おくやまです。
今回もまたウクライナ情勢です。 すでにご存知の方もいらっしゃると思いますが、 海外メディアでは、今回の危機の後に 国際政治にどのような変化が出てくるのか? という分析がいくつか出てきております。 その中でも私が興味深いと感じたのは、 ロイターの記者が書いた 「ウクライナ危機が世界に及ぼす10の変化」 という記事です。 ※ ちなみにこれは私のブログの方にも 要約・翻訳したものを掲載しております。 ご興味のあるかたはこちらもぜひお読み下さい。 ▼地政学を英国で学んだ http://geopoli.exblog.jp/22375804/ ※ この中で、今回とくに注目したいのは、 国際政治におけるとても重要な「メカニズム」 について述べている箇所です。 これはこの記事中の「10の変化」のうちの 第7番目のものとして挙げられてものですが、 具体的にその箇所を引用します。 === (7)EUの団結強化: 一時的かもしれないが、EUは 共通の外敵のおかげでまとまりを見せており、 これによって長期化したいくつかの問題を 解決できるかもしれない。 レベッカ・ハルムズ欧州議会議員は、 「EUに共通の戦略を与えてくれた」という意味で、 今年のヨーロッパ統合に貢献した人物に与えられる 「カール大帝賞」の受賞者に、 プーチン大統領をノミネートしてはどうか、 と冗談を言ったほどだ。 === いきなりこの箇所だけ読まされると、 「は???なんですか、これは?・・・」 となる人がいるかもしれませんので、簡単に解説します。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- 今回の「ロシアによるクリミア併合」でピークを迎えた ウクライナ危機ですが、これはEUを始めとする欧米諸国に、 良い意味でも悪い意味でも「危機感」を与えてくれました。 その危機感から何が発生したかというと、具体的には <ロシアという"共通の敵”> という意識です。 これによって、少なくとも地続きの「脅威」を感じた西欧諸国は、 一致団結してまとまることができたわけです。 ヨーロッパでは毎年、 「ヨーロッパの統合」に貢献した人物を称える記念賞として、 「カール大帝賞」(the Charlemagne Prize) というものが授与されることになっております。 ドイツのアーヘン市が主催しているものなんですが、 過去の受賞者にはクリントン米元大統領や トニー・ブレア英首相(いずれも当時)などもおりまして、 その受賞者は厳密にはヨーロッパだけに限らない、国際的な賞です。 これを踏まえた上で、 ドイツのレベッカ・ハルムズ欧州議会議員が冗談として、 「今年のカール大帝賞のノミネートにはまだちょっと早いけど、 EUに新たな戦争の脅威を感じさせて 共通の戦略を与えてくれたという意味で、 われわれはプーチン大統領を推薦するべきかもしれないわ!」 と発言したようです。 彼女の言葉は冗談であったとしても、 実はここにはとても重要な「真実」が含まれております。 ※ むしろ、このような「冗談」にこそ 「真実が」含まれていることの方が多い、 というのが私の持論なのですが。 ※ ここで、もはや「アメ通」読者の皆さんにとっては すっかりお馴染みの「リアリズム」的に考えると、 国際政治における「共通の敵」という存在は、 非常に大きな役割を果たすことになるからです。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- さて、なぜ「共通の敵」が重要なのでしょうか? それはあの地政学の祖であるハルフォード・マッキンダーが 似たようなことを述べていたからです。 マッキンダーは古典的名著である 『マッキンダーの地政学』(原題:『デモクラシーの理想と現実』) ( http://goo.gl/v62vtM ) ヨーロッパ人が「ヨーロッパ」という共通意識を持てたのは、 西や南から侵入してくるモンゴル人や 異教徒であるトルコ人のような外敵、つまり 「共通の敵」 があったからだと断言しております。 具体的にその箇所を引用しますと、 === 時にはぞっとするような不愉快な人間が、 敵を団結させるのに有益な社会的役割を果たすこともある。 ともかくヨーロッパで文明が花開いたのは、 あくまでも外民族の野蛮な行為にたいする抵抗の歴史を通じてだった・・・ 事実、ヨーロッパの文明と称するものは、 とりもなおさずアジア民族の侵入にたいする、 ごくありきたりの意味の戦いの産物にほかならなかったからである。 (p.255) === 国際政治を「戦略的」に考える人にとっては これは非常にベーシックな発想です。 さらにもう一つの例を挙げてみます。 私が翻訳した『自滅する中国』の原著者、 エドワード・ルトワックという戦略家が、 数年前に日本に講演で招かれて来たときのこと。 普段から、大胆な物言いで知られる彼は、 日米豪を始めとする多くの知識人や研究者たちの目の前で、 「中国はありがたいですよねぇ。彼らが暴れてくれているから、 われわれはこうやって互いに集まって話をできるわけですから!」 と、屈託なく言い放っておりました(笑 この発言自体は、軽いリップサービス的なものでしたが、 ここには、我々日本人にとっては、 極めて大事な国際政治の「事実」が潜んでおります。 国際政治においては、往々にしてこの「共通の敵」の存在が、 同盟や国内をまとめるための強力なインセンティブになる ということは上述の通りですが、皆さんはもうお気付きですね。 そう、それは我々にとっての、 「中国」という「共通の敵」の存在です。 -:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:- この「共通の敵」という考え方は、 あくまでも外交的な「ツール」なわけですから、 これを「使おう」と意図する側にとっては 有利な「ツール」になります。 逆に、使われてしまった側にとっては不都合なことになります。 現在の日本を取り巻く状況下で、 このことを端的に表していることがあります。 皆さんもよくよく御存知の「歴史問題」です。 彼らは日本を「共通の敵」に設定して、 ここから共闘戦線を張っているのです。 これは、日本にとってはあまり芳しくない状況です。 というのも、単純なバランスからいえば、 そもそも国際的な発言力を見れば2(中韓)対1(日)ですから、 声のデカさが問われる発信力(倫理戦)ではなかなか勝てません。 では日本としてはどうすればいいのか。 一つは同じように「共通の敵」をつくることによって、 中韓を分断するというやり方があります。 ・韓国を封じ込めたい時は、中国と一緒に韓国を「共通の敵」にしてしまう ・中国を封じ込めたい時は、韓国と一緒に中国を「共通の敵」にしてしまう という当たり前のやり方がありますし、 北朝鮮という「ジョーカー」的なカード(笑)を使う、 というやり方もあるでしょう。 要するに、日本が行わければならないのは 「敵をまとまらせない」ということであり、 国際政治史は、とどのつまりはこれを防ぐために、 各国がしのぎを削ってきたプロセスの歴史である と言っても過言ではありません。 誰が「敵」なのか、そしてそれを使って 誰と誰をどうまとまめるのか。 国際政治というのは、このように リアリスト的なインセンティブが常にうずまく、 危険なデスゲーム(死亡遊戯)なのです。 ( おくやま )
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スタンダードジャーナル編集部
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