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【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第20回】

2013/12/26 00:00 投稿

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はじめから よむ (第1回へ)

「バルトロ、リュシカ、下がってろ。こいつは俺一人でやる」

 アダンがそう言った。

「勇者ともあろうものが、三対一で戦うわけにはいかないだろう。下がれ」

 アダンの言葉に頷いて、バルトロとリュシカが壁際まで下がる。

 しめた。やっぱりこいつくそ真面目だ。一対一なら勝てるかもしれない。何しろこっちにはドレアさんから譲り受けた先祖代々伝わる勇者の証、ヒロイックブレイドがある。今まで使っていた銅の剣とは段違いの攻撃力、そして剣に乗った様々な人々の思いが、きっと僕を強くする。そうだ、僕がやらなきゃ。負けられない。負けるわけにはいかないんだ。

 アダンが剣を抜き、僕の方をまっすぐ見据えて構える。

 そんなアダンの様子を見て、僕もヒロイックブレイドを握りしめ、息を飲む。

 お前はニセモノだ。僕がホンモノの勇者だ。

「否定する奴は、説得しちまえ!」

 そうだよなヨコリン。説得だ。説得してみせる!

 

 アダンが あらわれた!

「おれは ニセモノじゃない!」

「どっちが ゆうしゃに ふさわしいか しょうぶ!」

 アダンは いきなり おそいかかってきた!

 

 そんなに簡単に勝たせてもらえるはずはない。そう思っていた。

 しかしなんとなく、なんとなくながら「負けるはずがない」とも思っていた。

 

 アダンの こうげき!

 ゆうしゃに 26のダメージ!

 

 大人の階段をのぼるたびにレベルアップを重ね、現在の僕の最大生命力は137。

 そうやすやすとはやられない。

 僕はアダンを説得するためにどの呪文を唱えればいいか、極限状態で言葉を選んでいた。

 

 ゆうしゃの じゅもん!

「キミすごいこというね」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「なにがいいたいんだ」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「わりとどうでもいい」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「おぬしもわるよのう」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「いいからおちつけ」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「いちどかえれば?」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「えがおがステキだ」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「キミはじつにバカだな」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「イケメンをなぐろう」

 アダンには きかなかった!

 

 まさか。こいつも。ジョンスと同じ!

 

 アダンの こうげき!

 ゆうしゃに 28のダメージ!

 アダンの じゅもん!

「おれのほうが ゆうしゃに ふさわしいんだ!」

 ゆうしゃに 5のダメージ!

 

 ダメだ効かない。呪文がまるで効かない!

 やっぱりこいつくそ真面目だ、もう何も耳に入ってない。

 かくなる上は、ヒロイックブレイド!

 

 ゆうしゃの こうげき!

 アダンは こうげきを かわした!

 

 えっ。そんな。

 

 ゆうしゃの こうげき!

 アダンは こうげきを うけとめた!

 

 そんな、そんな……バカな!

 焦る僕に、アダンがここぞとばかりに畳み掛けてくる。

 

 アダンの じゅもん!

「おまえの こうげきは かるすぎる」

 ゆうしゃに 12のダメージ!

 アダンの じゅもん!

「そんな こうげき いたくも かゆくもない」

 ゆうしゃに 14のダメージ!

 

 そんな、どうして。ヒロイックブレイドが通じないなんて!

 途端に僕の体がガクガク震え始める。怖い。怖い。怖い。

 僕は。僕はこんな奴に勝てると。負けるはずがないと思っていたのか。どうして。

 ヒロイックブレイドを手に入れたから?

 これを持っていればホンモノの勇者になれると思ったから?

 これを持ってるだけでホンモノの勇者になれると本気で思っちゃったから?

 僕自身が、何も、変わってないのに?

 

 アダンの じゅもん!

「おれが ホンモノの ゆうしゃだ!」

 ゆうしゃに 42のダメージ!

 

 アダンの呪文の威力が高まる。思いの強さがヒシヒシ伝わってくる。

 そうだ、きっとコイツは。本当に勇者になりたくて必死で努力してきたんだ。勇者は血で受け継がれるものだから、アダンには勇者になれる権利がない。それでも諦めきれなくて、訓練をして、腕を磨いたんだ。バルトロはアダンの生き様に胸を打たれたから協力すると誓ったと言っていた。リュシカだって、アダンをそばで支えようと思ったのはきっと、アダンのがんばりが目に見えてわかるほどすさまじかったからだ。手を貸したいと思えるものが、アダンにあったからなのだ。全部僕の想像だけど、そうに違いない。それに比べて僕はなんだ。今まで何をしていた? 部屋の中に閉じこもって、人と話すことすら怖がって、勇者であることにかまけて、何もせずにいたじゃないか。怖い怖いって言ってるだけだったじゃないか。そんな僕が、こんな剣を手に入れただけで調子に乗って。そうだ調子に乗っていたんだ。悪態をついて誰かのせいにして、調子に乗っていたのは僕だった。いつだってそうだった。逃げ続けていたんだ。酒場に来るまで何してた? きっと、勇者であることに、甘えていたんだ。

 どんどん気分が萎えていくのを止める術がなかった。「やればできる」「やればできる」と口に出して唱えたものの、歯止めがきかない。アダンは僕のその隙を、見逃さなかった。

 

 アダンの こうげき!

 あたりどころが わるい!

 ゆうしゃに 61のダメージ!

 

 直前に唱えた「やればできる」の効果があったのだろう。僕は瀕死状態ながら、なんとか生存していた。しかしもう体を支える事ができず、崩れるように倒れ込んだ。かしゃん、という音がしてヒロイックブレイドが手からこぼれ落ちる。熱を持った岩が顔や体に当たる。もう、体が、動かない。

 勝敗は、火を見るより明らかだった。

「みろ、俺の方が勇者にふさわしいんだ」

 アダンが勝利を確信し、僕を見下ろして言った。

「こいつはもらっていく」

 そう言うなり、アダンはヒロイックブレイドを拾い上げた。ダメだ。やめてくれ。それは僕の父さんの形見の。先祖代々伝わる勇者の証の。僕は動かぬ体に鞭打って、アダンの足を両腕で抱きかかえた。それだけはダメだ。他のものは何でもあげるから。それだけは。一生のお願いだ。僕は首をぶんぶん揺らしながら、アダンの足にまとわりついた。

「知ってるよ。これが勇者一族に代々伝わる、剣なんだろう」

 知ってるならどうして。やめて。やめてください。

「つまり、これがあれば誰もが俺を勇者だと認めてくれるわけだ」

 やめて。やめてくださいそれだけは。やめて。本当に。

 

 ゆうしゃの じゅもん!

「かんべんしてください」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「ぼくがわるかった」

 アダンには きかなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「ほんとうに かんべんしてください」

 アダンには きかなかった!

 

 効くはずがないことはわかっていたのに、それでも唱えずにはいられなかった。

 それを持っていかれると。まるで。この身を切られるようだった。いろんな人の思いが、願いが、すべて粉砕されるようないたたまれなさとやりきれなさが僕を襲う。せっかくドレアさんが僕に授けてくれた剣を。ずっと持っていてくれた剣を。取られるなんて。やめて。やめてください。

 アダンはそんな僕の思いを無視するように足を振りほどき、仲間のもとへ戻っていく。

「よくやった、アダン。立派だった」

「おめでとう、アダン。これで……勇者になれたのね。よかった、本当によかった」

 バルトロとリュシカが、うれしそうにアダンに話しかけているのが聞こえる。

 僕の自信が、せっかく芽生えた僕の自信がまた、さらさらと砂になって風に乗って飛んでいくような。そんな映像が頭の中に浮かんだ。消えた。消えてしまった。もう何も残ってない。厳密に言えばあるのかもしれない。銅の剣とか五十ゴールドとか。今まで勧誘した仲間たちとか。でも、そんなもの何もないも同然に感じられた。あるのに、ないと感じてしまうくらい。だって一番大切なものが、目の前で、僕のせいで、奪われてしまったんだ。

 やっぱりアダンが勇者にふさわしいのかもしれない。こんなこと考えたくはないし、決して認めたくはないけど、そう思わざるを得ない説得力がアダンにはあった。仲間に認められ、信頼され、努力に裏打ちされた確かな実力も持っている。

 僕ではやはり、魔王を倒せないのではないか。僕なんかより勇者にふさわしい人物が他にいるのだから、僕が行かなくても、アダンに魔王を倒しにいってもらった方がいいのではないか。ヒロイックブレイドも、アダンの方がうまく使えるかもしれない。そうだ。僕は終わりなんだ。お役御免なんだ。僕の旅は、これで。まだ始まってもいないのに、僕の旅は、これで、終わりなんだな。

 

 ゆうしゃは ぜつぼう した!

 ゆうしゃは つよい せいしんてきショックを うけた!

 ゆうしゃは しんでしまった!

 

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・原作となるアプリはこちら(iPhone、Androidに対応しております)

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