ルメールは念願だった日本の騎手免許を2月に取得し、その記念すべきデビュー前夜にネット通信が禁止されている調整ルームで自身のツイッターを更新し、30日間の騎乗停止となった。土曜夜にルメールがツイッターを更新した時点で既に一部ネット上では「ヤバいのでは」と囁かれていたが、翌朝8時頃にあっけなく騎乗停止処分がJRAより発表された。
そこにきて今回は天才・御神本ジョッキーの騎手免許更新不合格処分である。御神本と言えば今は無き島根・益田競馬場の天才ジョッキーだった。売り上げ不振による益田競馬廃止後、御神本の争奪戦は全国の地方競馬はもちろん、なんとJRAも参戦したとの噂が持ち上がり連日スポーツ紙を賑わせた。結果的に大井に移籍となったのだが、これも異例中の異例。南関東競馬が他場の騎手の移籍を受け入れたことにファンは驚愕した。その後の活躍はご存知の通り、重賞の白星を着実に重ね、地方競馬の祭典・JBCスプリントではフジノウェーブを地方所属馬としては史上初の同レース勝利へと導いた。
ちなみに御神本は「みかもと」と呼ぶのだが、移籍当初は俺を含めた競馬場のオヤジ達がその呼び方がイマイチ分からず、しばらく「オガミモト」とか呼んでいた記憶がある。パドックで「オガミモト頼んだぞ」とか「オガミモト、信じられるのはお前しかいない」とか「オガミモトふざけんな、やめちまえ」とか言っていたのだが、今思い出すとそう呼ばれた御神本も神妙な表情をしていたような気がする。
そんな華々しい活躍の裏で御神本は数々の不祥事を起こしてきたことでも知られている。「調整ルームに入らなかった」「指定タクシーに乗らなかった」「調教時間に無許可でコンビニに外出」などで計4回騎乗停止処分、そして今回「部外者を調整ルームへ入室させた」ことで5回目の処分を受けた。その結果3月の免許更新試験(筆記試験、面接試験、素行を考慮)で、見事に不合格、5月一杯で騎手免許失効が決定した。つまり6月以降は南関東競馬で騎乗することが一切できない。さらに他の地方競馬場もここまで問題の多い騎手を採用するのかと言うと、その可能性はかなり低い。天才ジョッキーが今、無職の危機に直面しているのである。
脂の乗り切った33歳。素行の悪さによる5回の騎乗停止処分は前代未聞だが、個人的にこういう騎手は嫌いではない。かつて田原成貴という天才ジョッキーがいた。田原もまた同じく素行は悪かったが田原は常々こう言った。「10万円張れる金があるなら俺の馬に10万円張ればいい。"そういう騎乗"をする」。つまり、我々馬券師にとって大切なのは普段の素行よりもレースでの信頼度であり、田原や御神本はいつだってそれに応えてくれた。何が何でも一つでも着順を上に持ってくる豪腕騎乗。彼らに張って外れたら諦めがつくし、帰りの電車賃すらも張れる数少ないジョッキーだった。そして、そんな御神本の神騎乗がもう見られないかもしれないと思うと、これ以上なく寂しい。
今週は伝統の長距離レース、阪神大賞典。直前で菊花賞馬トーホウジャッカルが回避したが、粒ぞろいの面子が揃った。本命は有馬で重い印を打ったラストインパクトに泣きのもう一手。対抗には腐ってもゴールドシップ、逃げてどこまでメイショウカドマツを推奨したい。馬券的中と共に、夏以降、御神本がどこかの地方競馬場のパドックで「オガミモト」と野次られていることを切に願っている。
2015年3月22日
新爆