【 はじめから よむ (第1回へ) 】
揃った! これで仲間が三人揃った!
僕は天を仰ぎ、目を閉じて小さくガッツポーズした。こんなにうれしいことがあるのか。今まで何かをやり遂げたことなんて一度もなかったから、目標を達成するということがこんなにうれしいことだとは。初めて知った。感激だ。あ、やばい、なんか涙が出そう。
魔王討伐の第一段階をクリアし、体中を包み込む達成感にもう少し浸っていたい気持ちもあったが、それでも人が苦手なのはまだ変わらない。今だって、酒場にいるのはどうも居心地が悪くて、ふわふわした気分だ。早いところ酒場を出て落ち着けるところを探して、少し休んで出発しよう。
いや待てよ。それより今日はいったん解散して帰って休んだ方がいいかもしれない。マカロンもポマードもイルーカさんも、きっといったん帰って旅支度とかしたいだろう。そうだ、そうしよう。それでまた明日この四人で集まって、夢にまで見た冒険の旅を始めよう。よし、そうと決まれば早速……
「おいオマエ、どこに行く気だ?」
酒場を出ようとしたところをヨコリンに呼び止められる。なんだよ一体。
「オマエ、もう魔王討伐に行く気か?」
行く気ですけど。そりゃそうでしょう。仲間は三人集まったんだもの。
「たまたま入口の近くにいた奴らの寄せ集めで、魔王討伐に行く気か?」
……いや、それは。
「そんな適当に選んだ仲間で、魔王を倒せると思ってるのか?」
適当じゃない。僕が必死で説得して、それでようやく仲間になってくれたんじゃないか。
「オマエまた死にたいのか?」
死にたくはないよ。死ぬのはもう、二度とごめんだ。
「もう一度聞くぜ! そんな適当に選んだ仲間で、魔王を倒せると思ってるのか?」
……わからない。わからないけど、マカロンはいい子だし、ポマードはちょっと口が悪いけど根は優しい奴らしいし、イルーカさんの腕っぷしは相当のものらしいからな。僕は見たわけじゃないから知らないけど。
そうか。知らないのか。まだ僕は、仲間のことをほとんど何も知らない。上っ面で、さっき初めてちょっとしゃべったくらいのメンバーだ。これで旅立てなくもない。旅をしながらお互いのことをわかっていけばいいと思ってたけど、それでもし「この人とは合わない」なんてことが発覚したらどうしよう? それがもし、魔王の城の直前だったら? 戦えるだろうか?
「一緒に旅する仲間はね、強いとか弱いとかそれ以前に、ウマが合うかどうかが大事なの」
ドレアさんが僕に教えてくれた言葉が頭をかすめ、じわじわと胸が締めつけられる。
さっきイルーカさんを説得している時、僕はポマードに対してイライラしていた。それは僕がコミュニケーションを取るのが苦手だから、ポマードとまだ仲良くなっていないせいもあるとは思うけど、命の奪い合いになる極限状態で、もしこの先またああいうことが起こったら。
ポマードだけじゃない。僕が知らないだけで、イルーカさんにもそういう面があるかもしれない。マカロンにもあるかもしれない。もちろんそんなもの、ないかもしれない。今言える確かなことは、「どちらの可能性も、ある」ということだけだ。
こんな事を考え出したらキリがない気がした。僕はまたうつむいてしまい、床を這うようにチラチラと目線だけを動かしていた。
「オマエ、まだ二階に行ってないだろ?」
ヨコリンは続けざまに言い放った。
「この酒場にいる全員を吟味して、もっとも信頼のおける仲間を選ぶべきじゃないのか?」
「オレサマは、そう思うぜ!」
わかる。どうしようもなく嫌だし、できればわかりたくないが、痛いほどわかってしまう。
ヨコリンの言う事も、もっともだ。全員を見てから仲間を決めた方がいい。
ということは、まだ。まだ続けなければいけないのか。この勧誘を。
さっきまで爽快感に満ちあふれていた僕の体が憂鬱に襲われ、途端に重たくなる。
もうやらなくていいと思ったのに。地獄だ。ちくしょう。帰りたい。
一度は帰れると思ったのに帰れなかった時、人間は想像以上にダメージを受ける。
がっかりしちゃうからです。今の僕がまさにそうです。
でも二階で終わりだ。もう少しなんだ。限りなく重い足取りで、上へまいり、たくない!
【 第11回を読む 】
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