噺家には誰しも、自分なりの得意ネタってのがあるもんです。得意ネタがあるって事は、苦手なネタもあるって事(こ)ッて。あたしなんざ持ちネタの殆どが苦手なネタなんですが、その中でも特にこれはってのが『蟇(がま)の油』。そう、蟇の油売りの口上を朗々と言い立てる、お馴染みの演目です。二ツ目の終わりの頃か真打になりたてだったか、独演会で演(や)ったんです。ところがね、口上の途中で言葉が出てこなくなっちゃった。仕方ない、一からやり直したんですが同じ所でまた絶句。何度かやり直して結局出来なくて……もうあのネタはトラウマです。でも久々にリベンジしてみよっかな。ん~……やっぱ怖いなぁ。 
週刊文春デジタル