おくやまです。
私が翻訳したロバート・カプラン著の
『南シナ海:中国海洋覇権の野望』ですが、
すでにお読みになられた方もたくさんおられるのではないでしょうか。
そして、実は私はすでに、
カプランの次の本の翻訳のプロジェクトにも
かかわっております。
その本は、2012年にアメリカで出版された
地政学そのものに関する本です。
原著のタイトルは
「The Revenge of Geography」
(http://goo.gl/6WzPkq)なので、
直訳すれば『地理の復讐』という感じですが、
日本語翻訳版の邦題は、
『地政学の逆襲』(!)というものになりそうです。
これは地政学を長年研究してきた人間としては、
実に喜ばしい限りのタイトル。
この本について、私がどのように関わっているのか?
というと「訳者」というわけではなく、
「解説」および「訳語の専門用語の監修」という立場です。
実は「南シナ海本」を必死で翻訳している時に、
突然、出版社の担当編集者からご連絡があり、
二つ返事で依頼を受けたというわけです。
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さて、この「地政学本」では、当初、カプラン自身に
イントロダクションを書いてもらう予定だったそうですが、
カプラン氏自身は、もちろん、非常に多忙な人物です。
それならば、ということで、
私が彼に電話インタビューをして、
それをまとめたものを本のイントロとして使おう
ということになったようです。
そして、先日、その電話インタビューを行ってきました。
(実は、前回の生放送の前日でした。)
そのインタビューのテーマは、
もちろん、「地政学本」の解説がメインでしたが、
私の個人的な興味の面から、本とは関係のないことまで
根掘り葉掘り(無駄なことを?)聞いてみました。
それでハッキリと分かったことは、
なぜ彼は、これまで「地政学的」ともいえる本を
次々と出してきたのか?という点です。
私が感じたところでは、それは、
彼の「ジャーナリスト」としての個人的な体験でした。
彼はそもそも80年代から紛争地でのレポートなどを
「アトランティック・マンスリー」という有名な月刊誌に
何度も投稿している典型的な
「戦場ジャーナリスト」でした。
ところがそのような「現場」について報告を書くだけではもの足りなくなり、
訪れた国の歴史や、国際関係の理論などについても
独学で学び始めたとか。
しかしそれでも彼の中では「何かが違う」と納得できないことばかり。
それもそのはず、そのような歴史や国際関係の理論には、
彼が現場で生々しく感じた
「地理」(geography)
という要素が決定的に欠けていたからです。
そこで彼は国際政治の中でも彼の得意とする
安全保障の分野の動きにおける「地理」の役割について追及しているうちに、
19世紀末から20世紀前半にかけて研究されていた、
「地政学」(geopolitics)
について書いていた人々の文献に行き着いたとか。
これらを読むに連れて、カプラン自身は
地政学(グローバル+地理+戦略)的な発想をする人間を
高く評価するようになったといいます。
これには、マッキンダーからスパイクマン、
キッシンジャーからミアシャイマーまで、
いわゆる「地政学的」な思考がベースにある人々の文献が含まれ、
実際に彼もこれらを丹念に読み込んでいったとか。
カプランの本の書き方は一種独特なもので、まず上のような
「地理が国際政治の安全保障の考慮の中で決定的に欠けている」
という大きな問題意識を、まず短い論文として書いて、
いずれかの媒体に投稿することから始まります。
そして、さらにその問題意識を補足するような形で、
歴史を調べたり、現場に行って直接色々な人の話を聞いていくというものです。
こうして書き上げたものが、
私が翻訳をした『インド洋圏~』や『南シナ海~』であり、
そして次に出る『地政学の逆襲』になるわけです。
このような執筆のプロセスがあるからこそ
カプランの著書が単なるジャーナリストによる「旅行記」ではなく、
文学や歴史、そして戦略分析までが詰め込まれた、
かなり独特な味わい深いものになっているのです。
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例えば、次に出る本のイントロダクションでは、
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「太陽系の圏外に人工衛星を飛ばし、
金融市場やサイバー空間には国境すらないこの時代にあっても、
(アフガニスタンとパキスタンにまたがる)
ヒンドゥークシュ山脈は、手強い障壁なのだ」
という印象的な言葉があります。
グローバル化で地理が消滅した現在だからこそ、
その根本に横たわってわれわれが行動をある程度規定されている
「地理」という条件を忘れてはならない。
だからこそ「地政学」の知識は全く色あせていない・・・・
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アメリカでは、カプランのような人物が、
実際に政府にアドバイスをしているという現状を見ると、
「地政学」の知見は、今でも脈々と生き続けているのだ、
と改めて納得しました。
最後に彼に近い将来の予測について聞いてみると、
彼が最も懸念している国として挙げたのは、なんとベネズエラ。
そしてその次がヨーロッパ連合(EU)でした。
これらはいずれも経済状態が思った以上に思わしくなく、
とくにベネズエラのほうは政治上不安が激化する恐れが大きい
と考えているようでした。
まだまだこの辺については
色々と書きたいことがあるのですが、続きは次回にまた。
( おくやま )
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