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【RPG小説】あなたってよく見るとドブネズミみたいな顔してるわね【第11回】

2013/12/05 00:00 投稿

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4章 人の心はダンジョンなのさ

 

はじめから よむ (第1回へ)

 マカロンとポマードとイルーカさんを一階に残し、僕はひとり階段を登っていく。

 二階にいる冒険者を全員勧誘すれば、もうここで人と話す必要はない。その揺るぎない事実が、僕の気持ちを少しだけ楽にした。折れそうな気持ちを奮い立たせながら一歩一歩階段を登り、僕は酒場の二階に到達した。まではよかったのだが。

 

 ゆうしゃは おとなのかいだんを のぼった!

 ゆうしゃは レベルが あがった!

 

 なぜこのタイミングでレベルが上がる!

「これはオトナの階段だぜ」

 僕の脇からひょいと顔を出してヨコリンが言う。お前はなぜついてくる。

「オトナの階段を登ることで、オマエはひとつオトナになるんだぜ!」

 なんなのですかそのシステム。普通レベルが上がるのってモンスターに勝った時でしょ。大人の階段っていうかこれ酒場の階段じゃないですか。腑に落ちない点が多数存在する上に、まだしつこくちょっかいをかけてくるヨコリンが非常に煩わしい。もし僕が凄腕の弁護士だったらコイツの発言の矛盾を片っ端から全部論破してスッキリ爽やかな気分になれるのにああもういいや全部無視しよう。

 

 二階には、三人の冒険者がたむろしていた。

 バニーガール。酔っぱらい。なぜか上半身裸でブーメランパンツの男。

 三か。数字的には悪くない。

 ただ、気になることが一つある。あの男がなぜブーメランパンツ一丁なのかという事も気にはなるがそれは今はノーカウントで、気になるのは「音」のことだ。どこかで工事をしているような騒音が絶えず聞こえてくる。なにこれ? 何の音だ? 一階にいた時は全然気づかなかったけど。まあ多分それは僕がいっぱいいっぱいだったからまわりの音なんて耳に入ってなかったんですね。とにかく今大事なのは仲間の勧誘だ、音なんてどうでもいい。

 今度こそ本当の終わりだ。勧誘の終わり、冒険の始まり。期待と不安に胸を高鳴らせ、僕は三人の冒険者の様子をチラチラ横目で見ながら観察した。覚えた呪文の中で何が効きそうか、見た目で判断できないだろうか? そういえばさっきの戦闘で「にのうでさわらせて」とかいうヒドい呪文を覚えたけど果たしてあれを使う機会はあるんだろうか?

「お! お前! 初めて見る顔だな!」

 急に話しかけられ、ビクッと体を震わせる僕。そして目の前には、上半身裸の男!

 

 ダイゼルが あらわれた!

 ダイゼルが はなしかけてきた!

「みよ! この じょうわんにとうきん!」

「ゆれる こうはいきん! こうはいきん!」

 ダイゼルは きんにくを じまんげに みせつけてきた!

 ゆうしゃは なにをいえばいいのか まよわなかった!

 ゆうしゃの じゅもん!

「にのうでさわらせて」

 ダイゼルの こころにひびいた!

 ダイゼルに 64のダメージ!

 ダイゼルは たおれた!

 

 お前「にのうでさわらせて」効くのかよ! 使う機会あったよ! 即訪れたよ!

「お前、なかなか見どころがあるな。ほら触れ、やれ触れ、好きなだけ触れ」

 倒れた男がすぐさま起き上がり、万華鏡のように次から次へとポーズを変えながらすり寄ってくる。初めて体験する筋肉万華鏡により、うなぎのぼりの不快指数。

「俺の名はダイゼル。戦士だ。よろしく」

 

 ダイゼルを せっとくした!

 ゆうしゃは「やなことでもあったの」を おもいついた!

 

「もう説得したのか! 幸先いいぜ! どんどんいけ! どんどん!」

 ヨコリンがぴょんぴょん飛び跳ねながら声援を送ってくる。ああ、誰か僕に「やなことでもあったの」を唱えてくれませんかね。きっと今の僕の心に響いて響いて仕方ないはずだ。

「おい、そこの兄ちゃん!」

 うわっ、はいっ、今度は何。慌てて振り返ると今度は酔っぱらいがこっちを見ていた!

 

 ドンペリが あらわれた!

 ドンペリが はなしかけてきた!

「さけだ! さけ もってこい!」

 ドンペリは からの ジョッキを ふりまわしている!

 ゆうしゃの じゅもん!

「やなことでもあったの」

 ドンペリの こころにひびいた!

 ドンペリに 67のダメージ!

 ドンペリは たおれた!

 

 危なかった。運がよかった。話しかけられた順番に救われた。「やなことでもあったの」を覚えた直後だったから、突発的だったにも関わらず僕にしては珍しく呪文の選択がスムーズにできた。怖かった。自分を褒めてやりたい。酔っぱらいは声もでかいし、何を言ってくるかわからないから怖いのだ。

「やなことなんか腐るほどあるよ、やなことだらけだよ! チクショウめが!」

 酔っぱらいは体をぐらぐら揺らしながら、テーブルを思い切り叩いた。

 その後も酔っぱらいは「俺は命令されるのが大嫌いなんだ」だの「俺は正しいんだ」だの「俺以外の全員頭が悪い」だの、とりとめのない不平不満をグチグチ言い続けていたので僕は怯えていた。やはり中年のおじさんは面倒臭い。こんな大人にだけはならないようにしよう。

 酔っぱらいを刺激しないように、僕はフヘヘヘヘヘと半笑いでその場をとりつくろい、最後に残ったバニーガールの前に歩を進めた。一気に二人を攻め落としたことで、僕の気持ちは少し大きくなっていた。この流れに乗ったまま、勢いで最後の女性も、オトす!

 

 レオノラが あらわれた!

 レオノラが はなしかけてきた!

「ねえ あなたは いっしょにいるなら どんなひとが タイプ?」

「わたしは やっぱり いっしょにいるなら おとこらしいひとが いいなあ」

 レオノラは ゆめみる おとめの めつきをした!

 ゆうしゃの じゅもん!

「おれがまもってやる」

 レオノラの こころにひびいた!

 レオノラに 60のダメージ!

 レオノラは たおれた!

 

 おおお、わ、やった! やったぞ! 完全にマグレです。勢いに乗った自分、恐るべし。ちょっと調子に乗りたくなっちゃうほどのスピードクリアに僕は明らかに興奮していた。やればできるんだ。今まではやらなかっただけなのだ。これで酒場にいる全員の冒険者を勧誘し終わった。おめでとう僕。ありがとう僕。ベストメンバーを吟味して、ついに旅立ちだ!

 喜び勇んで階段を下りようとしたまさにその時だった。僕はある「異変」に気がついた。

 登り階段ができている。

 目を疑った。この酒場は二階建てだ。それはもうずいぶん前からわかっていたことだし、なによりさっき初めて二階に上がってきた時にはこんな階段なかった。一階に続く階段の脇に、上の階に続いているであろう、新たな階段が現れたのだ。

 僕はまるで吸い寄せられるように、ふらふらとその階段を登り、少しだけ上を覗いてみた。

 上の階にも、人がいた。

 なぜ。どうして。まさか。どういう原理で。夢なのかこれは夢なのか?

 あまりの理不尽さに驚き、目の前に起こった状況が受け入れられるはずもなく、僕は転がり落ちるように階段を下りて一階に戻り、ドレアさんの前でジタバタと体を動かした。ドレアさんはなんとなく僕の用件を察したようで、ふふっと笑みを浮かべた後、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに熱っぽく話し始めたのだった。

「酒場の経営が軌道に乗って儲かってるの。だから増築してるのよ」

 ぞ、ぞ、ぞ、ぞぞぞぞぞ、増築?

「昔からね、大きなお店を持つのが夢だったの」

「夜景の見えるレストランフロアも作りたいわね!」

 そんなに儲かっているようには見えなかったが、イルーカさんは壊した酒ダルの代金を破産するほど取り立てられたようだし、ドレアさんには商才があるのかもしれない。一階の壁はすぐに穴が空きそうなほど朽ちかけていたけど、それを補修する費用すら惜しんで増築のためのお金を貯めていたのかもしれない。まあ増築はわかった。わかりました。でもなんで増築されたフロアにすでに人がいるわけ? 早すぎるよね? なんなの君たち? 光よりも早い新し物好きなの? 勇者の旅には、不可解なことが山ほど起こるようです。

 もとは二階までしかなかったんだから、もう勧誘はいいだろう。僕は逃げるように酒場から出ようとした。が、しかし。

「おいちょっと待てオマエ!」

 やっぱりか。やっぱりお前かヨコリン!

「オレサマの言ったことを忘れたのか? この酒場にいる全員を吟味しろって言っただろ?」

 言った。忘れてない。忘れてないけどそんな、最初は二階までしかなかったのにズルイよ。二階までだと思ったからあんなにがんばれたのに。聞いてない。詐欺だ。この後出しジャンケン酒場め!

 

 ゆうしゃは にげだした!

 しかし ヨコリンに まわりこまれてしまった!



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・原作となるアプリはこちら(iPhone、Androidに対応しております)
http://syupro-dx.jp/apps/index.html?app=dobunezumi

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