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中国 王毅 外交部長の要求を冷酷に利用することこそが戦略|THE STANDARD JOURNAL 2

2016/05/03 11:01 投稿

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おくやま
 です。

すでにご存知かもしれませんが、
北京を訪れていた岸田外相が
カウンターパートである外交部長の王毅(おうき:Wang Yi)と昨夜会談し、
彼から日本に対して、国交関係改善のための
「4つの要求」をされたというニュース (http://goo.gl/DxufZe)
がありました。

この4つの要求ですが、まとめますと、

1)歴史を反省し「一つの中国」の政策を厳守すること
2)「中国脅威論」や「中国経済衰退論」をまき散らさないこと
3)経済面で中国を対等に扱うこと(後進国扱いするな?)
4)国際・地域協力で中国への対抗心を捨てること

という中国のエゴ丸出しのもの。

これに対する日本側の反応は、当然のごとく
「日本国民の神経を逆なでするものだ」
というものであり、

「なんて上から目線だ」
「その反対のことを主張してやれ」
「言いっ放しにされている外務省は役立たずだ」

というコメントがネット界隈でも多く見られます。

もちろん私も最初にこの中国側の厚顔無恥な声明を聞いたときに、
まさに同じ様な感想を抱いたわけですが、
同時に戦略を考える身として、こう考えます。
それは、

「戦略家としてはこの国民に湧き上がる感情を利用しなくてはならない」

ということです。

すでにお読みになった方は十分ご存知かと思いますが、
私が編訳したルトワックの『中国4.0』では、
大国が「激情」に襲われて大きな間違いを犯した例として、
日本やアメリカの過去の例を引き合いに出しながら、
中国の「2.0」という自滅的な戦略への転換を挙げております。

つまりルトワックによれば、
中国は2008年のリーマン・ショック後に
「西洋列強から受けてきた“百年恥辱”を今こそ晴らさん」
という激情に襲われて、
積極的かつ攻撃的な対外政策(2.0)に
舵を切ったということなのです。

もちろんこれは計算されていたものではなく、
むしろその異様な大国意識のおかげで
中国は周辺国の警戒感を呼び起こしてバランシングを受けることになり、
以前よりも弱い立場におかれるようになった、
というのがルトワックの分析です。

ようするにここでルトワックは、えてして
「大国の抱える集合的な激情は、国の進路や戦略を誤らせるものである」
というネガティブな意味でとらえており、
これに警戒しなければならないと示唆しております。

そこで、私はこの「激情」について
もう一つ別のことを指摘しておきます。

それは、

「戦略家として、この激情をどう利用するかを考える」

ということです。

たとえば冒頭に紹介した王毅の「逆なで発言」ですが、
これによってわれわれが
冷静に考えなければならないことが2つあります。

1つは、王毅がこれを国内向けに言っており、
日本国民よりも中国人民や共産党幹部向けに
<プロパガンダ>として発言している、という事実です。

これは中国という不安定で
独裁的な体制の国家としては当然であり、
外交部の人々にとって、
非常に帝国的で大国意識(中華思想)の強い
国内の聴衆に向けて、

「日本に対してズバッと言ってやりましたよ」

とアピールすることは必須なのです。

そして、もう1つ。
日本の戦略担当者たちが考えなければならないのは
この「王毅逆なで発言」にムカッときた(=激情)
日本国民やメディアを、
いかに利用して日本の国益にかなう方向に仕向けるか、
ということなのです。

マキャベリズムです。

リアリズムをベースとした戦略家に求められるのは、
このような激情に安易に同調するのではなく、
むしろ、その波をチャンスとして捉え、
いかに利用すべきか?を考えることです。

「戦略思考」という言葉を最近よく耳にするようになりました。

この言葉を見聞きして
「戦略は権力者のものだから、自分とは関係ない」
と感じるかたがいるかもしれません。

しかし、「戦略を考える」というのは、
あくまでも自分がそれを動かす立場であればどうするのか?
つまり「当事者」として物事を考える。

自らを「庶民」ではなく「為政者」、
「フォロワー」ではなく「リーダー」として
冷静・冷徹に状況を判断するということです。

これは特定の立場の人間ということではなく、
誰にとっても必要なことではないでしょうか?

   - * - * -

さて、冒頭の話題にもう一度戻りますが、

中国の王毅の要求はたしかにけしからんです。
しかし、そこから生じたエネルギーをいかに利用するのか?
ということを、第三者的な目で冷静に考える。
これこそが「戦略家」の真骨頂です。

われわれが戦略思考を磨くために
ここで一番求められるのは、
この「けしからん!」という<激情>から一歩引いてみて、
どのように自分の<利益>につなげていくのか、
という冷血かつ冷酷な視点なのです。

以前、"尖閣での漁船の体当たり映像"
の流出の件などありましたが、
日本側がこのような事案を扱う場合、
すぐにガス抜きされてフラット化されてしまいますが、
こういったいくつかの映像、
例えば、反日運動のデモ映像などを集積しておいて、
さらなる国民の反中国気運が溜まった時に、
これまでの日本の中国への貢献などと合わせて、
報道するのも一つの手段です。

このような冷酷な「プロパガンダ視点」で外交を考えることも、
これからの日本人には求められてくるのではないでしょうか。


(おくやま)
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