夜の帳が下りるには、まだ少しだけ早い。店内には、なにかを書き留めている女性がひとり。彼女を横目にみながら、二席空けてカウンターに腰を下ろす。
―――マスター。ドライなマティーニを一杯
「かしこまりました」
「うーん、疲れたー」
―――失礼。物書きの方ですか?
「映画の脚本を書いてて。ちょうど、一段落ついたところです」
―――それはご自身の作品を?
「はい。監督・脚本を担当しているんです」
―――それはすごい。どんな映画ですか?
「『いいにおいのする映画』です」
―――「いいにおいのする映画」......。なんだか、魅力的ですね。それで、タイトルは?
「それが、タイトルなんですよ」
―――ほう。それでは「いいにおいのするウィスキー」を一杯、ごちそうさせてください。
―――ラガヴァーリンの16年。スモーキーでしょう。どうですか? ピートの匂いが......。
「ごめんさない。電話......」
―――やれやれ。携帯電話なんてものが発明されてからというもの、バーでゆっくりと女性を口説くこともできなくなってしまった。
―――ただ、電話をしている女性の横顔は魅力的だ。
「すみません。お話しの途中で」
―――いえ、お構いなく。良ければ、もう少し映画の話を聞かせて頂けませんか?
「魔法使いになることを夢見る女の子が、『光は魔法だ!』って気がついて、照明技師を目指すおはなしです」
―――おじさんにとって、夢見る若い女性はみな魔法使いですよ。
「なんだか映画のセリフみたいですね(笑)。 わたしなら書かないけど」
―――ですよね......。
「けど、恋愛をするならオジサマの方が好きですよ。若い人じゃ物足りないもの。だから、恋人のハードルが上がっちゃうんですけどね」
―――よければ、LINEのIDを交換しませんか? 映画についてもっとお話しをしたいし。
「それは......ごめんなさい」
―――やはりスタンプの大量買いなんてしなければよかったのだ。
2015年夏 劇場公開
音楽・出演は国内外で無二の世界観を展開するブルータスオーケストラVampillia、W主演に金子理江と吉村界人を迎え、あなたを少し不思議な世界へお誘いします...!
様々な美女が登場する「妄想グラビア」は、毎週日曜に公開。おじさんたちは、夢を追いかける若者を応援しています。