きっと呆けたような顔をしていただろう。
ただの復活ではない。そのドラミングがあまりにも軽やかで、まるで夢を見ているようだ、と本気で思った。
ほんの少しでドラムを止め、ピアノへ向かうYOSHIKIの背中を見た途端、視界がぼやけた。
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