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第三十三回 投資と国策。売りのサイン

2015/05/17 19:00 投稿

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先月末(2015年4月)、日本の安倍首相が米国を訪問し、議会で演説しました。その内容について、甲論乙駁、毀誉褒貶入り乱れて大変なことになっていますが、その演説の中にこんなくだりがあります。

「 実は、いまだから言えることがあります。 20年以上前、GATT農業分野交渉の頃です。血気盛んな若手議員だった私は、農業の開放に反対の立場をとり、農家の代表と一緒に、国会前で抗議活動をしました。 ところがこの20年、日本の農業は衰えました。農民の平均年齢は10歳上がり、いまや66歳を超えました。 日本の農業は、岐路にある。生き残るには、いま、変わらなければなりません。 私たちは、長年続いた農業政策の大改革に立ち向かっています。60年も変わらずにきた農業協同組合の仕組みを、抜本的に改めます。」(首相官邸ホームページより)

アベノミクスでは、岩盤規制の突破を言っています。それは、規制に守られた産業は一見安寧に見えても、その実は基礎体力が徐々に奪われ衰退するのだ、という考えに依ります。

例えば下図をご覧ください。

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これは、総務省の家計消費調査から取ってきたデータで、2人以上の全世帯の米とパンに支出した金額を、年額の推移図にしたものです。

これをみると、米の消費額はリーマンショックのころにパンと逆転しています。2014年はそれが明快になり、2015年に入ってからの3ヶ月ではその差がかなり開いています。

これが、首相演説の前提となる冷厳な事実です。

自民党政権は過去ずっと農業保護の美名のもと、米の保護政策を続けてきました。また民主党政権下では「戸別補償」などといって、さらに強烈な支援策を行いました。その結果、日本の米は国際価格に対して極端に割高になっています。

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これは、国連のFAO(国際連合食糧農業機関)が公表しているデータベースから取った、各国の生産者米価推移です。

米国や豪州といった、大量生産型の先進国、パエリア食べてるスペイン、あとタイと中国を比較対象としていますが、これらはどこも結果的に似たような水準になっています。

これは、トン当たりの米ドル建てで示しています。従って為替レートの影響を受けますので、リーマンショック後の円高の影響がみられますが、この水準の差をみたらそんな補正なんかする必要もないでしょう。端的に言って一桁違うわけです。

こんなに日本の農家は優遇されている訳です。

その結果、どうなったか。

日本人は米が高いから買わなくなり、パン食に切り替えたようです。

すると、今後一世代もすれば、米なんか食べるよりまずパンだよねという生活を、物心ついたころから当たり前としてきた人たちばかりの国になります。

米食文化は失われて、もう戻ってこないでしょう。

これが、貿易保護政策を取った国家の末路です。保護したはずの産業を永遠に失ってしまうのです。

皆さんが、今後投資を考える際、国策で保護された産業に長期投資をすることは控えた方が良いかもしれません

短期的な売られ過ぎを評価して、リバウンド狙いの中期投資くらいなら止めません。でも、長期にわたる保護政策は産業を殺してしまいます。

当然その産業に属する企業にも未来はありません。業界団体や主要企業の経営者が「国家は我々の産業を保護すべきだ」と言いだしたら、売りサインです。

先日の首相演説は、20年経ってやっとそのことが腑に落ちたと言っているのです。日本の農業のためには、それが手遅れでなければいいのですが。

首相演説では、引用した部分の前段にこんな下りがあります。

「 日本と米国がリードし、生い立ちの異なるアジア太平洋諸国に、いかなる国の恣意的な思惑にも左右されない、フェアで、ダイナミックで、持続可能な市場をつくりあげなければなりません。 太平洋の市場では、知的財産がフリーライドされてはなりません。過酷な労働や、環境への負荷も見逃すわけにはいかない。 許さずしてこそ、自由、民主主義、法の支配、私たちが奉じる共通の価値を、世界に広め、根づかせていくことができます。 その営為こそが、TPPにほかなりません。 しかもTPPには、単なる経済的利益を超えた、長期的な、安全保障上の大きな意義があることを、忘れてはなりません。 経済規模で、世界の4割、貿易量で、世界の3分の1を占める一円に、私達の子や、孫のために、永続的な「平和と繁栄の地域」をつくりあげていかなければなりません。 日米間の交渉は、出口がすぐそこに見えています。米国と、日本のリーダーシップで、TPPを一緒に成し遂げましょう。」(首相官邸ホームページより)

次回は、TPPのキホンについて、お話したいと思います。

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