【悪辣 第一話 登場人物】

框屋悪之介(かまちや・あくのすけ)……峠の茶屋にて旅客狩りに遭う。東雲屋鬼灯という青年と共に、悪辣街へと向かう。

店主……峠で茶屋を営む男。

お千代……茶屋で働く御茶子の娘。

賊匪(ぞくひ)たち……茶屋で旅客を装いながら、追剥を働く輩。悪之介を襲う。

東雲屋鬼灯(しののめや・ほおずき)……茜屋蘭十郎より命を受け、悪之介を連れて悪辣街へと向かう。

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圧政によって民を苦しめた支配政権「幕府」が、「時代の御破算」と呼ばれる倒幕クーデターによって崩壊となり、幾年月が経つ。そこにあるのは、自由を求めた倒幕の志士「御破算党」によって、すべての法と秩序が放棄された地上の楽園のはずであった。

だが、万里同風を望む民衆の願いも虚しく、自由の旗は暴虐の色に彩られる。法と秩序の失われた地では、弱き者が強き者に喰われる弱肉強食の理「滅正義」が横行した。やがて、「滅正義」の世は「悪辣世」と呼ばれる無法の時代へと突入する。蔓延るは、生き残るためならばいかなる手段も厭わぬ、悪漢外道の無頼たち。

人々は畏怖の念を込め、その無頼たちを──悪辣──と呼んだ。