おくやまです。

先日、私のブログにて、マイケル・グリーンが共同執筆で発表した、
「集団的自衛権行使容認についての議論の”ウソ”」
というタイトルの記事を要約したところ、
「ブロゴス」などにも転載されて非常に話題となっているようです。

http://geopoli.exblog.jp/22942741/

これについては「よくまとまっている」「賛成だ」という意見から、
「マイケル・グリーンは日本を操っている人間だから
 賛成するのは当たり前だ」
というもの、そして左派の方々の中には
「なっとらん、政府の見解の書き写しだ」というものまで、
実に様々な見解が出ております。

これに関して私は個人的な見解として、

1,アメリカが中東で撤退しつつある、
2,右も左も議論が噛み合っていない

ということを簡単に述べたわけですが、
ネット上で私の別のTweetの反応の中に、

「基本的にアメリカは日本の瓶の蓋を自認してるから、本質はラスボス」

という面白いコメントが。

ちなみに、「ラスボス」というのは
ビデオ・ゲーム一般ではお馴染みの言葉で、
一番最後の最強の大ボスの存在のことですが
確かに、アメリカは国際政治の中でもボスキャラ級。

これが、ゲームの世界だと、
主人公の日本が、最後に悪のアメリカ(笑)を倒せば、
ゲームをクリアーして、世界平和が・・・
というシナリオかもしれませんが、
もちろん、現実の世界ではそんなことにはなりません。

国際政治の複雑さというものがあるわけですが、
今回はこれを「戦略の階層」の要素なども絡めつつ考えてみます。

いきなり結論から言ってしまいますと
「アメリカというラスボスを倒す!」というのは、どうも都合が悪い・・・
ということになるのです。

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前回のメルマガで、
「経済相互依存を深めれば戦争は起こらない」とする
日経新聞のコラムにツッコミを入れました。

そして、「ネオ・リアリズム学派」の大御所である
ウォルツ教授の議論などを援用して、
「むしろ経済相互依存は戦争の原因になる」
ということを論じたわけです。

ところが、たとえばウクライナでも
戦っているのはウクライナの正規軍と
ロシアの出先機関のような武装集団であったり、
南シナ海ではフィリピンやベトナムと中国の船同士がぶつかっておりますが、
それでも大規模な戦争には至っておりません。

つまり、現実の世界では
(とくに大国同士の)大規模な戦争というのは起こっておりません。

「それってやっぱり(グローバル化による)
経済相互依存が深まったからじゃないの?」

というツッコミが入りそうなのですが、
だからこそ、肝心になってくるのが、もっと根本的なレベルでの話です。

国際政治の「現実」として<大戦争が起こらない理由>
というのがありまして、特に日本国内のマスメディアなどでは、
意識的か否かは定かではありませんが、
軽視されているポイントがあります。

それが、

<<ラスボスとしてのアメリカという圧倒的な存在>>

という点です。

曲がりなりにも現在圧倒的な存在であるアメリカが、
世界に対して何を提供しているのか?というと、
それは、<海軍力によるグローバル化の土台>です。

「え?奥山さん、それってなんのことですか?どういう意味ですか?」

という人もいるかと思いますが、これはどういうことか?というと・・・
先日読んだある文献の中に、わかりやすい話がありましたので、
それをご紹介します。

「米海軍はシーレーンを守ることによってグローバル化を担保しており、
 しかも我々はそのプロセスから他のどの国よりも恩恵を受けているのです。
 我々にとって、アメリカとその莫大な安全保障体制というのは、
 全く不安を感じさせないものであり、そこに陰謀などは感じないのです」

これはシンガポール軍高官のコメントですが、
彼らは多かれ少なかれ、
「圧倒的なアメリカ」という存在が、
世界の秩序の安定とグローバル化に寄与していることを
実感しているということです。

つまり世界の安全保障関係者は、
紛れも無く、このことを感じているわけです。

ちなみに、今回の本論からは少し外れますが、
大戦争が起こらないもう一つの理由というのがありまして、
それが、核兵器の存在です。

核兵器というのは、少なくとも、その強力な破壊力によって
人類最悪の「使えない兵器」となっておりまして、
とくに核保有国同士は、
互いに軍事衝突をエスカレートさせないように
慎重な態度をとるようになっております。

その典型が、90年代のパキスタンとインド。
また最近の中国も、核保有国であるアメリカが
南シナ海でどのような動きに出てくるかを
慎重に見極めているところがあります。

そしてロシアや北朝鮮に対する
アメリカの腰の引けた態度というのも、
その根本的なところには、
「相手が核保有国である」という認識があるのです。

日本国内では、この件、色々と物議を醸す話題ですが、
誤解と批判を承知であえて言うと、
大きな戦争を止める力があるという意味では、
核兵器は「平和の兵器」とも言えるのです。

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さて、ここまでの話を踏まえて、
この「ラスボス」の話を「戦略の階層」で考えてみましょう。

一般的に「ゲーム」というのは、<戦術>レベルの話です。
ラスボスに戦術的に勝てば、「勝利」が得られます。
ラスボスを倒せば、ゲームをクリアしたことになり、
そこには平和な未来が待っている・・・
定番のストーリーとして、
概ねそのような設定になっております。

ところが現実の国際政治は違います。

アメリカというラスボスを、もし本当に倒してしまったら、
国際政治はどうなってしまうのでしょうか?

言うまでもなく、現実政治はそのまま続きます。
そして、やってくるのはカオスな世界。
「世界は大混乱に陥る」ということです。

現実の国際政治では、ラスボスのような存在が
国際関係の「秩序」を保っているパターンが多いというは
前述の通りです。
つまり、当のアメリカが好むと好まざるにかかわらず、
アメリカは「世界の大黒柱」的な存在になってしまっているのです。

では、この大黒柱が倒れたらどうなるのか・・・
古代中国の春秋戦国時代や、日本の応仁の乱でもわかるように、
中心的な存在が倒れると、そこにはカオスが待っているのです。

現実問題として現状においては、
<<世界の大黒柱はアメリカ>>ということを
淡々と認める必要があります。

※加えて、大戦争を防いでいるのは核兵器である、
という事実も同様です。

リアリストたる我々としては、善悪の価値判断などは一先ず置いて、
「何が世界のパワーバランスを維持しているのか?」
ということを冷静に見つめる勇気を持たなければならないのです。

( おくやま )








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